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【期間限定】『呪ワレタ少年』1巻無料スペシャル連載 第5回

「わたし、笑ってないよ」


「えっ?」

 たしかに笑い声がかすかに聞こえた。

「じゃあ、今のは……?」

 和葉は思わずぼう然となってしまうのだった。


「はっはっは。それはたぶん和葉も寝ぼけてたんだよ」

 翌朝。

 和葉は、家族とともにショッピングモールに出かける準備をしていた。

 服を着替えていた父親は、笑い声がしたという話を聞き、そう推理した。

「私は寝ぼけてなんかなかったよ。ほんとに怖かったんだから」

 和葉が困惑していると、化粧を終えた母親がリビングに戻って来た。

「和葉の話も怖いけど、梓がお義母さんの日本人形で遊んでいたというのも怖いわね」

「うん、わたし、お人形みるのこわくなっちゃった」

 準備を終えてソファーに座っていた梓が答える。

「あれって、ほんとに私をビックリさせるためにしたんじゃないんだよね?」

「わたし、そんなことしないもん」

「それならいいけど」

 考えれば考えるほど、何だか不気味に思える。

 すると、父親が「考えすぎだよ」と言った。

「梓も和葉と同じで、寝ぼけていて、夢と現実がゴッチャになっていただけだよ」

「それは……」

 目ははっきりと覚めていたような気がするが、和葉はだんだん自信がなくなる。

「まあ、もうその話は終わりにしましょう。さあ、映画に行くわよ」

「そ、そうだね」

 楽しみにしていた映画を台無しにはしたくない。

 和葉は気を取り直して、出かけることにした。



   ●


 町の道路。

 ひとりの少年が立っている。

 白い服を着た、あの少年だ。

 手の上には銀色のペンが浮かんでいて、ある方向を指し示している。

 少年はそれをじっと見つめていた。

「また、災悪が現れるなんて……」

 少年は身体を震わせる。

 その表情は、怯えていた。

「それでも行かなきゃ……」

 少年は、イヤホンを耳から外し、ペンの指し示したほうへ歩き始めようとした。

 そのとき、


 キィィ───


 角を曲がってきた車が背後で止まった。

 道路の中央に、少年が立っていたから、あわてて停車したのだ。

「怪我はないかい?」

 運転席の窓を開け、男の人が少年に声をかける。

 少年は小さく頷き、脇に寄ると、そのまま歩き出そうとした。

「ちょっと待って!」

 車の後部座席のドアが開き、女の子が降りてきた。

 和葉だ。

 車には、和葉の家族が乗っていた。

「君、スーパーの外にいたよね?」

 和葉は少年を驚きながら見る。

「幽霊じゃなかったんだ」

「幽霊……?」

「あ、ごめん、何でもない」

 先日消えてしまった少年が存在していて、和葉はホッとする。

「それよりほんとに大丈夫だったの?」

 和葉はスーパーの前で出会ったときのことを思い出し、少年に近づこうとした。

 すると、少年は手を挙げ、それを拒絶した。

 その顔は、なぜか悲しそうな顔をしている。

 少年はそのまま足早に角を曲がり、去って行った。

「あ、ちょっと」

 和葉は追おうとする。

「和葉、行くわよ」

 そんな和葉を、助手席に座る母親が呼び止めた。

「あの子、大丈夫そうに見えたわ。だから車に乗って」

「う、うん……」

「はっはっは。あの子がスーパーで会った子かい? 幽霊じゃなくて残念だったねえ」

「別に残念とかじゃないけど」

 少年は、悲しそうな表情をしていた。

 和葉はそれが妙に気になった。

(だけど、私にはどうすることもできないよね……)

 少年がどこの誰なのかも分からない。

 和葉は、少年のことを心配しながらも、車に乗り込むのだった。


 一方、和葉たちの前から去った少年は、ふと、歩みを止めた。

 手の上に浮いているペンを見る。

 ペンはゆっくりと回転している。

 そして止まると、今、少年が歩いて来た方向を指し示した。

「方向が変わった。……もしかして」

 少年は、あわてて来た道を戻る。

 そして和葉たちを探したが、車はすでに走り去った後だった。

「そんな……」

 少年は苦々しい表情を浮かべる。

 すぐに追いかけようと思うが、一瞬立ち止まった。

「行けば、また災悪が……」

 全身が震える。

 目に涙が溜まる。

「だけど、このままじゃあの子が」

 少年は、目を深く瞑り、自分の拳で太ももを叩き、震えを無理やり止めた。

「そんなの絶対にだめだ!」

 少年は、目を見開くと、全身に力を入れ、その場から走り出した。



   ●


「よおし、着いたぞ~」

 しばらくして。

 和葉たちは、ショッピングモールの地下駐車場に到着した。

「おねえちゃん、映画たのしみだね」

「う、うん」

 和葉は少年のことがまだ気になりながらも、シートベルトを外した。

「映画の後、ご飯も食べよう」

「そうね。和葉が食べたがっていたハンバーグとかいいわね」

「わーい、ハンバーグ、わたしだいすき~!」

 梓たちは笑いながら、車を降りる。

 和葉も外に出ようと思った。

 そのときふと、後部座席を見た。

「えっ?」

 後部座席に、何かがポツンと置かれている。


 おかっぱの日本人形だ。


「どうして人形があるの?」

「どうしたんだい?」

 戸惑う和葉を見て、両親もそばにやって来た。

「車の中に日本人形があったの」

 和葉は、両親に見せようと、人形を手に取った。

 バサッ

 人形の黒い髪が、掴んだ和葉の手に垂れる。

「えっ?」

 和葉と梓は同時に戸惑う。


 おかっぱのはずの人形の髪が、腰の辺りまで伸びていた。


「何これ??」

 和葉は梓のほうを見る。

「これ、部屋にあった人形よね?」

「うん。だけどこんなに髪ながくないよお」

「おいおい、どういうことだい?」

 父親は和葉から人形を受け取ると、ジロジロと眺めた。

「う~ん、ほんとに髪が伸びたみたいになってるねえ」

「あなた、まさかそんなことがあるの?」

 母親の言葉に、父親は「はっはっは」と笑った。

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