シリーズ累計100万部突破(※海外発行部数を含む)の大人気ホラー「恐怖コレクター」が、2026年秋にアニメ化決定! さらに、12月10日には『恐怖コレクター 巻ノ二十七 マボロシの野望』が発売!
ますます注目の「恐コレ」1巻を、期間限定で特別公開するよ。
もう一度ふりかえり読書して、アニメへの準備をカンペキにしておこう!
※公開期間は2026年1月12日23:59までです。
2つ目の町 赤いクレヨンの真実
インターネットを中心に話題となっている都市伝説。
誰も使っていないはずの赤いクレヨンが落ちている家には、
どこかに隠(かく)し部屋があり、その壁(かべ)は赤いクレヨンで書かれた
『オカアサンダシテ』の文字でうめつくされているという。
* * *
「わ~、広~い!」
篠原(しのはら)まどかはその家を見て、思わず大きな声をあげた。
ショートカットの栗(くり)色の髪(かみ)に大きな目が印象的な、小学5年生の女の子。
日曜の昼下がり。まどかは家族と一緒に新しい家に引っ越(こ)してきた。
白い壁(かべ)の前に庭木が何本も植えられている一軒家(いっけんや)。入り口には鉄の門も付いていて、今までマンション暮らしだったまどかの目には何もかもが新鮮(しんせん)に見えた。
「中古の物件だったけど、前の人が丁寧(ていねい)に使っていたから中も綺麗(きれい)だよ」
車のトランクからバッグを降ろしながら父親がまどかにそう言った。
「まどかの部屋も広くて綺麗よ」
助手席から降りてきた母親が言う。
「見てきていい?」
「もちろん。あなたの部屋は2階のいちばん奥(おく)よ」
「は~い!」
まどかは家に入ると、2階へと続く階段を駆(か)け上がった。
2階には階段を上ったところに2つ、廊下(ろうか)を少し進んだところに1つ、部屋があった。
母親が言っていたのは、廊下を進んだところにある奥の部屋のことだろう。
まどかはワクワクしながら、その部屋のドアを開けた。
「すご~い!」
部屋を見て、まどかは感激の声をあげた。
母親の言っていた以上に、部屋は広くて綺麗だった。
8畳(じょう)ほどの洋室。部屋にはすでに引っ越しの荷物が運び込(こ)まれていて、見慣れたベッドや机などが並べられている。
「今日からここが私のお部屋なんだね!」
窓は大きく、南側にあり、明るい日差しが部屋の中を照らしていた。
以前住んでいたまどかの部屋は、小さな窓しかなく、となりのマンションと近かったせいで、昼でも照明をつけなければならないほど、太陽の光がまったく入ってこなかった。
まどかはそんな部屋が好きではなく、いつも両親に不満を言っていた。
そのおかげなのか、今度はちゃんと太陽の光がたっぷり入る場所を選んでくれたようだ。
「この部屋は好きになれそう!」
まどかはすっかり部屋を気に入り、満面の笑みを浮(う)かべた。
「良かったね、お姉ちゃん」
「ゆりか!」
まどかは、いつの間にかドアの前に来ていた妹のゆりかのそばへと駆け寄る。
ゆりかはクマのヌイグルミを大切そうに抱(だ)き締(し)め、まどかを見ていた。
「ゆりかも新しいお家に引っ越せて嬉(うれ)しいでしょ?」
まどかの問いに、ゆりかは「うん!」と元気良く答えた。
「すごく嬉しい。お姉ちゃん、このお家でも仲良くしてね」
「当たり前でしょ!」
まどかは思わず笑った。
「ゆりかは私の可愛い妹なんだから。今まで通りずっと仲良くしようね!」
まどかの言葉に、ゆりかはまた「うん!」と元気良く答えた。
●
翌日。
まどかは新しい小学校に通い始めた。
5年3組。転校してもちゃんと今まで通り友達ができるか不安だったが、そんな不安は昼休み前には解決した。
この学校では転校してくる児童が少ないらしく、自然とクラスメイトたちがまどかの周りに集まってきたのだ。
まどかは人と話をするのが好きだった。
性格も明るく、初対面の人でも気軽に会話を楽しむことができる。
おかげで、昼ご飯を食べる頃(ころ)には、桃香(ももか)と亜衣(あい)という2人のクラスメイトと仲良くなっていた。
「ねえねえ、まどかちゃんって都市伝説とか好き?」
机を近づけて2人と給食を食べていると、桃香が何気なくまどかにたずねた。
「都市伝説? う~ん、好きでも嫌いでもないかな。あんまりそういう話詳(くわ)しくないから」
まどかが答えると、亜衣と桃香が同時に「そうなんだ~」と声を出した。
「最近ね、この学校で都市伝説が流行ってるの。まどかちゃんは、くねくねって知ってる?」
桃香がそう言うと、まどかは「知らない」と素直に答えた。
「くねくねというのは田んぼの中でくねくね動く謎(なぞ)の白い人影(ひとかげ)なんだけど、ある町で、小学6年生の女の子が3人、それを偶然(ぐうぜん)目撃(もくげき)したんだって。くねくねを見たら必ず襲(おそ)われちゃうの。それでその女の子たちもくねくねに襲われて、行方不明になっちゃったんだって」
「行方不明⁇」
まどかは思わず給食を食べるのをやめ、桃香のほうを見る。
「それって本当のこと?」
「さあ、それはよく分からないけど、塾(じゅく)の友達がその町に住んでいる人を知ってる友達から聞いたんだって。その町では『顔のない子供』も目撃されたらしいよ」
「顔のない子供? もしかしてそれも都市伝説?」
「うん。フードを被(かぶ)った男の子らしいんだけど、目も鼻も口もないんだって。その男の子と出会ったら不思議なことに遭遇(そうぐう)しちゃうらしいの。女の子たちもその男の子に出会ったから、くねくねを見ちゃったらしいよ」
まどかはその話をにわかに信じられないでいた。
しかし、世の中には本当にそういうことがあるのかもしれない……。
「だけど、この町のことじゃないんだよね?」
くねくねや顔のない子供は、どこか知らない町で起きた話なのだ。
この町のことでなければ、怖(こわ)がることはないように思えた。
すると、今度は亜衣が口を開いた。
「くねくねや顔のない子供は他の町の話だけど、この町でも1つ、ある都市伝説の噂(うわさ)があるよ」
「どんな都市伝説なの?」
まどかが興味深げにたずねると、亜衣は真剣(しんけん)な表情になって顔を近づけた。
「『赤いクレヨン』って言って、ある呪われた一軒家のお話。ある日、その家に引っ越してきた家族が、家の中で赤いクレヨンを見つけたんだって。だけどクレヨンなんか誰も使ってなくて、どうして落ちていたのか分からないの。そしてある日、彼らは家の2階に隠(かく)し部屋があることに気付いて、部屋の中を見ることにしたの。するとね、部屋には小さな子供が書いた気味の悪い文字が、壁(かべ)にびっしり残されていたんだって。
オカアサンダシテ、オカアサンダシテ、オカアサンダシテ……。赤いクレヨンで、壁中にそう書かれていたらしいよ」
それを聞き、まどかは背筋に冷たいものを感じた。
すると、まどかがおびえていることに気付いた亜衣が、クスクスと笑った。
「まどかちゃんって結構怖がりなんだね。けど、その家がどこにあるのかみんな知らないし、本当かどうか分からないから、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」
「そうそう、都市伝説はあくまで噂だから。そんなことより早く給食食べよ」
桃香もクスクスと笑っている。
「そ、そうだね」
まどかは少し気にし過ぎたことを恥(は)ずかしく思いながら、照れ笑いを浮かべた。
(都市伝説は単なる噂。私には関係ないよね)
まどかはそう思うと、給食を食べ始めた。
しかし数日後、まどかは不思議な体験をしてしまう––。