「ぐあああぁぁ!!」
髪の繭のほうから、少年の悲鳴が響いた。
和葉たちが見ると、少年の全身に黒い髪が巻きついていた。
少年の身体はミイラのようになっていて、手足を動かすことができない。
「あああ、があああ」
髪が少年の身体を締めつけていく。
「あ、あああ、ああ」
少年の顔が、苦悶の表情に変わっていく。
「そんな!」
「君、今すぐ助けるぞ!」
父親がそう言うが、少年は苦しみながらも、また首を横に振った。
「こ、これは……、僕のせい……なんだ……」
「僕のせい?」
和葉たちが戸惑っていると、髪の繭の中から何かが出てきた。
フフフフフフ
日本人形だ。
カタカタカタカタカタ
人形は不気味な音を響かせながら、繭の上に立つと、少年のほうを見た。
ギュウウゥゥゥ
「うわああああ!」
人形から伸びた髪が、さらに少年を締めつける。
全身に激痛が走り、気を失いそうになる。
それでも、少年はペンを持った手に力を入れた。
朦朧としながらも、人形を睨む。
ペンを強く握り締める。
「僕は……、お前を──!」
少年は、目をカッと見開く。
刹那、ペンの表面に見たこともない奇妙な模様が浮かび上がる。
少年がペンを走らせると、宙に青白い炎が現れ、円が描かれた。
ウウウゥッ!!
人形が怒ったような声をあげる。
少年は円の中に見える日本人形を睨んだ。
少年の赤い目が光る。
その目に何かが視える。
それは、人形の『名前』だ。
「すべての災悪を、この光によって打ち消さん! お前の名は──」
少年は、ペンを走らせ、空中に文字を書いた。
カ ミ ノ ビ ニ ン ギョ ウ
瞬間、髪伸び人形の動きがピタリと止まった。
身体を小刻みに震わす。
ウウゥ ギャアアア アァァァ
次の瞬間、髪伸び人形の身体にヒビが入り、光が漏れ出す。
そのまま、粉々になって消滅した。
髪も消え、少年はその場に倒れる。
「大丈夫!?」
和葉たちは少年に駆け寄ろうとする。
だが、少年は手を挙げ、それを拒んだ。
「君たちの誰かが……、『呪われた少年』の名前を言っちゃったんだ。だから……、災悪が現れてしまった……」
「名前……」
和葉は、自分が呪われた少年の名前を言ったことを思い出した。
「私のせいで」
少年はそれを聞き、フラフラしながら立ち上がると、首を横に振った。
和葉は、そんな少年の姿を見る。
そして、ハッとした。
白い服を着ていて、左目が赤色のオッドアイ。
「もしかして、あなたは」
和葉は、昨日見た呪われた少年の名前が書かれた紙を思い出した。
壊井ウワサ
紙には、『壊井ウワサ』という彼の名前が書かれていた。
「僕に関わっちゃいけないんだ……」
ウワサは和葉たちにそう言う。
刹那、全身が痛み、苦しそうな表情をする。
「あっ」
和葉は心配し近寄ろうとするが、足が思わず止まった。
彼は、呪われた少年なのだ。
ウワサは、そんな和葉を見つめる。
その表情は、どこか悲しそうだ。
やがて、ウワサは耳にイヤホンをつけると、何も言わず、その場から去って行った。
「え、あのお兄ちゃんが?」
とある町。
小学5年生の内村晴喜は、ひとりの人物と話をしていた。
その人物は、中学生ぐらいの少年で、黒ずくめの服を着ている。
晴喜は、先日霧女に襲われたとき、ひとりの少年に助けられた。
彼こそが呪われた少年だったのだ。
「やはり、この町に来てたんだね」
黒い服の少年が呟く。
「あのお兄ちゃんのことを知ってるの?」
晴喜が尋ねると、黒い服の少年は小さく頷いた。
「とてもよく知っているよ。彼さえいなければ、災悪は現れることはない。だから、僕は……」
黒い服の少年は、険しい表情でそう言う。
その拳は、震えるほど強く握り締められていた。
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