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子どもの健やかな成長を願う、正月の楽しみ&正月遊び


正月の楽しみ

 大きな獅子の頭をかぶって舞い踊る獅子舞は、正月を盛り上げる伝統芸能ですが、獅子に頭をかまれると、その一年を元気に過ごせるといいます。お年玉や、初夢、書き初め⋯⋯。正月の楽しみには、健康や幸せを祈願するさまざまな由来やいわれがあります。

 新たな年をつつがなく健やかに過ごせますように、という願いは、大人にも子どもにも共通するものではないでしょうか。子どもたちが元気に遊ぶ姿は微笑ましく、まるで正月の晴れやかな喜びそのもののようです。

 年賀状 
親戚や友人知人、日頃お世話になっている方に、正月三が日にあいさつに伺うことを、お年始といい、そのときの贈りものを、お年賀といいます。遠方にいたり、都合が合わなかったりしてお年賀に伺えないときに、代わりに新年のごあいさつを便りで送るようになり、それが年賀状となりました。




 初夢 
新年に見た夢で吉凶を占う初夢も、正月の楽しみの一つです。元日から二日にかけての夜、または二日から三日にかけての夜に見るのが初夢とされます。縁起のいい夢といえば「一富士、二鷹、三茄子《なすび》」ですが、日本一の富士山に、強さの象徴の鷹、「なす」=「成す」の語呂合わせで成功を示唆する茄子、どれも吉運を運んできてくれる夢の知らせに違いありません。

いい初夢を見る方法
せっかく見るなら、縁起のいい初夢を、と願う気持ちは昔の人も同じだったようです。七福神が勢ぞろいした宝船の絵に「なかきよのとおのねふりのみなめさめなみのりふねのおとのよきかな」(長き夜の遠の眠りの皆目覚め波乗り船の音の良きかな)という歌を書いて枕の下にしのばせ、寝る前にこの歌を三回唱えると、きっといい初夢が見られる、という言いならわしがあります。 それでも、もし悪い夢を見てしまったら、宝船の絵を川に流して、悪い夢を水に流しましょう。ちなみに歌は回文になっていて、上から読んでも下から読んでも同じという、ちょっと不思議な文です。

 

 お年玉 
子どもにとって、お年玉という特別なお小遣いは、何よりの正月の楽しみかもしれません。そんなお年玉ですが、もともとはお金ではなく餅でした。鏡餅に宿る年神さまの生命力をおすそ分けしたのが、お年玉。年神さまの気を賜《たまわ》るものなので「賜る」=「たま」=お年「玉」となったそうです。お小遣いをあげるようになったのは、昭和30年代から。意外と最近ですね。




 書き初め 
書や絵が上達しますようにと、一月二日に書き初めをします。新年の抱負を書いて、目標成就を願うことも。松が明ける日(一月八日や十四日、十五日など地方によって異なります)に、左義長(どんど焼き)という大焚き火をしますが、そのとき書き初めしたものを火にくべて、灰が高く昇るほど、書や絵の腕前が上がるといわれます。




 着衣《きそ》始《はじ》め 
正月という一年の大きな節目に、晴れ着を身に着けることは、月日の流れの折り目を肌で感じ、心で受け取り、日頃の暮らしにひとつの区切りをつける意味があるのではないでしょうか。去年までの時間に一区切りつけることで、また新しい年をまっさらな気持ちで迎えられることでしょう。新春の新しい着物のことを春着《はるぎ》といいます。そんな春着を正月三が日のうちの吉日に初めて着る、着衣始めというならわしがありました。




正月の遊び

 時代が変われば、遊びも変わるものですが、昔ながらの玩具に親しむのも正月ならではの楽しみではないでしょうか。今度の正月は、何をして遊びましょう。

 羽根つき(羽子板) 
厄をはねのけるといって、羽根つきには、厄払いや健康祈願の意味がありました。遊び方には、二人で代わるがわる羽根をつき合う「追羽根《おいばね》」と、一人で羽根をくり返しつき続ける「揚羽根《あげはね》」があります。羽根は、ムクロジの木の実に鳥の羽をつけたもので、トンボに似ていることから、羽根をつくと蚊よけになるといったそうです。いろんな病を運んでくる蚊を追い払うので、子どもが健やかに育つというわけです。華やかな絵で彩られた羽子板は、東京の浅草寺で開かれる羽子板市など、年末の歳の市で正月の縁起物として並びます。




 凧あげ 
もともと「イカのぼり」と呼ばれたのが、やがて「タコあげ」とも言うようになったとか。なんでも江戸時代に大流行して、大きな凧が屋根を壊したり、城内に落ちたり⋯⋯トラブル多発。とうとう禁止のお触れが出たところ、それでも遊びたい江戸っ子が「これはイカのぼりじゃありません。タコなんです」と言い訳したという話も。高く上がる凧は立身出世などに縁起がいいとも、新年に空を見上げると健康にいいともいわれます。

 独楽《こま》回し 
くるくるときれいに回る独楽の姿から「物事がうまく回る」、「お金が回る」に通じるといって、正月の縁起物とされています。どれだけ長い時間回っていられるかを競ったり、回る勢いで相手の独楽をはじき出す相撲をしたり、空中で回して手のひらに乗せたり、遊び方は色々です。




 福笑い 
輪郭だけ顔を描いた紙の上に、目も鼻も口も眉毛もばらばらになった絵のパーツを、目隠しして並べる福笑い。予想外の顔ができあがって、正月の初笑いを誘う遊びです。江戸時代に何色もの色を使った「錦絵」という木版画が普及したことで盛んになったとか。

 かるた・百人一首 
かるたという言葉は、ポルトガル語の「carta」(札)から来ました。いろはがるたは、ことわざの札と、ことわざを絵解きした絵札を対にして、読み上げたことわざと同じ絵札を取り合う遊びです。百人一首も、歌がるたといって、かるた遊びの一つです。和歌に歌人の絵を添えた読み札と、下の句が書かれた取り札をセットにして、和歌を読み上げたら、すばやく取り札を取り合います。楽しみながら和歌やひらがなを覚えられるかるたは、子どもも大人も一緒に楽しめる正月遊びです。




季節の楽しみ

 二十四節気でいうと、正月三が日は、冬至の季節にあたります。前年の十二月二十二日頃に、一年のうちでもっとも昼が短く、夜が長い冬至の日を迎えてから、新年の一月五日前後までの約半月間が、二十四節気における冬至です。

 これからだんだん昼が長くなっていくことから、陰きわまって陽に転じる「一陽来復」と呼ばれる時期でもあります。この「一陽来復」には、悪いことが続いた後は、物事がよい方へ向かう、という意味もあります。

 旧暦には、二十四節気よりさらに細やかに一年を七十二の季節に分けた、七十二候という暦もあります。そんな七十二候の新年の幕開けは「雪下麦を出だす《せっかむぎをいだす》」という季節です。降り積もる雪の下でも、ちゃんと麦は芽吹くという、小さな生命への祝福のような意味が込められています。

 そのように見てみると、旧暦の二十四節気と七十二候によれば、新年を迎える頃とは、しだいに陽気が高まる中で、すくすくと新しい可能性が芽吹いていく季節ではないでしょうか。

 新年が健やかで、素晴らしい年となりますように。


参考文献:民俗学研究所編『民俗学辞典』(東京堂出版)、笹間良彦『日本こどものあそび大図鑑』(遊子館)

写真:PIXTA
 


【プロフィール】

白井明大(しらい・あけひろ)

詩人。1970年生まれ。詩集に『心を縫う』(詩学社)、『生きようと生きるほうへ』(思潮社、第25回丸山豊記念現代詩賞)など。『日本の七十二候を楽しむ』(増補新装版、絵・有賀一広、KADOKAWA)が静かな旧暦ブームを呼んでベストセラーに。季節のうたを綴った絵本『えほん七十二候 はるなつあきふゆ めぐるぐる』(絵・くぼあやこ、講談社)や、春夏秋冬の童謡をたどる『歌声は贈りもの』(絵・辻恵子、歌・村松稔之、福音館書店)、詩画集『いまきみがきみであることを』(画・カシワイ、書肆侃々房)など著書多数。近著に、憲法の前文などを詩訳した『日本の憲法 最初の話』(KADOKAWA)、絵本『わたしは きめた 日本の憲法 最初の話』(絵・阿部海太、ほるぷ出版)


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