つばさ文庫の大人気シリーズ「恐怖コレクター」の作者がおくる「呪ワレタ少年」1巻を、期間限定で特別公開するよ!
心の準備ができたら、スクロールしてね!
ケース5 伸びる髪
「あ~あ、ハンバーグのほうがよかったのになあ」
夕方。
中学1年生の服部和葉は、母親とスーパーに買い物に来ていた。
和葉は夕食にハンバーグをリクエストしたが、母親は魚に決めてしまったのだ。
「魚だっておいしいわよ」
「それはそうだけど。せっかく荷物持ってあげてるのに」
「感謝してるわよ。今度ハンバーグにするから」
「ほんと!? よおし、じゃあ帰りは私が荷物全部持つね!」
和葉は上機嫌になると、レジに並んだ母親を入り口付近のテーブルで待つことにした。
「ん?」
ガラス越しに見える入り口のそばに、ひとりの少年が座っている。
少年は荒く呼吸をしていて、苦しそうにしていた。
和葉は心配に思い、外に出て少年に声をかけた。
「大丈夫??」
年齢は同じぐらいに見える。
この辺りでは見かけたことのない顔だ。
少年は耳にイヤホンをしているが声は聞こえたようで、荒く呼吸をしながら、和葉のほうにわずかに顔を向けた。
左目が赤色のオッドアイ。
少年は、そんな目に涙を浮かべていた。
「ね、ねえ」
和葉がそばに近づこうとすると、少年は急に立ち上がった。
「僕に、関わっちゃいけない」
「えっ?」
少年は、苦しそうな顔をしながらも、フラフラしながらその場から去って行く。
「あ、ちょっと」
近寄りがたい雰囲気があるが、このまま別れるわけにはいかない。
少年は、道路の角を曲がる。
和葉は走ると、同じように角を曲がり、少年に声をかけようとした。
「えっ?」
少年の姿がない。
和葉は周りを見るが、どこにもいない。
「どういうこと……?」
少年は、煙のように消えてしまったのだ。
その夜。
和葉は家族と夕食を食べながら、少年のことを話していた。
「おねえちゃん、その人ゆうれいだよお」
5歳の妹の梓が興奮しながら言う。
「何言ってるの。そんなのいるわけないでしょ」
和葉は呆れるが、梓はブンブン首を横に振った。
「いるよ。瑠留ちゃんが見たっていってたもん」
瑠留とは、梓と同じ幼稚園の女の子だ。
梓は、怖い話や不思議な話が大好きらしい。
「この前ね、瑠留ちゃんからすご~くこわいお話おしえてもらったんだ」
「え、どんな話?」
「『のろわれた少年』ってお話だよ」
「何それ?」
「その人は白いふくをきてて、ひだりの目が赤いの。名前をいうと、のろわれちゃうんだよ」
「呪われる?」
「瑠留ちゃんのおにいちゃんが名前をかいた紙もらったよ」
梓は、棚に置いてあった通園バッグから紙を取り出し、和葉に見せた。
和葉は、その名前を見つめる。
「■■■■■?」
「あ、いっちゃだめだよ!」
「え?」
和葉は、少年の名前を言ったら呪われることを思い出した。
「も~、おねえちゃん、のろわれちゃうよ」
「そんなのあるわけないでしょ。何回言っても平気だよ」
「■■■■■」「■■■■■」「■■■■■」
和葉は笑いながら何度も名前を言った。
「おねえちゃん!」
梓は泣きそうな顔になる。
「和葉、もうやめなさい」
「そうだぞ、そんなことするなら、明日映画行くの中止にするぞ」
母親と父親が注意をした。
「え? 中止? そんなのダメだよ!」
明日は、家族でショッピングモールに行ってアニメ映画を見ることになっていた。
和葉はずっと楽しみにしていたのだ。
「ご、ごめんね、梓……」
和葉は自分だけ怒られたことに納得できなかったが、とりあえず、梓に謝ることにした。
(どうして、私が怒られなくちゃいけないのよ~)
深夜。
和葉は部屋のベッドで横になりながら、夕食の出来事を思い出していた。
(梓が変な話をするのが悪いんでしょ)
となりのベッドでは、梓がスヤスヤ眠っている。
そんな梓を見て、和葉はイライラする。
「ったく~」
和葉は、気分転換にお茶でも飲もうと、部屋を出た。
(も~、このことは忘れて、とっとと寝なくっちゃ)
キッチンで飲み物を飲み終えた和葉はそう思う。
(映画の後は何食べようかな~)
楽しいことだけを考えながら、部屋に戻ろうとした。
──するんですよ~
ふと、部屋のほうから声がした。
「何?」
梓の声だが、先ほどまで寝ていたはずだ。
「梓、起きたの?」
和葉は、入り口から、部屋を覗き込んだ。
「えっ?」
薄暗い部屋の中で、梓がベッドの上に座っている。
何かを抱えるように持っていて、それに話しかけているようだ。
おねんねするんですよ~
あやすように手を揺らしながら、薄暗い部屋の中で呟いている。
「何やってるの?」
和葉は戸惑いながら、照明のスイッチを押した。
部屋が明るくなり、梓が照らされる。
その手には、日本人形を抱いていた。
「それって」
亡くなった祖母が大切にしていた赤い着物を着たおかっぱの女の子の人形だ。
祖母が亡くなった後、梓が気に入り、部屋に飾ることにしたのだ。
「おねえちゃん……?」
梓はキョトンとした表情で、和葉を見る。
「こんな時間に、どうしてお人形ごっこなんかしてるの?」
「お人形ごっこ?」
梓は、自分の手を見た。
「わ。なにこれ?」
どうやら、自分が人形をあやしていたことに気づいていなかったようだ。
「寝ぼけてたの?」
「う~、そうかも」
梓は時々寝ぼけることがある。
以前も、深夜に両親の寝室にやってきて、「ケーキはまだ?」と言ってきたことがあった。
ケーキを食べようとする夢を見ていて、目覚めても夢と現実の区別がつかなくなっていたのだ。
「だけど、わたし、お人形ごっこの夢なんか見てないよお」
「いいから、早く寝たほうがいいわよ。映画見てるときに眠くなるのは嫌でしょ」
「それはヤダ」
梓はあわてて、人形をいつも置いている棚の上に置くと、ベッドに戻った。
「じゃあ、おやすみ」
和葉はそれを見届けると、部屋の照明のスイッチを切り、自分のベッドに入ろうとした。
フフフフフフ
薄暗い部屋の中で、かすかに笑い声が聞こえた。
「あのねえ、笑ってないで、ちゃんと寝て」
和葉は呆れながら言う。
だが、梓はベッドの中から上半身を起こし、和葉のほうを見て首を傾げた。