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子どもの夏休みの宿題のなかでも、親の参加度が高いもののひとつが「読書感想文」ではないでしょうか。そこで今回は、SAPIXなどで講師をつとめ、現在は独自の読解メソッドで中学受験のコーチングを行っている齊藤美琴さんに、読書感想文の書き方や子どものサポートの仕方、本選びのコツまで、とことん教えていただきました。
「本気で読書感想文に取り組むなら、夏休みまで時間がある、いまから始めるのがおすすめ」と齊藤さんが話すように、夏休み前に読書感想文をスタートさせましょう!
■ 思いや考えを言語化する「読書感想文」
子どもが「この本が好き」という気持ちを言語化するのが、読書感想文です。中学受験の国語では、文章を客観的に読む力が求められますが、読書感想文では「自分が思ったこと、感じたことを言葉にする力」が求められます。
好きを言語化するためには、「子どもの心が動いた本」を選ぶことが肝心です。初めて読む本を題材に読書感想文を書くのは、じつはとても難しいこと。手垢がつくほど繰り返し読んでいる本や、子どもの記憶に強く残っている本のほうが、読書感想文を書くにはおすすめです。
たとえ好きな本を題材にしても、「なぜその本が好きか」を言葉にするのは、子どもにとって簡単なことではありません。読書感想文を書くためのシートなどもありますが、シートを書くこと自体、子どもにとってはハードルが高いのです。無理に自力で取り組ませて読書感想文を嫌いになってしまうより、「その気持ちを一緒に言葉にしてみよう」と親子でじっくり取り組むほうが、その先のひと伸びにつながります。
親の干渉には賛否ありますが、今回のように親が積極的に関わることで、「思ったことを言葉にできた」という体験ができることに意味があります。
■ “中学受験のプロ”が伝授!読書感想文に取り組む5STEP
「子どもだけでやりきることを重視するより、親子でじっくり取り組むほうが、子どもの成長につながります」と齊藤さん。具体的な読書感想文の書き方と、親のかかわり方について教えていただきました。
STEP.1 付箋を使って「切り口」を決める
私がおすすめしているのは、「付箋をつける」方法です。本を読みながら、登場人物に共感したところや、違和感をおぼえたところなど、心が動いたところすべてに付箋をつけます。
最後まで読み終わったら、付箋をつけた箇所から、とくに心が動いた5ヵ所を選びます。このとき、付箋の色を変えて仕分けるのもいいですね。たとえば、登場人物に共感したところや筆者の考えに賛同するところは青、登場人物の言動に違和感をおぼえたところや筆者の主張に反対するところはピンクなどと色分けすると、わかりやすくなります。
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STEP.2 親が子どもに「インタビュー」する
次に、子どもに取材するようなイメージで、なぜ付箋をつけた箇所が印象に残ったのかを親が聞き取りして、メモをとります。もちろん子どもに意欲があれば自分で書かせますが、目的優先で親がメモを取ってしまっても良いです。「どうしてここが印象に残ったの?」「他の本と違うと思ったところはある?」などと質問して、子どもの考えを掘り下げていきましょう。
子どもが言葉に詰まるようなら、親の考えを話すのもいいですね。親の感想に子どもが同意するようなら、「じゃあ、これも足しておこうか」とメモに書いて加えましょう。
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STEP.3 子ども自身のエピソードを加えて、全体の構成を決める
続けて、本に共感した部分に着目して、登場人物と同じようなことを感じた出来事など、子ども自身のエピソードを加えていきます。共感に限らず、自分だったらこうだろうなと置き換えて考えたことも書きやすいですね。エピソードを加えにくい箇所は、思いきってカットしていいかもしれません。そうして、本の中から「自分を重ねられる部分」を見つけていきます。
エピソードを足して書く材料が揃ったら、メモを並べ替えて、文章の構成を考えます。順番を入れ替えていくと、「最後に伝えたいこと」がおぼろげに見えてくるはずです。「本を読んで、これからこうしたいと思った」と、本から得た気づきと自分の変化でまとめてもいいですし、「この本のこの部分がすごくよかった、いい時間が持てた」という感想で締めくくってもいいですね。子どもがクロージングを思いつかないときは、親が選択肢の形で提案していきましょう。書き方の選択肢が増えることで、子ども自身の「こう書きたい」が浮かび上がってきます。
STEP.4 下書きをスタート。言葉にできないときはアドバイスする
全体の構成が決まったら、下書きをします。いざ書き始めると、子どもが自分の思いをうまく言葉にできず、行き詰まることがあるかもしれませんが、そんなときこそチャンスです。「それって、◯◯ってこと?」と適切な言葉に言い換えたり、一緒に辞書をひいたりして、子どもが感じていること、考えていることを言葉に置き換える手伝いをしてあげましょう。子どもの頭の中にある辞書が豊かになっていきます。
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STEP.5 親子で読み直し、より良い文章へ
もっと良い書き方ができるかも、という目線で一緒に読み直しをしましょう。まずは、子ども自身に音読させるのをおすすめします。親からの指摘なしでも誤字に気づいたり、言い回しがおかしいと感じたり、と気づきがあるはずです。また、親が感じた具体的な改善ポイントもこのタイミングで伝えます。 このとき大切なのが、事前に内容をチェックするとあらかじめ合意しておくことです。内容確認は、必ず手直しできる段階で行いましょう。
子どもが下書きを見せたがらないことがあるかもしれませんが、そんなときは、大人もまわりの人の力を借りて、資料や文書を作っていることを伝えましょう。私が教え子によく伝えているのが、「プロの作家も、編集者からアドバイスを受けて手直しして、よりよい作品にしている」ということです。こうした話をすると、多くの子どもは文章に手を入れることを嫌がらなくなります。「ここがよくなったね」「どうしてこう書いたの?」「ここはもう少し説明を加えて広げようか」などと話して、内容をブラッシュアップしていきましょう。
ただし、「どうせ親が手直しするから適当でいいや」と子どもが手を抜くようなら、むしろ親は介入しないほうがいいですね。いろいろ試したけれども、うまくいかない。そう子どもが感じている状態で親が介入するのが望ましいです。どこから子どもにまかせるかは、学年や、書くことへの慣れによっても異なります。親子で対話しながら、子どもの「こう書きたい」を形にしていけるといいですね。
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■ 読書感想文に向いている本とは?
「読書感想文がうまくいく最大の秘訣は、『余裕があるうちに取り組む』こと」と齊藤さん。夏休みが始まる前のいまから、本探しを始めるのがおすすめなのだそうです。続けて、本の選び方と、齊藤さんが読書感想文におすすめする本についてお話を聞きました。
■ 子どもの「心が動く」おすすめの本3選
本を選ぶときのポイントは、子どもが自分を重ねやすい本を選ぶことです。登場人物の年齢が子どもと近かったり、育った環境が似ていたりするものがいいでしょう。
そのうえで、ゆくゆく中学受験にも役立つことを見据えるのであれば、本のどこかに子どもがざらっとした違和感をおぼえたり、問題提起の要素があったりするものもいいでしょう。こうした条件を踏まえると、次の3つはおすすめです。
①『透明なルール』(佐藤いつ子著)
中学生の友人関係をみずみずしく描いた作品です。主人公の優希、ギフテッドの愛、自己主張が苦手な誠、そのほかのクラスメイトの心情も詳しく書き込まれていて、「うんうん、わかる」と子どもが共感できる箇所が多いと思います。クラスにおける同調圧力がテーマになっていて、いい意味で「ざらっとする感じ」を味わえるので、読書感想文にも向いていると思います。
佐藤いつ子さんの作品は中学受験の国語問題で頻出しています。一文が長すぎなくてテンポがよく、カジュアルな言葉もよく使われているので、小学校高学年の子どもには読みやすいはず。男の子には、サッカークラブに所属する男子中学生が主人公の『キャプテンマークと銭湯と』もおすすめですよ。
②『この夏の星を見る』(辻村深月著)
コロナ禍を題材に、中学生・高校生の3人の話がクロスオーバーする物語です。今年の高校入試で頻出した話題の作品で、2024年の中学受験でも取り上げられています。子ども自身のコロナ禍における思いをのせやすく、読書感想文向きの一冊です。
400ページを超える長編なので、読み終えるには時間がかかりますが、登場人物3人それぞれの目線で構成されているので、長い文章を読む力があれば、飽きることなく最後まで読みきれると思います。感想文は誰か一人の目線に絞って書くといいですね。大人も楽しんで読める一冊なので、家族みんなで読んで、感想を話し合うのも楽しいですね。
③つばさ文庫
宮沢賢治や芥川龍之介などの名作は、ハードカバーの全集よりも、かわいいイラストの表紙がついたつばさ文庫のものから選ぶと、子どもが受け入れやすいと思います。読みやすい文字組で漢字にルビがふってあり、子どもに配慮した表現を使用するなど、さまざまな工夫がされています。原爆・戦争などをテーマにした作品や、世界の名作などに触れるはじめの一歩として活用するのもおすすめです。『四つ子ぐらし』シリーズや『ぼくら』シリーズなどに馴染みのある子どもであれば、「次はこれ読んでみたら」とそっと名作を置いてみるのもひとつの方法だと思いますよ。
■ 親子で同じ本を読んで感想を言い合おう
「読書感想文は、1年を通じて取り組めること」と齊藤さんは話します。親があらすじを知っているような名作を題材にしたり、親子で同じ本を読んだりして、ふだんから本の感想を親子で話し合っていると、読書感想文がグッと書きやすくなるそうです。
「親子で同じ本を読んで、親も読書感想文を書いてみる、というのもいいですね。ガッツリ関わることになるので親の手間は増えますが、親が汗をかけば、子どもの力は必ず伸びます」と齊藤さん。夏休みが始まる前に、まずは本選びから始めてみましょう!
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【プロフィール】
齊藤美琴
中学受験のコーチングをメインに、教科指導、幼稚園・小学校受験の相談など、家庭の力を引き出すレッスンを行う。SAPIXの個別指導部門・プリバート東京教室での国語科専任講師、ジャック幼児教育研究所(四谷教室)での講師を経てフリーランスとして独立。読解トレーニングときめ細かい学習コーチングに定評がある。2022年に渋谷ヒカリエ8階のシェア型書店に『みこと書店』をオープン。PICCOLITA(ピッコリータ)代表。
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