学校現場で見つけた、自発的な読書や学びを促す本の正体とは
横浜市青葉区にある桐蔭学園小学校。校舎を歩いていくと、私たちが知っている「図書室」のイメージがガラリと変わります。
教室を出ると、すぐそこは明るく開放的な「ラーニングスペース」。そのあちこちに、本棚が置かれています。ここは、授業の合間に友だちとおしゃべりをしたり、クラブ発表の準備をしたりと、子どもたちが自由に使える場所。ボルダリングの壁やハンモックが設置された遊び場のすぐとなり、子どもたちが日常的に行き交う動線の中心に、あえて本棚が配置されたのは、数年前のことだと言います。
「以前の学校図書館は本好きの子だけが利用する場所でしたが、いまは、教室移動やトイレに行った『ついで』に本棚をのぞく子がたくさんいます。生活の中に本が置かれ、子どもたちの手が自然と本に伸びる。それが狙いでした」と、桐蔭学園小学校の石故裕介先生は語ります。
そんな「学校の一等地」にある図書スペースで、ひときわ支持を得ているというのが「マジック・ツリーハウス」シリーズ。これは、24年前に第1巻が発売されてから最新の第54巻まで、石故先生がずっと注目し、全巻をそろえてきた冒険読み物シリーズです。
先生も太鼓判!学校図書館で長く採用される理由
この本が小学校で支持されているのには、納得の理由があります。
まず、石故先生や司書の先生方が「いちばんの魅力」と口をそろえるのが、現在シリーズ54巻という巻数の多さと、テーマの多様性です。たとえば、恐竜、パンダ、巨大ザメから、忍者、海賊、サッカーW杯、大リーグのドジャース、月探査まで……子どものだれもが「いま」興味を持っているテーマが必ず見つかります。「これなら読んでみたい!」という最初の1冊に出会いやすいことが、読書へのハードルを下げ、大好きになるための最大の利点となっています。
つづけて先生たちが指摘するのが、シリーズの「仕様」です。ソフトカバーで、学校指定の通学リュックのサイドポケットにスッと入る、コンパクトな四六判サイズ。大きすぎず小さすぎず、この手軽さだからこそ、通学の電車の中や、ちょっとした空き時間にも、子どもたちが気軽に取りだして読める理由だと言います。
さらに、その「丈夫さ」も、学校図書館で評価されているようです。学校の蔵書はのべ何百人もの子どもが手にとるため、背がめくれたり角が傷んだりしがち。しかし「マジック・ツリーハウス」の本は、長いあいだ本棚に置かれながら、ずっと形を保っています。子どもがあちこちへ持っていき、好きなときに何度でも本を開いて読める点でも信頼を得ているようです。
「おもしろいって、友だちに聞いた!」遊びの中から始まる読書に、興味津々!
私たちが取材に訪れたのは、ある平日の午前。20分間の中休みが始まるとすぐ、教室から子どもたちがワッとラーニングスペースへ出てきます。ひとりの男の子が「マジック・ツリーハウス」の展示コーナー前で足をとめ、本を読みはじめました。すると「何読んでるの?」と、自然に友だちが集まってきます。
「ぼくはパンダが好き」「ペンギンもかわいい!」と、ページをのぞきこみながらおしゃべりがはずみ、いつのまにか本をかこんで人だかりができました。友だちとの約束があってラーニングスペースに来ていた男の子も、人が集まる様子に、つい本のほうが気になる様子。
集まってきた児童に話を聞くと、「ずっとこのシリーズが好きで、たくさん読んでいる」「家でも12冊持ってる!」という子もいれば、「友だちが読んでいるのは知っていたけど、まだ読んだことない」「今日はじめて手にとってみた。おもしろそう」という子まで幅広く、じわじわと関心の輪が広がっていくようでした。
少しはなれて子どもたちの様子を観察していると、多くの子は、1巻から順番に手にとるのではなく、表紙のイラストやタイトルを見て、興味を持った巻へ自由に手を伸ばしているようです。ここ桐蔭学園小学校でとくに人気なのは、動物が登場するストーリー。サメ、パンダ、ゴリラ、ラッコ……カラフルな表紙や、大胆な構図のさし絵に、目を輝かせている姿が多く見受けられました。
並んでいるシリーズのなかに、最近発売されたばかりの『[カラー新装版]マジック・ツリーハウス』があるのに気づいた児童は、さし絵がすべてカラーになっていることに驚いた様子。「あれっ、ぜんぶカラーになってる!」「これ(既刊)とこれ(新装版)は、同じ内容なの?」と強く興味を惹かれたようで、そのまま最初のページから読みはじめました。「カラーの絵がすごくきれい。もう一度読んでみたくなった」と、既読の巻であっても新たな魅力にワクワクしているようです。
「児童書において、さし絵はほんとうに大切な要素です。『マジック・ツリーハウス』は、子どもがさし絵を見ただけで中身を読んでみたくなるように、いろいろ工夫して作っているんですよ」と教えてくれたのは、取材に同行した担当編集者。文章を読むのが少し苦手な子でも、さし絵に惹きつけられてページをめくるうち、気づけば物語の中にどっぷりと浸かっていることもあると言います。
取材中、子どもたちから担当編集者へ「この本を作るのに、どれくらいかかるの?」「どうやって作っているの?」と質問する場面もありました。「半年から1年くらいかけて作るんだよ」「絵は、イラストレーターさんが描いてくれるの」「いちばん新しい巻は、ラッコが出てくるお話でね……」といった制作の舞台裏の話に、子どもたちは興味津々の様子で聞き入っていました。
「読んでみようかなあ」「どの巻がおもしろい?」――そんな会話が友だち同士で自然に生まれるのも、本シリーズの特徴です。ひとりで静かに読むだけでなく、友だちからの「これおもしろいよ」という推薦が、最初の1冊を手にとる強い動機になっているようです。休み時間の終わりには、先ほど「はじめて読む」と言っていた女の子が、本を1冊手に持ち、うれしそうに「今日はこれを借りて帰る!」と言っていたのが印象的でした。
「探究学習」における教育効果も
学校現場において、「マジック・ツリーハウス」シリーズは、単なる読み物以上の活用がなされているようです。特筆すべきは「探究学習」での機能性です。
「本などを調べる『探求学習』を行う場合、図鑑などは情報量が多く、高学年にはよいのですが、低学年の子だと『どこを見たらいいかわからない』と迷うこともあります。その点このシリーズは、紹介されている情報量がちょうどいいんです」と、石故先生。本シリーズは多くの巻の巻末に、その巻に登場した国や場所、時代、歴史上の人物などについて解説するコラムがついています。それがちょうどよい資料となり、学習の助けにもなっている、と言います。
実際に、偉人の伝記を読む単元を学習する際、ラーニングスペースに関連する巻を出しておくと、子どもたちは「あっ、『マジック・ツリーハウス』に出てきた人だ!」と、すぐに反応します。自ら調べて学習を深めていく手前の段階で、本シリーズが歴史や科学の知識を学ぶ「入り口」ともなっているようです。
かつて同校で、児童がおすすめの本を紹介する「書評合戦」を開催する際、子どもたちが紹介する本として「マジック・ツリーハウス」が選ばれることが多かった、と言います。主人公たちと一緒に冒険しながら、さまざまなテーマについて学んでいくという作品構成は、子どもたちの「ぜったいおもしろいから、みんなにも読んでもらいたい!」という気持ちを引きだします。本の魅力をプレゼンテーションするという経験を通して、単なる読書にとどまらず、自分なりの視点で「魅力を言語化する力」が培われているようです。
教育者が認める「質の高さ」が、子どもの読書を支えていた
取材を通じて見えてきたのは、「マジック・ツリーハウス」が単なる娯楽作品ではなく、子どもの「知的好奇心」を促すツールとしても機能している事実でした。
学校関係者が高く評価するのは、本シリーズのテーマの多様さ、内容の正確さ、そして子どもの手になじみ、使いこまれることを前提とした工夫された設計です。このシリーズが子どもの手もとにあるだけで、読書に対する興味が高まり、それがさらに自然な学びへとつながっているようでした。
取材の最後、子どもたちとの会話の中で「次のマジック・ツリーハウス第55巻は、メアリー・アニングという古生物学者のお話だよ」という編集者のことばに、ひとりの女の子が「あっ、その人知ってる!」と声をあげました。ラーニングスペースでメアリー・アニングの伝記を読んだことがある、というのです。「楽しみ! ぜったい読む!」と目を輝かせる子どもたちの姿に、あらためてこのシリーズの、児童書としての確かな価値を感じました。
【書誌情報】