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嫁入り早々大引っ越し『インド嫁1年生、異国生活奮闘記』ためし読み!

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23歳という若さでインドへ嫁ぎ、日本の常識が1ミリも通用しない異国の地で暮らすことになった「嫁カレーチャンネル」さん。夢見た新婚生活とは裏腹に、現実は毎日が想定外の出来事の連続でした。戸惑い、悩みながらも、持ち前の明るさで自分の居場所を築こうとする、現在進行形のリアルな異国生活奮闘記をお届けします。

連載第2回は、序章「⽂化の渦に巻かれて、⽇常を作り出す⽇々」の中から「嫁入り早々大引っ越し」を紹介します!

※本連載は『インド嫁1年生、異国生活奮闘記』から一部抜粋して構成された記事です。


嫁入り早々大引っ越し

 もう十一月だというのに、寝起きの身体は少し汗ばんでいた。
 額にまとわりついた髪をかき分けると、目覚めの悪さに自然と眉間に皺しわが寄る。
 それもそのはず、外の気温は三十五度前後。カーテンもエアコンもない部屋で、天井のファンすらつけずに爆睡していたのだ。
 おまけに、夫のさっちゃんと横並びで寝ていた買ったばかりのソファベッドが、夜中にバキッと音を立てて脚の一本がもげ、私たちは床に放り出された。
 飛び交う蚊を恨みながら、明け方まで修理に追われ、ようやく床に就いた頃には、外のクラクションと人々の声がだんだん大きくなり、その音で目が覚めた。
 だから当然、爽やかな朝が訪れるはずもない。

 デリーから約千二百キロ離れた、グジャラート州スーラトまで引っ越してきた私たちは、カーテンやエアコンを含む家具家電の早急な設置を心待ちにしていた。
 しかし、待てど暮らせど業者は一向にやって来ない。
 途中で宿泊を挟みながら三日間、私とさっちゃん、義母マンミー、そして愛犬マッチャの三人+一匹で、生活必需品をすし詰め状態で車に載せ、気が遠くなるほど長い高速道路をひたすら走ってやって来た。
 長距離移動の疲れもそれなりに溜まっていたものの、到着当日にはそれぞれの業者に依頼の連絡を済ませていたというのに……。

 依頼時はどの業者も決まって「オーケー! 明日か明後日、すぐ行くよ!」と口を揃えて自信満々に言うが、まず約束通りに来ることはない。
 辛うじて、壁掛けテレビを設置してくれる業者が約束通りやってきたが、テレビの角度が明らかに左右で傾いている状態で取り付けてしまうし、なんとかカタコトのヒンディー語を駆使して水平に設置し直してもらったものの、最終的にはネジの代わりにその辺に落ちていた紙くずを代用して「オーケー! 完成!」と言って大仕事をやり終えたかのような爽やかな笑顔で帰ってしまう始末だった。
 その時の彼の笑顔があまりにも爽やかすぎて、「ひょっとしたらこの紙くずを丸めてネジの代わりに隙間を埋める方法がプロ的に一番的確な措置だったのか?」と一瞬でも思ってしまったが、当然ながら彼が帰って三十分も経たないうちに、紙くずはひらりと床に舞い落ち、彼の仕事の出来に首を傾げるかのようにテレビの画面も傾いた。
 室内の片隅に転がっている電源の入らないエアコンに至っては、設置の段階で「室外機をベランダに置くと景観が損なわれるからダメ」と、突然大家に拒否された。
 契約時には「設置問題なし!」と堂々と言っていたくせに……。
 おいおい、この灼熱大国のインドでエアコンがつけられないなんて! しかも理由が「景観」って、下手すれば暑さで人の命に関わるってのに、ちょっと優先順位がおかしいんじゃないかい!?
 インド育ちのさっちゃんや義母マンミーは、暑さにある程度の耐性があるかもしれないが、メイドインジャパンの私は明らかに一夏越せずにオーバーヒートしてしまう未来しか見えない。
 周辺のアパートはどの部屋もベランダに室外機がついているし、冬でも暑いこの地域ではエアコンが必要になってくるだろう。
 そこで、同じアパートの他の住人はどうしているのか気になって、業者に聞いてみることにした。すると、驚くことに、私たちの部屋だけが「設置に不向き」だと言うのだ。
 それなら景観を損ねず、設置に適した他の部屋を紹介してくれと交渉してみたのだが、他の部屋は埋まっていてこの部屋しか紹介できないと断られてしまった。
 建てたばかりのアパートで、明らかに人が住んでいない部屋がたくさんあるというのに……?
 それに一階のロビーなんて、エレベーター入り口の真ん前に欠けたコンクリートの破片がゴロゴロと転がっていて工事中だし、工事資金が集まらないという理由で未だ手付かず状態だ。
 もはや契約時の「エアコン設置OK! 追加料金一切なし!」というセリフが嘘だったことは明らかで、大家に対する不信感はどんどん募っていった。
 挙げ句の果てには「四万三千ルピー(日本円にして約八万円)の追加料金を払ったらエアコンを設置してもいい」という条件に加えて、「追加料金で設置したパイプやコードは、退去時には置いていけ」だなんて、理不尽すぎる条件を言い渡される始末。 

 ……なるほどね、最初から設置準備ができていなかったのをごまかして、費用を私たちに押し付けようとしていたのか。
 そうと分かれば、仲介業者を通さずに直接交渉だ!
 速攻アポを取り、大家の部屋に突撃するも、案の定「追加料金払え」の一点張り。
 追い返されるように外につまみ出され、帰り際にふと大家のベランダを見てみると、がっつり室外機が二台設置されていたもんだから、もう戦う気力も失せて、暑さのことはクルフィ(注)を食べて忘れるしかなかった。

 こうして私は、片っ端からクルフィの味を試し、最終的に「ケーサルクルフィ(サフラン味)」にどハマり。
 冷凍庫に一リットルのストックを常備するまでに成長した。
 この暑さも、ケーサルクルフィを引き立てる最高のスパイスに思えてくるほど、私は見事クルフィ狂へと進化したのだった。
 ……しかし、冷凍庫のクルフィが切れるたびに、現実に引き戻された。

 引っ越しから一ヶ月経った今でも、家具家電の半分が未だに使えないままだ。
 日本では契約ひとつで当たり前のように滞りも無く進むことも、ここではそう単純にいかない。それが、当たり前なのだ。
 インドでは「最初に言ってたことと違うじゃないか!?」という出来事が本当によくある。
 もちろん、お金目当てで嘘をつく悪質な人も一部いるが、それはどの国にもいる話。問題は「ごく普通のインド人」が、悪気なく約束を守らないことだ。
「いつ来てくれるの?」と聞けば、本音は「分からない」のに、「オーケー! 明日か明後日か、すぐにでも行くよ!」と答えてしまうことがある。
 これは、最初から「分からない」とか「すぐには行けない」とか「できない」と言うと、親切な対応ではないと考える、インド流の優しさなのかもしれない。
 ただその優しさが、結果に結びつくことはほとんど無いというだけで、彼らの基準で彼らなりに真摯に対応しているという訳だ。
 マイペースな国民性も相まって、あまり時間や正確性に縛られない感覚が、さらに混沌を極めているのかもしれない。

 時間や正確性に縛られない感覚は、インドの言葉からも感じ取ることができそうだ。
 たとえば、インドの公用語・ヒンディー語のkalという言葉をご存じだろうか。 
 ヒンディー語では「昨日」と「明日」を同じ言葉、kalを使って表すのだ。
「一昨日」と「明後日」も同様に、parsonという言葉が二つの意味を担っている。
 これを知った時、「それで意味が通じるの!?」と、驚いたのだが、さっちゃん曰く、過去形なのか未来形なのか文脈によって、判別できるということだ。
 つまり「今日」を軸にどれだけ離れているかという感覚で捉えているらしいのだが、そんなところにも「時間」に対する価値観の違いが表れているのかもしれない。

 インドに住んでいると一日一回以上は予期せぬ出来事やトラブルに見舞われるため、一日に予定していた計画の三割が達成出来たらまだ良い方だ。
 残りの七割の為に確保していた時間は、なんやかんやトラブル対応しているうちに一瞬で過ぎ去ってゆき、気づけば一日が終わっていた!なんてことがしょっちゅうである。
 だから、週をまたぐド級の遅刻をかます業者にも、「きっと彼にも何かあったんだよね。うんうん」と、同情しつつ許すしかない。
 ……とはいえ、その遅れのしわ寄せは、当然こちらに回ってくる訳で、そのしわ寄せを抱えたまま、今度は別の誰かを待たせる側になっている。だから結局のところ、私たちも「マイペース」の渦の一部になっているのだ。


(注)インドのアイスクリーム。甘味をベースに、スパイスやフルーツなど色々なフレーバーがある。


驚きと笑いの連続!インドの家庭で見えた「素顔」

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