年齢を重ねると、「やりたいことがあるのに体力がついてこない」と感じることがありませんか。
疲れやすさや風邪をひきやすい体質などに悩んでいるけれど、「自分の体力の状態や改善法がわからない」といった人も多いでしょう。
そんな悩みに応えるために、トレーナーと医師が一緒に考案した「体力を底上げする習慣と運動法」を紹介したのが本書です。
集中力や行動力が上がる「体力づくり」のヒントを、すべての人に向けてお届けします。
※本連載は『体力おばけへの道 頭も体も疲れにくくなるスゴイ運動』から一部抜粋して構成された記事です。
「少しずつ新しい刺激を」漸進性過負荷(ぜんしんせいかふか)の原則
この本で紹介するエクササイズは、スクワットのような下半身を中心とした全身運動が中心です。
体力向上に直結する科学的根拠があり、自宅でも安全に実施できるよう構成されています。多くの指導経験を持つパーソナルトレーナー澤木が、効果と継続性を重視して選び抜いた内容です
エクササイズの前にまずはこの章で、理論を理解していきましょう。
なぜなら、理論を知っているのと知らないとでは運動の効果が全く変わってくるからです。
体力を高めるためには、「毎日コツコツ頑張ればいい」というだけでは不十分です。実は、体を変えていくには〝ちょっとした工夫〞が必要です。
その代表的な考え方が「漸進性過負荷の原則」です。これは簡単に言うと、「体に、少しずつ新しい刺激を与え続けよう」というルール。つまり、〝昨日よりちょっとだけ大変なこと〞を積み重ねていくことが、体力づくりには不可欠なのです。
たとえば、最初にスクワット10回やって「ちょっとキツいな」と感じたとします。これを毎日続けていくうちに、次第に慣れてきて「10回ぐらいなら楽勝」と思えるようになります。ここで多くの人がやってしまうのが、「そのままの内容でずっと続ける」ことです。でも、体はとても賢くて、同じ負荷にずっとさらされると、それに完全に適応してしまい、筋肉や体力はそれ以上伸びません。つまり、「同じことを繰り返しているだけでは効果が下がってしまう」ということです。
これが「漸進性過負荷の原則」の出番です。大切なのは、ほんの少しでもいいので、今より〝ちょっとだけ〞負荷を高くすること。その小さな変化が、体にとっては「新しい挑戦」となり、成長のスイッチが入るのです。
負荷の目安は、「ちょっとキツい」と感じる程度。たとえば、スクワット15回やったときに「最後の3回くらいはちょっと頑張ったな」と思えるくらいです。運動を終えたときに「よし、いい汗かいた」と思えて、翌日に疲れが残らない程度。これが理想的な負荷感です。
「ラクすぎてもダメ、キツすぎても続かない」。このバランスがとても大切です。
無理をすると怪我につながったり、やる気がなくなってしまったりするので、あくまで〝少しずつ〞を意識しましょう。
- 「ちょっとずつ負荷を上げる」具体的な方法
では、実際にどうやって負荷を高めていけばよいのでしょうか?
いくつかの簡単な方法をご紹介します。
1 回数を増やす
スクワットを10回やっていたなら、12回、15回と、少しずつ増やしてみましょう。
2 セット数を増やす
1セットだったのを、2セットに。間に1分休憩を入れても大丈夫です。
3 動作のスピードを変える
通常の筋トレでは、ゆっくりしゃがむ、ゆっくり戻す。本書のエクササイズでは時間内により多くのエクササイズを行う、というようにスピードを変えるだけでも、負荷はぐっと高まります。
4 動きの幅を広げる
膝を深く曲げる、腕を大きく振る。可動域を広げると、体の使い方が変わってきます。
5 ちょっとした道具を使う
ペットボトルを手に持ってスクワットする、水の入ったバッグを肩に乗せてみる。家にあるもので簡単に負荷を足すことができます。
これらの方法は、すべて「少しだけの変化」で済みます。負荷を大きくしようと焦る必要はありません。むしろ、少しの変化をコツコツ重ねるほうが、長く続き、体への負担も少なく、結果的に大きな成果につながります。
「もう歳だから負荷をかけるのはちょっと……」と思うかもしれませんが、それは誤解です。実は、筋肉も心肺機能も、年齢に関係なく向上することが科学的に証明されています。世界中の運動指導のガイドラインを出しているNSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)やACSM(アメリカスポーツ医学会)でも、漸進性過負荷は全年代において最も大切な原則だとされています。
つまり、50代でも60代でも70代でも、「ちょっとずつのチャレンジ」を続けていれば、体はしっかり応えてくれるということです。
- 未来の自分は、今日の「ちょっと」でつくられる
「昨日よりちょっとだけ頑張る」。たったそれだけの積み重ねが、3か月後、半年後には、「あれ? こんなに歩けるようになった」「階段がラクになった」と、はっきりとした変化になって表れます。反対に、ずっと同じことを繰り返していても、体は現状維持のまま。せっかくの努力がもったいない結果になってしまいます。
体力を上げたいなら、「負荷はちょっとずつ」が鉄則です。気合いも根性もいりません。「いつもより少し重い」「いつもより少し多い」「いつもより少し深く」―その〝ちょっと〞が未来のあなたをつくっていきます。
まずは今日、いつもの運動に「あと1回だけ」「あと1秒だけ」の変化を加えてみてください。その一歩が、あなたを〝体力おばけ〞に近づけてくれます。
体力は、一生の財産になる
体力とは、若さの象徴ではなく、人生を楽しむ力のこと。年齢に関係なく育てられ、そしてあなたを守り、支え、導いてくれる一生の財産です。
この本がきっかけとなり、「自分も変われる」と思えたなら、もうあなたの中には〝体力おばけ〞の芽が育ち始めています。
これからも、あなたのペースで、無理なく、でもあきらめずに、体を動かし続けてください。
人生100年時代。これからが本番です。
未来の自分を笑顔にするために、今この瞬間から、できることを始めていきましょう。あなたの体は、きっと応えてくれます。