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角田光代さんがお話を書き下ろした絵本『ねこがしんぱい』の絵を担当した、 洋画家・小池壮太さんのアトリエ訪問インタビュー。【油絵の制作を教えてもらう】

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角田光代さんが初めて猫のお話を書き下ろした絵本『ねこがしんぱい』の絵を担当された小池壮太さん。
『ねこがしんぱい』では、角田さんの愛猫トトちゃんをモデルに、小池さんが精緻に丁寧に、猫の世界を描かれています。
小池さんは静謐かつ、あたたかみのある画風で、静物画や風景画を中心に絵画作品を発表し、洋画家として活躍されています。小池さんの京都のアトリエを見させていただき、今回の絵本や油絵の描き方について、お話を聞きました。


『ねこが しんぱい』角田光代・作 小池壮太・絵


画家・小池壮太さん


――『ねこがしんぱい』のお話を読んだとき、どのように思われましたか?――

小池さん:小池壮太さん(以下、小池さん):「こういう展開なんだ!という驚きで、どんどんと読みました。グイグイ引きこまれてしまうのは、角田さんの小説と同じ魅力を感じました」

――どのような絵、絵本にしたいと思われましたか?――

小池さん:「写実的に書くことによって、『本当にこんなことしているかも』って思ってもらえるように描きたいと思いました。外国の街並みやオンライン通話などは見たことがない子もいると思いました。そこで、子どもたちの想像力の手助けになるように、細部まで描こうと思いました。子どもは細部にこだわるので」

――絵本『ねこがしんぱい』の絵の猫のモデルは、角田光代さんの愛猫のトトちゃん。実際にトトちゃんに会いに行き、写真もたくさん撮影されたそうですが、描くのはいかがでしたか? 大変だったことはどのような点でしたか?――

小池さん:「トトちゃんは人懐っこくて寂しがり屋の印象でした。初対面でも嫌がられず、安心しました。トトちゃんに嫌われていると感じたら、この絵本は描けなかったかもしれません(笑)。
アメリカンショートヘアーは白と灰色の毛が混ざっていることが多いです。白の影は灰色っぽくなるので、白の影なのか、灰色の毛なのか、書き分けるのに苦労しました」


角田光代さん愛猫トトちゃん


――『ねこがしんぱい』の絵はどのように描かれたのでしょうか?――

小池さん:「普段は板に書くのですが、絵本の38ページの原画を印刷所に運ぶのは重いので、今回は紙に描きました。紙に膠(にかわ:動物の皮などを煮たもの。ゼラチン)を3回塗って、油絵の具で描きました。膠は油を通さないので、紙に油絵で書いても染みません。目視だと見えなくても、(絵を)写真で撮影したり印刷したりすると、下地が見えてしまいます。だから不透明にする必要があります。その分、普段の油絵より、何層か多く塗らなくてはいけません。しかしながら、何度も同じものを描くのは、心を込められません。そこで今回は途中から、不透明なアクリル絵の具で途中の層まで描くことに切り替えました」


油絵の具と筆


――油絵の制作の仕方を教えてください。――

小池さん:「まずは鉛筆でアイディア出しをざっくりした絵を描きます。次にタブレットペンでラフを作ります。デジタルの方が、『机の上に本を置くか、置かないか』といった選択肢を簡単に試せます。さまざまな色合いや雰囲気のパターンを試すこともでき、完成形をイメージしやすくなります。何度でもやり直しができ、その過程を全て残せて置けるのが、デジタルの大きな利点です。
デジタルでラフが固まったら、原寸大に移して鉛筆で細かい部分を詰めます。例えば、猫の目の微妙な位置や、背景の小物、家具の引き出しの線などです。この下描きは、油絵を描く上での設計図となります。時間はかかりますが、丁寧に仕上げることで本書きが進め易くなります。


デジタルラフ(左)と鉛筆の下書き(右)


油絵は、水彩画の水の様に、絵の具を希釈する(のばす)ための揮発性油と、接着剤の役割を果たす乾性油を用います。この配合を変えながら塗る事で光沢があり、長年劣化しない強靭な画面を作ることが出来ます。

1度目は、揮発性油多めにして、画面に薄く均一に絵具をなじませていきます。ここでしっかりと油が混じった絵の具の層を作っておくと、次からの層が描きやすく(定着しやすく)なります。まずは、おおまかに明暗で分けます。

2度目からは絵の具をたっぷりと使って固有色を塗っていきます。3度目4度目とだんだんと乾性油や光沢を出すための樹脂の量を増やしていきます。油絵は透明のため、何層も重ねることによって深みを出すことができます。

油絵は、絵の具が乾くのが遅いため、乾く前なら色をふきとったり、上から塗り直したりといった修正が簡単にできます。じっくり考えながら制作をすることが可能です。

色を何層にも重ねることで、他の画材では出せない深みと重厚感のある表現が可能です。色よりトーン。分けて考えられる。脳の処理能力は限界があるので、それを明暗と色彩を分けることによって、より深く考察できる」


油絵の具一層目:輪郭からおおまかな明暗に分けて描いていく。


――「ねこがしんぱい」の絵の内容について、教えてください。――

小池さん:「小さい頃、映画の『ネバーエンディング・ストーリー』がすごく好きでした。その夢を叶えられた気がしています。
(猫が空を飛ぶ場面を)ベネツィアを選んだ理由はいくつかあります。だいたいの大人が子どもに説明できる街。一目で外国と分かる景色であること。その条件下で、僕が好きな街というので選びました。最近海外に行かない人も増えていると聞いています。細部まで描きこむことによって、子どもたちに、『こんなところ行ってみたいな』と思ってもらえたらな、と言うのが、隠れた狙いの一つです。


油絵制作を撮影したショート動画


油絵の制作途中の絵


完成したページ


また、(描かれている)眼は、読んでいる方がそこから気持ちをくみとるもので、とても重要です。眼で性格までも決まってしまいます。絵本の猫『たまこ』の目を、どう描くか決めるのに、時間がかかりました。イラスト的では今回の画風に合わないし、リアルに描きこみすぎても絵本らしさがなくなってしまうので、その中間を探りました。完成系では、目に少しアイシャドウを入れることにしました。


デジタルラフ(左) 下書き(真ん中) 油絵途中(右)


『本当にこんなことしているのかも!』と思ってもらうためには、猫らしさをしっかりと表現する必要があると思いました。猫は背骨が変幻自在なので、どんなポーズでも可能です。ですが、それらしいポーズ、というのを可能な限り追求しました」


左から右へ、下書きから完成までの原画


――『ねこがしんぱい』の中で、どの絵がお好きですか? また、大変だった絵はどの絵ですか?――

小池さん:「キャンプファイヤーのシーンが好きです。 僕もよく友人に焚き火に連れて行ってもらうので、火や、それに照らされた毛並み、瞳を描くのはとても楽しかったです。それぞれの猫の性格を考えてポーズを決めえている時間もまた楽しかったです。


キャンプファイヤーの場面の絵


苦労したのは、カラスと大笑いしているページです。実際には猫もカラスも大笑いしません。背景が写実的表現なので、漫画的な表情になり過ぎると違和感が出てしまうので、大爆笑感を出すのに苦労しました」


制作途中の絵(左)完成したページ(右)


――最後に、絵本で見ていただき点や読者さんにメッセージをお願いします。――

小池さん:「(ねこの)たまこが明日はどんな事をするのか、想像してみてください。楽しいですよ。僕も描きながらそんな事を考えていました。
絵としては、『これなんだろうね? こんなこと考えているのかな?』と、ワイワイ楽しみながら読んで欲しいです。紙の上に描いたものがリアルに見える、という仕組みは、見る側が過去の記憶と照らし合わせ、補強しているからなんです。なので、見る人一人一人が懐かしく思う、印象や注目点、表情から読みとる感情も違うのです。特に親子ですと体験値がかなり違うので、見える絵は大きく違うと思います。そんなことも楽しんでいただけましたら嬉しいです」

――アトリエを見させていただき、貴重なお話をありがとうございました。――

【書籍情報】



『ねこがしんぱい』

  • 内容紹介

わたしのおうちは、お父さん、お母さん、わたしとねこの家族です。
わたしが学校へ行き、お父さんとお母さんが仕事に行っているあいだ、
ねこのたまこは、おうちでおるすばんをしています。
そんなたまこのことが、家族のみんなはとっても心配でたまりません。
「たまこがティッシュをだして、ぐるぐるまきになっていないかな」
「ひとりで遠くにいってしまって、おうちがどこかわからなくなって、帰りたいのに帰れなくて、えーんえーんと、ないていたら、どうしよう」
……だれも知らないのです。家族が心配しているとき、たまこがどんなふうに過ごしているのかを。
たまこはティッシュにのってふわふわ舞いあがり、雲より遠くに飛んで過ごしています。
コンピューターをちょいちょいと操作して、遠い国のお友達と、オンラインで遊ぶ約束だってしています。
ちょっぴりシュールでユーモラス! 猫を愛する人たちにオススメ。平和な日常が愛おしくなる絵本。




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