「そんなのあるわけがない。誰かのイタズラに決まってるよ」
父親は、和葉のほうを見た。
「和葉、お前がやったんだな?」
「ええ? 私??」
「昨日の夜、寝ぼけて人形遊びをしていた梓にびっくりさせられただろう? その仕返しをしようと思って、日本人形をこっそり持ってきたんだろ」
後部座席にあった人形を見つけたのは、和葉だ。
父親は、和葉がどこかに隠していたのだと思った。
「私、そんなことしないよ!」
和葉は必死に否定するが、父親は信じてくれないようだ。
そんななか、母親が人形をじっと見つめた。
「だけど、イタズラだとしても、この髪はどこから持ってきたのかしら?」
「そう言われれば、たしかに」
父親も戸惑う。
「だから、私がやったんじゃないってば」
和葉は人形を見つけたせいで犯人扱いされ、思わず腹が立った。
そのとき──、
「うわっ」
父親が声を上げた。
和葉は父親のほうを見ると、目を大きく見開いた。
日本人形の髪が、さらに伸びていたのだ。
「どういうこと?」
さっきは腰の辺りまでだった。
それが今は足の辺りまで伸びている。
「おねえちゃん、なにそれ??」
「分からないよ」
「髪がズレたのかも」
父親は戸惑いながら、人形の髪を触った。
バサーッ
瞬間、髪がうねるように伸びた。
「ひいっ!」
父親は驚き、人形を投げ捨てる。
「あなた!」
母親は父親のそばに近づこうとした。
だが、足に何か違和感を覚え、立ち止まった。
「お母さん?」
和葉はそんな母親に気づき、彼女の足元を見た。
足に、何かが絡みついている。
それは、黒い髪だ。
髪は、人形から伸びていた。
「きゃあああ!」
「お母さん!」
フフフフフフ
不気味な笑い声がする。
人形がカタカタカタと音を響かせながら、和葉たちのほうに首を動かした。
「うわあああ!」
カタカタ カタカタカタカタ
人形が手足を動かし、ゆっくりと立ち上がる。
「あなた!」
「何だこれは??」
父親は母親の足に絡みついた髪を必死に外そうとする。
フフフフフフ
瞬間、人形から髪がさらに伸びた。
その髪が父親の身体に絡みつく。
「うわっ!」
さらに、母親にも髪が巻きついた。
「お父さん、お母さん!」
「お、おねえちゃん!!」
梓が声をあげる。
和葉がハッとして顔を向けると、黒い髪がウネウネと動きながら梓のほうに迫っていた。
「梓!」
和葉は梓のもとへ走る。
だが、黒い髪が和葉の腕に巻きついた。
ギュウウゥゥ
「うわあああ!」
和葉の腕が締め付けられる。
「おねえちゃん!」
「あ、梓」
カタカタカタカタカタ
人形が音を響かせながら、ゆっくりと和葉たちに迫って来た。
●
「くっ、どこにいるんだ??」
少年は、ショッピングモールに来ていた。
手の上に置いたペンを見る。
ペンはクルクルと回転している。
「この近くにいるはずなのに……」
すべての階を見たはずだ。
「あと残ってるのは」
少年は、そばにあるショッピングモールの案内図を見た。
「あっ」
行っていない場所が、まだ1カ所だけあった。
地下駐車場。
少年は、あわてて階段を駆け下りた。
「早く助けないと! 僕が絶対助けないと!」
階段を駆け下りながら、少年は叫ぶ。
やがて、地下駐車場へと続く鉄のドアの前に辿り着いた。
少年は目を大きく見開くと、ドアを勢いよく開けた。
フフフフフフ
駐車場に不気味な笑い声が響いている。
一角に、ウネウネと蠢く巨大な塊が見える。
大量の黒い髪だ。
「助けて!」
髪の繭の中から、和葉の声が聞こえる。
「やめろ!」
少年は、和葉たちのもとへ全力で走った。
「しっかりして!」
髪をかき分け、必死に呼びかける。
すると、和葉の顔が見えた。
「あ、あなたは……」
「手を伸ばして!」
少年は髪をかき分けながら、和葉に手を差し出す。
「う、うう」
和葉は全身に力を入れ、手を伸ばし、少年の手を掴んだ。
「んんん!!」
少年はその手を懸命に引っ張る。
和葉は何とか髪の繭の中から外に出ることができた。
「みんながまだ中に!」
「分かった。君は離れてて!」
少年は、髪をさらにかき分け、梓たちを救おうとする。
フフフフフフ
すると、髪の繭の中から、日本人形の笑い声がした。
黒い髪が伸び、少年にまとわりついた。
「ぐああっ!」
「あっ!」
和葉は助けなければと思い近寄ろうとするが、少年は首を横に振り、それを拒んだ。
「来ちゃ……だめだ。こ、これぐらいで僕は──」
さらに髪が絡みつく。
少年は苦しそうにしながらも、髪をかき分け続ける。
梓を救い、その奥にいた父親と母親も外に引っ張り出す。
「みんな!」
「おねえちゃん!!」
みな、大きな怪我は負っていないようだ。
和葉たちは抱き合って助かったことを喜んだ。