KADOKAWA Group

Children & Education

子育て・教育

【前日は『行く』と言うのに、朝になると『行かない』と言います】『不登校をチャンスに変える一生モノの自信の育て方』ためし読み


不登校のお悩みは千差万別。お子さんと向き合う中で、うまくいかないことも、どうすればいいのかわからなくなることも多いと思います。本連載では、元小学校教師で、無料のオンラインフリースクールの代表として不登校支援に取り組む福田遼さんが、家庭でできる関わり方について、わかりやすくお伝えしていきます。保護者のみなさんからよく寄せられるお悩みをピックアップし、それぞれの困りごとに対する具体的な対応策をご紹介。困ったときにガイドブックを開くような気持ちで、どうぞ気軽にご活用ください。

※本連載は『不登校をチャンスに変える一生モノの自信の育て方』から一部抜粋して構成された記事です。




こんなとき、どうしたらいい?

前日は『行く』と言うのに、朝になると『行かない』と言います

A. 前日と当日の「やるべきこと」を洗い出そう

 不登校のわが子が「学校に行く」と言ってくれたらうれしくて、そわそわ期待するのが当然です。でも、翌日の朝になって「やっぱり行かない」と言われ、ガックリ。そんなお子さんのひと晩の手のひら返しに、感情を振り回された経験がある親御さんは多いはずです。この手のひら返しが毎日のようにつづけば、親御さんの精神的な負担はかなり大きくなってしまうと思います。
 ここでは、前日と当日の場面に分けて、いくつか対策をご紹介しましょう。

●前日の対策1
 まず「学校に行く」ことについて、スモールステップ(※1)を設けましょう。
 ひと口に「行く」と言っても、教室ですべての授業を受けるのか、1時間だけ授業を受けるのか、別室や保健室へ登校するのか、先生と会ってプリントをもらうだけなのか……。いろんな「行く」がありますよね。
「学校に行く」という漠然としたイメージから、お子さんの中で過度に高いハードルを描いているかもしれません。それを防ぐために、事前に具体的になにをするのか明確にしておくんです。もちろん、内容はスモールステップで、お子さんができそうだと思えることに設定します。
 僕らがよく使う最初のステップは、「放課後に先生や友だちと会う」「まずは給食を別室で食べる」などです。「明日は学校に行く」よりも、「明日の放課後に先生と会おう」だったら、ずっと簡単にできそうな気がしませんか?
 子どもにとっては、そんなわかりやすさやハードルの低さが大切なんです。スモールステップでゆっくり自信をつけていきましょう。


●前日の対策2
 前日に翌日の行動(学校に行く)を詳しくシミュレーションしておくのもおすすめです。
 なにをするかもわからずに、自分にとってアウェイな場所へ行くなんて、大人でも緊張したり不安になりますよね。反対に、事前に行動の見通しが立っていれば、すこしは落ち着いて臨めるはずです。
 ですから、前日に翌日の行動の流れを確認しておくだけでも、お子さんの「学校に行く」不安を大幅に減らすことができるんです。
 たとえば、「朝起きたら〇〇を食べて、着替えをする。外に出たら15分くらい歩くよね。学校についたら、東門から入って、保健室へ向かって……」と家からの行動を細かくなぞってみたり、授業に参加する場合は「1時間目の国語では〇〇の単元をやるよね。2時間目は……」と授業内容をチェックしておくのも良いと思います。なにか行事やイベントなどがあるときには「どこで、どれくらいの人数で、どれくらいの時間、どんなふうに行われるのか」といった詳細な情報があると、事前に見通しが持てるようになるでしょう。


●当日の対策
 子どもは、どうしても「行くか行かないか」「やるかやらないか」と0か100かの思考になりがちです。「お腹が痛いから今日はもう無理」などとすぐ極端な結論を出してしまうんですね。
 そういうときは、「AかBかどうする?」とまったく別の小さな行動を選んでもらうようにしましょう。たとえば、「朝ごはんはごはんを食べる? パンを食べる?」とか「先に着替えてくる? ごはんを食べる?」などですね。目の前に行動の選択肢が差し出されると、意識がそこに集中し、動き出せる子が多いです。
 あるいは、「とりあえず荷物を持って外に出てみない?」「〇〇公園まで歩いてみるのはどうかな?」など、ごく小さな行動を提案してみるのも良いと思います。ちょっとした行動がトリガーになって、不安から目をそらせることもありますし、活動のリズムができて、ポンポンと登校につながることもあります。


●継続している場合
「昨日は行くって言ったのに……」が継続している場合、親御さんは朝から欠席連絡をくり返すことになりますよね。「やっぱり今日も行けないみたいです」と学校に連絡するのも、「今日もお休みさせてください」と職場に謝罪するのも、かなり心にダメージがくると思います。
 そういうときは、「明日は行く」という発言が出た際に、親御さんの事情も真っ直ぐ話しつつ、きちんと「約束」を結ぶようにしましょう。
 約束とは、言い換えれば契約です。つまり、守れたら良いことがあるし、守れなかったらその結果の不利益も受け入れなくてはならない。
 たとえば、「明日は行く」の発言を受けて、「じゃあお母さん、明日は仕事に行くって会社に連絡するね。もし明日になって行けないってなっても、お母さんは仕事に行くから、そのときは、お家でひとりで過ごしてね。約束通り学校に行けたら、3P分スタンプを押そうか(※2)」と伝えます。
 そして、翌日「やっぱり行けない」となってしまったときは、宣言通り仕事に出てください。約束した結末をしっかり味わうことが、それ以降お子さんにとっての約束の価値を上げることにつながりますから。親御さんが「約束」を破ることもないように気をつけてくださいね。
 これをくり返すことで、すこしずつ「行く」という発言への責任が芽生え、「行くって言ったのに……」といった肩透かしは減らすことができると思います。少なくとも、お子さんのひと言に振り回されるみなさんの心の負担は確実に減らせるのではないでしょうか。
 また、前日の「約束」については、先生を巻き込むのも効果的です。先生に電話やメッセージで「明日は行きます」と伝え、「じゃあ△時に校門の前で待ち合わせしようか」などと具体的な約束を交わすんです。
 家族を超えた外の世界と約束を結ぶことが、より強い後押しになる子も多いと思います。無理のない範囲で、ぜひ実践してみてください。

 以上が「行く」と言ったのに行けないときの対策になります。併せて、学校に行けたときのご褒美として、大きな喜びを用意しておくのもいいでしょう。そして、家族みんなから、めいっぱいコンプリメントを伝えてあげてください。
 ただし、これらの対策はどれもひとつのツールです。全員が一発で学校に行けるようになる魔法ではありません。一度試して終わりにするのではなく、「これらの〝道具〞をどう使おうか?」と考えて、試行錯誤してほしいと思います。

※1 目標を細かく分け、かんたんな内容から少しずつ達成していくこと。
※2 ここでの「P」は、トークンシステムのポイントのことです。トークンシステムとは、子どもががんばった行動にスタンプやポイントをつけてあげて、たまったらご褒美と交換できる仕組みのこと。小さな達成を積み重ねることで、「できた!」という気持ちを育てていく方法です。



不登校の子どもたちへの伴走は、ひと筋縄ではいきません。だからこそ、ひとつずつ試しながら、お子さんに合った方法を見つけていくことが大切です。再登校もその先も、一進一退。焦らずに、今できそうなちょっとしたことから取り組んでいきましょう。

【書籍情報】


著者: 福田 遼

定価
1,760円(本体1,600円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784046074072

紙の本を買う

電子書籍を買う


この記事をシェアする

特集

ページトップへ戻る