シリーズ累計100万部突破(※海外発行部数を含む)の大人気ホラー「恐怖コレクター」が、2026年秋にアニメ化決定! さらに、12月10日には『恐怖コレクター 巻ノ二十七 マボロシの野望』が発売!
ますます注目の「恐コレ」1巻を、期間限定で特別公開するよ。
もう一度ふりかえり読書して、アニメへの準備をカンペキにしておこう!
※公開期間は2026年1月12日23:59までです。
1つ目の町 くねくね
くねくねと動く、謎(なぞ)の白い人影(ひとかげ)で、近くで見ると
不幸な目に遭(あ)うと噂(うわさ)されている。その正体について
インターネット上では「幽霊説」「見間違い説」など
様々な議論が交わされているが、
詳(くわ)しいことはわかっていない。
水辺での目撃(もくげき)情報が多いとされる。
* * *
「ねえねえ、『顔のない子供』って知ってる?」
学校からの帰り道。
相川捺奈(あいかわなつな)は前を歩く宮元友里恵(みやもとゆりえ)を見ながら、ウンザリした表情を浮かべていた。
捺奈には苦手なことが2つある。
1つは、昆虫(こんちゅう)を手でつかむことで、もう1つは、6年2組のクラスメイトで親友の友里恵が話す「都市伝説の噂話(うわさばなし)」を聞くことだった。
友里恵は都市伝説が大好きで、ネットで色んな話を見つけてきては、学校帰りに捺奈と、もうひとりのクラスメイトで親友の大森凛(おおもりりん)にその話をした。
捺奈と凛は『人面犬』、『トイレの花子さん』といった有名な都市伝説を、友里恵から教えてもらっていたのだ。
捺奈はそういう話を聞くたびに、思わずゾッとして、できればもう聞きたくないと思っていた。
だけど、友里恵は捺奈が怖がるのがうれしいのか、いつも都市伝説の噂話をネットで見つけてきては、2人に話していた。
今日は、『顔のない子供』という都市伝説のようだ。
「最近ネットで話題になってて、フードを被(かぶ)った見知らぬ子供と出会ったら、必ず不思議なことに遭遇(そうぐう)しちゃうっていう話なんだ」
「不思議なこと?」
捺奈がたずねると、友里恵は「う~ん」と声を出した。
「具体的なことはよく分からないけど、とにかく不思議なことが起きるみたい。その子供を目撃(もくげき)した人の書き込(こ)みがネットにいくつも残っているんだけど、赤いフードを被ってたっていう人もいれば、黒いフードを被ってたっていう人もいて、男の子だったっていう人もいれば、女の子だったっていう人もいるみたいなの」
「確かにそれはちょっと不思議かも……」
捺奈は今まで聞いた都市伝説の中で、いちばんよく分からない話だと思った。
怖いというより、不思議。今日はゾッとしなくて済みそうだ。
しかし、そんな捺奈の気持ちに気づいたのか、友里恵がにやりと笑った。
「だけどね、この話が怖(こわ)いのはここからなの––」
友里恵は急に真剣(しんけん)な表情になって、捺奈と凛を見つめた。
捺奈は思わず緊張(きんちょう)してゴクリとノドを鳴らす。
「ある人がね、興味本位でその子供のフードの奥にある顔をのぞいてみたの。するとね、その顔には、目も鼻も口もなかったんだって」
「目も鼻も口も?」
のっぺらぼう、だから、顔のない子供––⁇
捺奈はゾッとして、思わず身体をぶるっと震(ふる)わせた。
やっぱり、今日も怖い話だった。
すると、今まで全然喋(しゃべ)っていなかった凛が、友里恵を見ながら口を開いた。
「それって、本当のことなの?」
凛は捺奈と同じように、都市伝説の話が好きではない。
ただし、捺奈とは違(ちが)って、話を聞いてゾッとするのではなく、いつも眉間(みけん)にしわを寄せて怒っていた。
「友里恵が今まで言った話は、全部ただの作り話じゃないの? 顔のない子供もいるわけないよ」
凛の言葉に捺奈は納得して小さくうなずく。
しかし、友里恵は納得していないのか、キリッとした表情で凛をにらんだ。
「もし本当に作り話だとしたら、どうして見たっていう人がいるの?」
友里恵は凛と違って、都市伝説は本当のことだと思っていた。
だからネットで毎日のように調べていたのだ。
「ネットには、大勢の人が色んな都市伝説を体験した話を書いているんだよ? それが全部噓(うそ)だっていうの⁇」
「それは……」
凛は思わず反論できなくなってしまう。
確かに、みんながみんな作り話を書いているとは思えない。
すると、捺奈はふとあることを思いつき、2人のほうを見た。
「だけど、私、身近でそういう人見たことないよ?」
友達にも家族にも親戚(しんせき)にも、都市伝説を体験した人はいない。
「友里恵も体験したことないんだよね?」
「それはそうだけど……」
捺奈の質問に友里恵は力なく答えた。
それを見て今度は凛がキリッとした表情で友里恵をにらんだ。
「それって、本当の話かどうか分からないってことだよね?」
「それは……、うん」
「全部作り話かもしれないってことだよね?」
「……うん」
凛の質問に友里恵は何も答えられなくなり、思わず下を向いてしまった。
「友里恵……」
捺奈はそんな友里恵を見て可哀想(かわいそう)に思い、あわてて2人の間に入った。
「凛、とりあえず、今日はもうこの話はお終いにしよ」
「だけど」
「都市伝説の話は怖いけど、友里恵はそういう話が好きなんだからしょうがないじゃない。私たち、親友でしょ」
捺奈がそう言うと、凛は「……分かった」と答えた。
「ごめんね、友里恵。ちょっと言い過ぎちゃった」
「ううん、私もいつも怖がらせてごめんね」
友里恵は反省したようで、凛に頭を下げる。
それを見て凛も笑顔になり、機嫌(きげん)が直ったようだった。
「よし、じゃあ、お家に帰ろう!」
捺奈はわざと明るい声を出して、2人と一緒(いっしょ)に再び歩き始めた。
「あれなに?」
捺奈が5歩ほど歩いたとき、突然(とつぜん)、後ろを歩いていた友里恵が小さな声を出した。
「どうしたの?」
捺奈がふり返ると、友里恵は真剣な表情で、道路の向こうに広がる田んぼを見つめていた。
「あそこ……」
友里恵は田んぼの真ん中辺りを指さす。
捺奈と凛は首をかしげながら、その方向に顔を向けた。
「えっ––⁇」
見ると、田んぼの真ん中辺りに、何かがいる。
それは白い人影だった。
「なに……、あれ⁇」
7月の中旬(ちゅうじゅん)、時刻は午後4時。
空はまだ明るく、田んぼには青々と生い茂(しげ)る稲(いね)がはっきり見えている。
それなのに、白い人影は、なぜか人の形ではなく、影にしか見えなかった。
顔も身体も手も足も、ただの白い影。
そんな白い影が全身をくねくねと不気味に動かしながら、田んぼの真ん中に立っていたのだ。
「誰かのイタズラ……?」
捺奈がおびえた表情でつぶやく。
「だけど、どうすればあんな姿になるの……⁇」
全身を覆うタイツのようなものを頭から被っているのだろうか?
それとも煙(けむり)を焚(た)いて、顔や身体を見えなくしているのだろうか?
捺奈があれこれ考えていると、突然、頭の奥(おく)で音が響(ひび)いた。
キィィーン。
高く尖(とが)った金属音。
「あ、ああ……」
捺奈はその音を聞いた途端(とたん)、急に頭が痛くなった。
ただの痛みではない。
頭の内側から誰(だれ)かがガンガンと激しく叩(たた)いているような激痛である。
「い、嫌っ!」
捺奈はその痛みに耐え切れず、思わず頭を押(お)さえた。
「友里恵、凛、助けて!」
捺奈は2人のほうを見る。
しかし友里恵と凛もなぜか同じように頭を押さえていた。
「捺奈! 私、頭が!」
「私も……」
「友里恵……、凛……」
キィィーン。キィィーン。
高く尖った金属音が先ほどより大きな音を立てて響く。
頭はさらに痛くなり、このまま割れてしまうのではと捺奈は焦(あせ)った。
「早く家に帰ろう!」
捺奈がそう言うと、友里恵と凛が大きくうなずく。
3人はそのまま逃(に)げるように、その場から走り出した。
しばらくして。捺奈たちはふと、立ち止まった。
なぜか、頭の痛みが消えてしまっていたのだ。
キィィーンという金属音も聞こえない。
「どうして?」
「全然痛くない……」
「私も……」
友里恵と凛も痛みが消えているようだ。
3人は先ほどの場所から3分ほど走った場所にいる。
「さっきのは何だったの⁇」
捺奈たちは思わず首をかしげた。
頭が痛くなった理由も治った理由も、まったく分からなかったのだ。
しかしまた頭が痛くなるかもと不安に思い、3人は急いで家へ帰ることにした