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――ぼくはぼくで、いいんだった―― 『フンころがさず』発売記念インタビュー ①大塚健太さん

自己肯定感を育む絵本として話題の『フンころがさず』を発売された、新進気鋭の絵本作家・大塚健太さんに、『フンころがさず』を思いついたきっかけや、ご自身の子ども時代のことなどをうかがいました。



 

■名前や呼び方が、ずっと気になっていた

――まずはじめに、『フンころがさず』はどのように思いついたのですか?

もともと、モノや動物の「名前」に興味があったんです。「どうしてこんな名前がついたんだろう?」とか「この名前をつけた人はどんな気持ちでつけたのかな?」とか。あるいは「この名前をつけられた本人はどう思ってるんだろう?」とか。

とくに生き物はヘンな名前や、おかしな名前が多くておもしろい。「トゲナシトゲトゲ」とか、「スベスベマンジュウガニ」とか、もうちょっと気のきいた名前はなかったのかなって思うし、「ナマケモノ」とか「アホウドリ」とかも、本人からしたらいい迷惑かもしれない。そんなことをよく想像していたんです。
で、フンコロガシも、まあ俗称のようなものですが、ヘンな名前だなあと。「そのまんまじゃん!」とも思うし、「フンころがしてるからフンコロガシでいいや」みたいな適当感もただよっている。

私も昔、アルバイトをしていた時に上司にあたる人から、「ねえ、バイトくん!」とか「おい! そこのメガネ!」なんて呼ばれ方をしたことありますけど(笑)、そのたびに、「適当に呼んでんじゃねぇよ!」とか「いやいや、メガネはオレを構成している一部だし! 今メガネ取ったら、それでもお前は『そこのメガネ』って呼ぶのかい!?」とかツッコミを入れていたんです。心の中で。

フンコロガシも本人は「フンをころがしてるだけじゃねぇし!」って思っているかもしれないなと。そして、もしフンをころがさなかったら、それでもフンコロガシはフンコロガシなのか、名前が変わってしまうのか……とかいろいろ考えていたら、おはなしの骨格が見えてきた、という感じです。



 

――今回のおはなしのなかで、こだわったところはどこでしょうか?

すべてというのが正直な答えではあるんですけど、逆にどういうところに、作者のこだわりが感じられるのか、読んだ人に聞きたいくらいです。
でもまあ、やっぱり文章作家としてやらせてもらっている以上、「ことば」にはとても敏感になって、一文字一文字吟味して選んでいます。他人から見たら、たいしたことない違いでも、自分なりに大事にしたいものがあるんです。

■高畠純さんの絵が大好き!

――高畠純さんの絵について、お願いした動機と仕上がった絵をご覧になったときの感想をおしえてください。

お願いしたいなと思ったのは、高畠純さんの描く絵が大好きだからに他なりません。とくに動物の絵が好きです。生き物たちの表情がとても素敵だなぁと思って、絵本作家になる前から、いつも見ていました。なんというか、記号としての動物じゃなくて、そこにしっかりと心が通っているというか。

「こんな顔してるけど、心の中じゃちがうことを思ってるんじゃないかな」とか「この動物は、ライオンの前と、シマウマの前じゃ見せる顔が違うんだろうなぁ」とか、いろいろと想像がふくらむんです。だから高畠さんとご一緒できるとわかったときはとてもうれしく、家族も喜んでくれました。

絵を見たときは、感動の一言。イメージや構図は私が思い描いていたものとびっくりするほど一致していて、さらに私が思いもつかないような色使いや演出を高畠さんが加えてくださって、本当に感動しました。



 

■日常のワクワクを見逃さない

――絵本を作られる際に、たいせつにしていることは、どんなことでしょうか。

たとえば水たまりを見たときに、「あそこに入ってジャブジャブしたいなぁ」とか、横断歩道を渡るときに「白いところだけを踏んで渡りたいなあ」とか、そういう気持ちは大切にしたいと思っています。まあ、気持ちだけじゃなく実際に、水たまりに入ったり、白いところだけ歩いて横断歩道渡ったりしてるんですけどね。周りはいい迷惑かもしれません。

日常には、小さなワクワクすることがたくさんあって、それを見逃さないように気をつけています。



 

――子どものころは、どのようなお子さんでしたか?

超・内気。小さい頃は5つ上の兄とばっかり遊んでいて、お兄ちゃん子でした。でもいつからか、だんだんと兄にも友達にも心を閉ざすようになって。気がつくと、自己紹介で自分の名前も恥ずかしくて言えないような子どもになっていました。自分の気持ちを表現するのなんて、超苦手。
「何を考えてるかわからない」とよく言われました。たとえば楽しいことがあって、心の中では大爆笑しているのに、それが表情に出ないので、周りの人からは「怒ってる?」と言われてしまう始末。だから、自分の内面や感情と、周りから見られる自分の「ズレ」みたいなものをいつも感じていましたね。

――最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。

いまは自由に外に出られない人もいるかもしれません。でも楽しいことがぜんぶなくなっちゃうわけじゃない。楽しいことはいつも、自分の心の中にあると私は思っています。
私は自分の中の「あそび心」をいつも大切にしています。「あそび」っておふざけのことではなく、工学で言うところの、変化に対する「ゆとり」とか「余裕」のこと。どんな状況だって、「そうぞう力(想像力・創造力)」と、ちょっとの「あそび心」で、なんとかなるんじゃないかなと思います。絵本があれば、なおさら。


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