トン トン トン
階段のほうから音がする。
誰かが2階に登って行ったようだ。
「誰?」
母親は、今日は仕事でまだ帰って来ていない。
父親もこんな時間には家にはいない。
「利佳ちゃんなの?」
忘れ物でもして、取りに戻って来たのだろうか?
亜美花は玄関まで行き、階段を見上げるが、誰の姿もない。
玄関に、利佳の靴も置かれていない。
「じゃあ、誰?」
音がしたような気がしただけなのだろうか?
ドンッ
2階から大きな音が響いた。
やはり誰かがいる。
「だ、誰なの??」
ずっと……いっ……しょ
かすかに声が聞こえた。
「利佳ちゃん?」
ずっと……いっ……しょ
声は、2階から聞こえて来る。
「どうしたの? 忘れ物なの?」
亜美花は、戸惑いながらも、階段を上がった。
だが、廊下に利佳の姿はない。
「お部屋にいるの?」
亜美花は、自分の部屋を覗いた。
利佳の姿はない。
「利佳ちゃん、どこ?」
ずっと いっしょ
「えっ?」
背後から声がして、亜美花は後ろを振り返る。
しかし、誰もいない。
「ね、ねえ、どこにいるの?」
亜美花は辺りを見回す。
ドンッ
壁から大きな音がした。
「えっ?」
音がしたのは、廊下の突き当たりの壁だ。
「何、なの……?」
亜美花は、戸惑いながら壁に近づく。
壁に、何かが書かれている。
文字のようだ。
赤色で書かれていて、インクが垂れている。
亜美花は、壁をじっと見つめ、文字を確認した。
ズゥゥゥゥゥウット イッショォォオォオォ
「何、これ……」
瞬間、亜美花は背後に気配を感じた。
ハッとして振り返る。
すると真後ろに、血だらけの女が立っていた。
次の瞬間、女は口を大きく開いた。
●
翌日。
亜美花の家の前には、人だかりができていた。
「急にいなくなったんですって」
「玄関の鍵はしまっていたらしいわよ」
「家の中を見た人から聞いたんだけどね。2階の廊下、壁中に血の痕があったらしいわ」
近所の人たちが噂話をしている。
その様子を、利佳はいちばん後ろから見ていた。
「亜美花ちゃん……」
亜美花がいなくなったのは、利佳が帰ってすぐのことらしい。
「どこに行ったの??」
利佳は不安に思いながら、ふと、道路を見た。
人だかりから少し外れた場所に、ひとりの少年が立っている。
少年は、耳にイヤホンをして、苦々しい表情で亜美花の家を見ていた。
「助けられたはずなのに……」
「えっ?」
白い服を着ていて、左目が赤色だ。
「名前を言っちゃったんだ。そのせいで、『ズットイッショ』に襲われて……」
少年は誰に言うでもなくそう呟く。
「ズットイッショは何とか倒したけど、だけど彼女は……」
「どういうこと?」
利佳はその言葉が気になり、そばに駆け寄った。
「あの、亜美花ちゃんのこと何か知ってるんですか?」
少年は、利佳を見ると、悔しそうな顔をした。
「僕に関わっちゃいけないんだ……」
そのとき、少年の持っていたペンが動いた。
ペンはわずかに宙に浮くと、まるで意思を持っているかのように、ゆっくりと回転する。
やがて止まると、ペン先が亜美花の家とは反対の方向を指し示した。
「また、どこかで災悪が……」
少年は震えながらも、目を閉じる。
そして、ゆっくりと開けると、耳からイヤホンを外した。
少年は、沈痛な表情を浮かべながら、ひとり歩き出すのだった。
第5回へ続く
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