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子どもの一言が大きなきっかけに まいのおやつさん 絵本『まほうのるんるんきせつごはん』 旬の食材の美味しさを通して「生きていくことをより楽しめるようなきっかけに」

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「ちょっとの工夫で毎日楽しく」をモットーにイラストレシピと絵本を描いている、まいのおやつさん。昨年発売した絵本『まほうのぱくぱくべんとう』に続く、食育絵本シリーズの第3弾『まほうのるんるんきせつごはん』が10月15日に発売します。今作では、春夏秋冬を旅する「まほうのれっしゃ」に乗った男の子が、旬の食材の味を知り、味わう様子が描かれています。著者のまいのおやつさんに、制作に至る背景や作品に込めた思い、さらに作品の裏話なども教えていただきました。





——まずは、今作の着想がうまれたきっかけと「きせつごはん」を題材に選んだ理由を教えてください。

季節の食べ物をテーマに選んだのは、息子が季節の変化に興味を持ち始めたことが大きなきっかけです。通っている保育園に大きな花壇があって、春にはチューリップ、夏はひまわりが咲くのですが、その花が枯れて「次はいつ咲くのかな?」と興味を持つようになったり、9月に入ると「赤とんぼ」を歌ったりと、園では子どもたちに季節の移り変わりを自然に伝えてくださっていて。

そこから発展して食べ物にも興味を持つようになり、一緒にスーパーに行くと季節によって並ぶ食材が変わっていることに目が行くようになりました。その姿を見て「子どもがいろいろな季節を楽しめるきっかけになったら」という気持ちが芽生え、開くたびに季節を旅行できるような絵本が描けたらいいなと思い、今回の作品ができました。



——家庭以外の場所で、お子さんがいろいろな世界を知って成長していくのも、親としては嬉しい発見ですね。

そうですね。大人になると、自分の目線よりも下に咲いているお花や植物に目がいきにくくなっていたのですが、子どもと同じ目線になってみたことで私自身も気づくことができたし、新たな発見がありました。そんな風に、季節の移り変わりや旬の美味しいものを楽しむことで人生も味わいつくすような感覚を、この絵本を読んでくださった方とも共有できたらなと思っています。

——列車に乗って「はる」から「ふゆ」へと季節を旅する、という展開もおもしろかったです。

うちの子が新幹線や電車のおもちゃが大好きでたくさん集めているんです。ある日息子が環状線のような輪になった電車が走るコースを作っていて、そのコース上にある駅に「肉じゃが駅」という名前をつけていたんです。「その駅に近づくと肉じゃがのいい匂いがして、食べられるんだよ!」といったことを息子が話しているのを聞いた時「最高だな」と思いました。

そこから、駅によっていろいろな料理が食べられたら楽しそうだなと考えたんです。最初は、お肉やじゃがいもを登場させて「肉じゃが」の絵本を描こうかなとも思ったのですが、それよりも、列車で四季を旅行したら一気にいろいろな旬の料理を楽しめるし、朝から晩まで旅して帰ってきたらお腹いっぱいになって、最後は寝ちゃうんじゃないかなといった全体のストーリー像が膨らんできました。なので、その時の子どもの「肉じゃが駅」という発想から、大きなヒントをもらったんです。

今作では、一応「ふゆ」が終点になっていますが、四季も環状線のようにずっと一年を繰り返して回れると思うので、そこにもつなげられたかなと思っています。自分ではなかなか思いつかないようなことを教えてくれたりするので、いつも子どもから新たな発見や気づきをもらっています。



——行き先が「きせつ」であったり、列車内には「いちどつかうとむちゅうになるまほうのしょうゆ」というポスター 広告が仕込まれていたりと、細かいネタを見つけるのも楽しかったです!

細かいところまで見ていただいて嬉しいです! 今作でも、1冊目の『おにぎり』と2冊目の『べんとう』とのつながりや「どれも同じ世界観なんだよ」ということを伝えたいなと思っていました。なので、その2冊に登場したおしょうゆやお弁当、お店が本当にあるような感じや、ちょっとクイズを入れたりもして、何回開いても楽しめるような絵本を目指しました。それぞれどんな広告にするか1枚ごとに考えるのがとても楽しかったです。

——季節ごとの駅では、旬のやさいたちが待っていて「ごあんない」と書かれたメニューから男の子が食べたい・作ってみたいメニューを選んでいます。今作でもそれぞれのメニューがずらりと並んで見ているだけでもワクワクしましたが、季節ごとのメニューはどのように選ばれたのでしょうか。

まずは、今回の絵本に載っている季節ごとのメニューの2倍から3倍くらいの候補を考えていきました。その料理の一覧を見ながら編集さんと選んだのですが、基準としては、まず子どもが喜びそうなもの。そして、メニューがイメージしやすいものや比較的作りやすいものはどれかなと相談しながら決めていきました。

あとは野菜だけでなく、旬の魚介類なども入れつつ、できるだけそれぞれの季節の色やイメージが重ならないようにということを意識しました。春はチャーハンでご飯もの、夏は副菜、秋は主菜、冬はラーメンと、それぞれのメニューのバランスや違いも意識しながら考えていきました。

どのレシピを入れるかも編集さんと相談しながら決めました。実際に作ってみて、食べた家族の反応を見つつ「どうしたらもっと美味しくなるかな」と、それぞれ何度も試しました。「絶対に子どもが野菜を完食するもの」という点にこだわって完成させたレシピばかりなので、どれも自信あり!です。



——主人公の男の子が選んだメニューも、ご自身のお子さんの意見が反映されているのでしょうか。

そうですね。特に冬の「ふゆやさいたっぷり ラーメンなべ」は、今作の中でうちの子が一番気に入っているメニューなんです。私にとっての一番の「きせつごはん」もこのラーメンなべですね。食べると元気が出ますし、家族も大絶賛でした。私はお酢を足して、味変しながら食べるのが好きです。

——どの季節の野菜たちも、自分たちが調理されて、おいしく食べられることを喜んでいる様子が描かれているのも印象的でした。

私は食材を買って冷蔵庫に入れた時点で「ちゃんと全部美味しく食べよう」という使命感みたいなものがあるので、その気持ちも反映されているかもしれません。

あとは義父と義祖父が家庭菜園をしていて、たくさんできたさつまいもや大葉などを分けてもらったり、野菜が育つ過程を見せてもらったりしていると、大切に育てられていることが伝わってくるんです。手をかけて育てられて、こうやって大きくなっていくんだという過程を見せてもらったことで、大事に食べたいなと思う気持ちがより強くなりました。

——「おいしくて  たべると  げんきが  でたよ」や「こころが  ほかほか  するね」と、作ったメニューを食べたらどんな気持ちになるのかも書かれていますね。

私自身、旬の野菜を食べると「自分にいいことをしているな」と感じますし、やっぱり旬の野菜は特別に美味しくて「食べると元気が出るよ」ということは、私が伝えたかった思いでもあります。

実は、秋のメニュー「しゃけときのこのつつみやき」を食べた男の子が「こころがほかほかするね」というセリフは、うちの息子が言った言葉なんです。それを聞いた時に「心がほかほかするってすごくいいな」と思ったので、そのまま入れちゃいました (笑)。

——絵本では、お話と絵を別の方が担当されることもありますが、まいのおやつさんはどちらもご自身で担当されていますよね。その面白さや大変さをどんなところに感じていますか?

ストーリーを考える時は「こういうの、楽しそう」と思いついたら頭の中にイメージが浮かんでくるので、それをそのまま形にしていくのが本当に楽しいんです。「こんな感じで書いてください」とご依頼をいただいて描くのももちろん楽しいと思うのですが、自分の頭の中にあるものが他の方の目にも見える形になっていく過程がすごく楽しいので、時間はとてもかかるのですが、自分で考えてお話も絵も描くという一連の作業全てを楽しんでいます。

—— SNSでは、スケッチの様子やご家族に人気のレシピのこともあげていらっしゃいますが、どんな反応がありますか?

レシピを紹介する時は「そのレシピがうちでも定番になりました」や「作ってみたら家族からこんな反応がありました」といったご感想をいただけて、とても嬉しいです。絵本を出すようになってからは本のご感想をいただくことも増えてきました。特に保育士さんから「この絵本を読んで、うちの園でこんな取り組みをしました」と、実際にピーマンを育てたり、お米農家さんに育て方を聞きに行ったりと、素敵な取り組みをたくさん教えていただいて「この本からそんな風に広げていただけて嬉しい」といつも感動しています。

——同じ作品でも、受け取り手によってどのようにも、どこまでも広がっていく。それが本の魅力の一つですよね。

本当にそうですね。私自身、心に残っている絵本はたくさんありますが、やはりそこに体験が伴うと、大人になっても忘れないんじゃないかなと思うんです。なので、読者さんからそういうお話やご感想をいただくと、私も幸せな気持ちになります。

——今作では「食育」という観点で、どんなところを意識されましたか?

今はどの野菜もどんな時期でも割と手に入りやすいですが、私は「この時期になったらこれが特に美味しいんだ」ということを知っていくと、もっと人生を楽しめる手掛かりになるんじゃないかなと思っています。旬のものを大切にすることは、自分の人生を大切にしていることと同じという感覚があるので、この絵本が生きていくことをより楽しめるようなきっかけになったらいいなと思っています。

——さて、1作目の『まほうのわくわくおにぎり』から始まり「おべんとう」、そして「きせつごはん」とシリーズが続いてきましたが、もし次の「まほう」シリーズの構想がありましたら、お話しいただける範囲で教えてください。

最初はお子さんおにぎりを作ってもらうことから始まり、2作目の『おべんとう』では初めて自分で作ってみること、そして今回の『きせつごはん』では、旬を知りながら、もっと自分で作ってみることがテーマだったので、今度はそこから少し発展して、人にも食べてもらうところまで進められたらいいかなと思っています。自分が作ったものを誰かに食べて喜んでもらうことで自分自身のことも喜ばせるといったように、人の喜びが伴うようなものまで描けたらいいなと思っています。

あとは実際に、その食材を調達することも楽しそうだなと思っていて、個人的には今、世界の市場に興味があるんです。エジプトやイスタンブールのバザールの画像をたくさん調べて、いつかこういう場所も描けたらいいなと思っています。

——「きせつごはん」のメインは野菜たちでしたが、「野菜嫌い」のお子さんも多いかと思います。「野菜をもっと食べてほしい」と思っている人に向けたアドバイスがあればお願いします。

どうしても苦手なら、食べられなくても仕方ないかなと思うんです。でも「一つだけ食べてみようかな」とちょっと興味を持ってみることや、見た目と名前が一致するだけでも食べるきっかけになるんじゃないかなと。その最初の興味づけになる発端に、この絵本がなったらなと思っています。季節ごとの美味しさのほかにも、その野菜の色やにおい、温度感みたいなものもそれぞれの駅で感じてもらえるように意識して描いたので、そういうところも伝わると嬉しいです。

——最後に、本作の裏話のようなエピソードがありましたら、こっそり教えてください。

男の子が持っていた「きせつりょこうきっぷ」が最後ポケットに入っているページで、その切符の有効期限の始まりの日付をこの絵本の発売日にしています。そうした理由は「実はみんな、気づいた日からこの切符を持っていて、生きている間ずっとその列車に乗って季節を巡り続けることができるんじゃないかな」という思いを込めました。

今年のような猛暑や寒さなど、季節に振り回されることもありますが、せっかくならその季節を、この絵本を読んでくださった方々と一緒に思いっきり楽しめたらという気持ちであの切符を描いたので、ぜひそんなところも楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。


取材・文:根津香菜子


【作家プロフィール】

まいのおやつ

一児の母。温かなタッチの手描きイラストによるイラストレシピが人気で、SNSの総フォロワー数は160万人を超える。 著書に、絵本『まほうのわくわくおにぎり』、『まほうのぱくぱくべんとう』(KADOKAWA)、『作るのも食べるのも! まちどおしくなるごはん』、『おいしい12ヶ月 季節を楽しむレシピとアイデア」(ワニブックス)などがある。

 

【書籍情報


作: まいのおやつ

定価
1,540円(本体1,400円+税)
発売日
サイズ
その他
ISBN
9784041166031

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