
『角川の体験型子ども図鑑 あそべるひらめくきせつの図鑑』の発売を記念して、本書の監修者である横山洋子先生(写真左)と伸芽会教育研究所の麻生尚子先生(写真右)とのスペシャル対談が実現! 季節の遊びが幼児期の子どもに与える影響や親が意識したいポイント、図鑑の有効な活用方法について、詳しくお話を伺いました。
季節の現象は特別なことでなく、身の回りにあるもの!
__まず、横山先生に伺いたいのですが、今回の図鑑の監修にあたって特に意識されたことがあれば教えてください。
横山先生:より多くの子どもたちに見てもらえるように、「写真が美しいこと」「説明文が簡潔なこと」、扱うテーマが子どもの「身の回りにあること」にこだわりました。生き物、食べ物、自然など、季節の現象は特別なことでなく、みんなの日々の生活に直結したものだとまず知ってほしかったのです。
麻生先生:この図鑑を拝見して、私も「写真が本当に素敵だな」と思いました。たとえば、果物が果実だけではなくて、実際に木に生っているところまで見せてくれる図鑑って、あまりなかった気がします。子どもたちはスーパーで売っている状態しか知らないことが多いので、とてもありがたいです。
自然と触れ合うと、五感センサーや語彙が磨かれる!
__自然と触れ合う機会が増えることで、子どもの発達にどのような影響があるのでしょうか?
横山先生:自然と触れ合うことで、五感が豊かになります。五感センサーは、子どもが主体となるワクワク体験を重ねることで、どんどん磨かれていくもの。与えられた遊びや家の中でゲームばかりしていては、このセンサーは育たないのです。
麻生先生:ワクワク体験は、どこかに連れて行ったり、特別なことをしたりしなくてもいいということもポイントですよね。たとえば、登園するいつもの道でも発見はできるし、家の中だってできることはたくさんありますよね。
横山先生:そうなんです。親御さんは「自然遊びが大事だ」ってみなさん分かっているんです。ただ、どう声を掛けたり、遊んだりしていいかが分からない方が多いようですね。
麻生先生:お忙しい中お子さんのために頑張ってお出かけしたり、お金をかけて体験をさせたりしても、子どもが楽しんでくれないと「せっかく連れてきてあげたのに……」という気持ちが出てきてしまいますよね。実は、どこに行くかよりも「親御さんが一緒になって楽しむこと」が何より大切なんです。
横山先生:そうそう。だから、特別な体験もいいけれど、それよりも身近でできる季節を感じる体験を子育てにもっともっと取り入れてほしいですね。それを提案したくてこの図鑑を作りました。
たとえば、スーパーで旬の野菜を手に取ったり、夏だったらホームセンターで風鈴やクワガタやカブトムシを見たり、お花屋さんで花を見ることだって季節を感じられますよね。別に買わなくても見たり触ったりするだけでもOK。あとは、どこにも行かなくたって、家から空を観察して「今日の空って何色かな? あの雲は何に見える?」と話すだけでも学びになります。親御さんには子育ての「〇〇しなきゃ」のハードルを下げてほしいんです。大事なのは、お子さんとどこで何をするかよりも、「何を話すか」ですからね。

麻生先生:言葉掛けは幼児期の学びにおいてとても大事です。伸芽会で授業をしていても、食べ物の感想が「シャキッとしておいしい」「とろっと甘い」など、豊かな言葉で表現できる子と、「おいしい」しか言えない子がいますが、こうした語彙力はご家庭での親御さんの言葉掛けによって変わってくると感じているところです。
横山先生:私は今短大でも授業をしているのですが、最近の学生たちは「すごい」「かわいい」「やばい」しか言えない子が多くて……。「将来あなたたちが子育てをするときに、そういう言葉遣いしかできないと、わが子に影響するよ」とよく話しています。
たとえば、雨にも「しとしと」「ざあざあ」などいろんな表現がありますが、そういった言葉遣いを普段からしていると、そういう現実が豊かに見えてくるんです。
麻生先生:「語彙が豊かになると現実も豊かに見えてくる」、とても素敵ですね! 絵本の読み聞かせでも、語彙は増やせますから読み聞かせもいいですよね。
それと、今の親御さんたちは、「どうすれば合格するか」「どうすれば〇〇が早く習得できるか」と、なんでも最短ルートを知りたがる傾向があると感じていて……。でも本来、子育てや教育はそうではないですからね。
横山先生:インスタントの子育ては楽しくないですよ。子育てや教育は時間も手間もかかるから面白い。その過程を楽しまなくちゃもったいないです!
確かに、今は動画のコンテンツも豊富にありますから、たとえばゾウやクジラの動画を見ただけで知った気になっている子は多い。でも、実物を見ると「こんなに大きいの!」と目をキラキラさせるんです。そのワクワク体験の多さは、心の豊かさにもつながると思っています。
麻生先生:「丸のままのスイカを持ったら重かった」「入道雲を見た」「雨のあとに虹を見た」なども、ぜひしてほしい体験ですよね。実際に子どもたちを見ていても、リアルな感動体験をした子たちは、描く絵もダイナミックになりますし、感動した体験が多い子は、想像力も豊かになると感じます。

自然体験は「思い通りにならないこと」を知る機会
__現代の子どもたちにとって、季節遊びが不足していることで、どのような懸念がありますか?
横山先生:自然体験で得られることは、他にもたくさんあって、「思い通りにならないことを知る」体験にもなります。育てていたトマトが枯れる、飼っていたカブトムシが死んでしまう……悲しいけれど、これらはリセットできない。そういう命にふれる体験は、子どもたちが生きるために必要な、忍耐力を養ってくれるはずです。
麻生先生:今は我慢できない子が増えていますよね。子どもだけではなく待てない親御さんも増えていると感じます。動画も早送りや倍速視聴ができますから、そこでも最短ルートを求めがちなのかもしれませんね。その点、季節遊びは親にとっても忍耐力を養えるいい機会になりそうですね。(後編へ続く)
インタビュー:加藤朋美
撮影:瀬戸口善十郎
【プロフィール】
横山洋子
千葉経済大学短期大学部こども学科学科長・教授。富山大学大学院教育学研究科学校教育専攻 修了。国立大学附属幼稚園教諭、公立小学校教諭として17年間の現場を経て現職。著書に『こどもおうちあそび大全』(永岡書店)、『子どもの育ちを伝える幼稚園幼児指導要録の書き方&文例集」(ナツメ社)、『根拠がわかる! 私の保育総点検」(中央法規)など多数。監修に『あなたのからだをだいじにするほん』(Gakken)、『0・1・2歳児 保育のあそびまるごとBOOK』(KADOKAWA)、『保育所&幼稚園 実習の記録と指導案まるごとBOOK』(KADOKAWA)など。
麻生尚子
伸芽会教育研究所副部長。幼児教育歴26年の経験を生かし幼児の発達に応じたきめ細かい指導により、保護者からの信頼も厚い。雙葉小学校をはじめとする女子難関校から共学難関校、幼稚園受験まで幅広い合格者を輩出。絵本『やってみよう!』の監修者。
【書籍情報】
監修: 横山 洋子
- 【定価】
- 1,760円(本体1,600円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- B5変形判
- 【ISBN】
- 9784041158838