シリーズ累計100万部突破(※海外発行部数を含む)の大人気ホラー「恐怖コレクター」が、2026年秋にアニメ化決定! さらに、12月10日には『恐怖コレクター 巻ノ二十七 マボロシの野望』が発売!
ますます注目の「恐コレ」1巻を、期間限定で特別公開するよ。
もう一度ふりかえり読書して、アニメへの準備をカンペキにしておこう!
※公開期間は2026年1月12日23:59までです。
3つ目の町 異様(いよう)なネコ
一見、ただの野良ネコにみえるが、抱(だ)き上げると
異様なまでに身体が伸(の)び、まるで尺取(しゃくと)り虫のように動く
生き物がいるという都市伝説。素早い動きで逃(に)げると言われているが、
詳(くわ)しいことはわかっていない。
* * *
1.石田美帆(いしだみほ)(14歳(さい)・中学生)
あれを見たのは、いつ?
「ええっと、2週間ほど前かな。塾(じゅく)から帰っているときだから、午後9時を少し過ぎていたと思う。一緒(いっしょ)の塾に通っている親友の奈々(なな)ちゃんと別れて、ひとりで路地を歩いていたの」
そこはいつも通ってる場所?
「ううん。その路地には電灯がなくて真っ暗だから、お母さんに夜は歩いちゃいけませんって言われているの。
だけどその日は見たいテレビ番組があって。その路地を通れば5分ぐらい早く家に帰れるから、そこを歩いてたんだ」
その路地で、あれを見たってこと?
「そう。だけど最初あれが何なのか分からなかった。だって、路地が真っ暗でよく見えなくて。
路地には花壇(かだん)があるんだけど、その花壇の上に誰(だれ)かが段ボールの箱でも置き忘れているのかなって思ったの」
あれは、段ボールの箱ぐらいの大きさってこと?
「う~ん、ちゃんと見てないけど、それぐらいの大きさはあったと思うよ」
どうして分かったの?
「そのとき分かったわけじゃないんだ。そこを通り過ぎた後、後ろから突然(とつぜん)声が聞こえてきたの。
キャッキャッキャッ、って。
人を馬鹿にしたような高い笑い声。
私、噂(うわさ)は知ってたから、もしかしてって思って後ろを見たんだけど、何もいなかったの。
ただ、花壇(かだん)のところにあった段ボールの箱が消えてて。それで、あの箱が、もしかしてあれだったんじゃないのかなって思ったんだ」
2.加藤広志(かとうひろし)(30歳・サラリーマン)
あの路地はよく通る?
「そうだよ、仕事が終わってからジョギングをするのが日課で、あの路地はそのコースになってるんだ」
あれを見たのはいつ?
「確か1ヶ月ほど前だったかな。夜、ジョギングをしていたら急に雨が降ってきてね。路地にある木の下で雨宿りすることにしたんだ。
9時ぐらいだったかなぁ。もう少し遅(おそ)い時間だったかもしれない」
どこにいた?
「屋根の上だよ。路地に沿っていくつも家が建ってるだろう?
雨宿りしているときに、ちょうど目の前に見えた一戸建ての屋根の上に、あれがいたんだ。
2階の部屋の明かりが窓からもれていて、その窓の横にある屋根の上にいたよ。あれの身体がはっきりと見えたよ」
どんな姿だった?
「う~ん、動いているところを見たわけじゃないけど、段ボールの箱ぐらいの大きさで、色は茶色。毛並みはフサフサしてたね」
『目』は見た?
「目? いいや。どこが顔なのかもよく分からなかったなぁ。屋根の上で丸まっていただけだったからね。
だけど、キャッキャッキャッ、っていう声は聞いたよ。
そんな鳴き方をするのは、あれしかいないよね?」
3.村山智(むらやまさとる)(19歳・浪人生(ろうにんせい))
キミの家の屋根に、あれがいたと聞いたんだけど。
「ふ~ん。それで何が知りたいわけ? 俺、別に話すことないけど」
キミの部屋は2階だよね? 路地側の部屋。
「だったらなに?」
あれがよく座ってたんだ。その部屋の横の屋根の上に。
「そうなんだ。全然気付かなかったよ」
本当に気付かなかった?
「どういう意味だよ?」
もし何かを知っていて隠(かく)していたとしたら、大変な目に遭(あ)うかもしれない。
「それって、例の噂か?」
まったく問題ないかもしれない。でも逆かもしれない。だから知っていることを教えて欲しい。
「……わ、分かった。正直に言うよ。だけど、俺は何も悪くないからな。それだけは分かってくれよ」
ああ。じゃあ、あれについて教えてくれる?
「あれの存在に気付いたのは、3ヶ月ほど前だ。俺はいつものように部屋で勉強をしていた。
すると、窓の外から声が聞こえてきたんだ。
キャッキャッキャッ。
人を馬鹿にしたようなムカつく声だよ。
俺は最初、あれの噂なんて知らなかったから、誰(だれ)かが外で笑っているんだと思ったんだ。
無視しようと思ったけど、ずっと声が聞こえてて。
それでいい加減腹が立って、文句を言ってやろうと窓を開けたんだ。
そうしたら、部屋から見える屋根の上に、あれがのんびり座ってたんだ」
不気味だと思った?
「不気味? いや、何か不思議だなって思ったけど、不気味だとは思わなかった」
それでその後は?
「とりあえず、あれが何なのか分からなかったけど、珍(めず)しい生き物だと思って写真に撮(と)ることにしたんだ。
それで机に置いてあったスマホを取りに行って、すぐ窓のところに戻(もど)ってきたんだけど、いつの間にかいなくなってたよ」
見たのはその日だけ? 他の人に聞いたら、1ヶ月前にも屋根の上にいたらしいけど。
「ああ、あれはあの場所が気に入ってたんだろうな。夜になるとよく丸くなって座ってたよ。
俺は写真に撮りたいっていつも思ってたんだけど、カメラを構えるとすぐ逃げ出してしまうんだ。
あれの写真って今まで誰も撮ったことがないんだろう? ネットで調べたらそう書いてあったよ。
あれは多分、自分の姿を写真や映像で残されるのが嫌(いや)なんだろうな」
そうかも。
ところで、さっき「俺は何も悪くない」と言ったけど、それはどういう意味?
「そのままの意味だ。あれがいなくなったのは、俺のせいじゃない」
いなくなった?
「1週間前のことだよ。その日、俺は勉強があまり進まず、イライラしてたんだ。
夜の9時過ぎだったかな。あれがいつものように鳴き始めたんだ。
キャッキャッキャッ。
これまで何度も聞いてすっかり慣れてたけど、イライラしていたから、異常に腹が立ってきて。
それで、窓を開けて持っていた参考書を投げつけてやったんだ。
うるさい! どこかへ行けって怒鳴(どな)ってな。
俺、コントロールが悪いから、参考書は当たらなかったけど、あれは驚(おどろ)いたみたいで、あわてて暗闇(くらやみ)の中に逃げていったよ」
それからは見てない?
「今まで2日に1度は見てたけど、あれ以来、見てないよ。
多分、他の場所に行っちゃったんじゃないか?
なあ、そんなことより、あれを驚かせたからって、俺、不幸になったりしないよな?
噂だと、あれに嫌われたら不幸になるってネットに書いてあったけど、俺、大丈夫だよな?」
4.小林洋子(こばやしようこ)(45歳・小学校の教師)
噂は間違(まちが)ってる?
「ええ、私はそう思いますよ。あれはそもそも誰かを嫌ったり憎(にく)んだりする生き物じゃないと思うんです。ただじっとその町に住み着くだけの害のない存在。そう思いませんか?」
どうしてそんなことが分かるの?
「だって、あれに嫌われたら不幸になるというのはただの噂話ですよね?
実際に不幸になった人はいないじゃないですか。
私は都市伝説というものをあまり信じませんが、もし本当にあれがいたとしても、悪い存在ではないと思うんです」
実際にあれを見たことはないよね?
「ええ、見たことはありません。ただ、児童たちがよく噂してますね。
昨日もある場所であれを見たと言っていた児童がいましたよ」
昨日?? その児童に会わせて欲しい。
「それはいいですけど、あなたはあれを見つけてどうするつもりなんですか?」
それは……。
「もしかして、あなたはあれと何か関係があるんですか? ただの興味本位で探しているようには思えないんですが」
関係がない、と言えば噓になるかもしれない。だけどあれを見たことはない。一度も。
「だったら、どうしてあれを探しているんですか?」
あれには、誰にも知られていない『ある力』があるんだ。
「力? それはどういう?」
一生に1度だけ、どんな質問にも正確に答えることができる力……。
あれに会って、どうしても聞かなければならないことがあるんだ。
「なるほど、そうなんですね。あなたは何かよほど大事なことをあれに聞きたいんでしょうね。
……分かりました。では、児童に連絡(れんらく)を取ってみましょう」
5.望月愛(もちづきあい)、望月彩(あや)(12歳、8歳・小学生)
小林先生から聞いたけど、キミたちは昨日あれを見た?
「うん、見たよ」
「彩も見た!」
どこで見たんだ?
「家の近くに小さな公園があって、そこで見たの。
その公園で妹の彩がいつも遊んでるんだけど、昨日は夕方になっても帰ってこないから、お母さんにご飯だから呼んできてって言われて、迎(むか)えに行くことにしたの」
そのとき、公園であれを見たってこと?
「夕方の6時ぐらいだったかなぁ。ブランコで遊んでた彩のところに行ったら、後ろの草むらから変な声がするって言われて」
「ずうっと、キャッキャッキャッ、って声が聞こえてて、気になってお家に帰れなかったの」
「それを聞いて私は、もしかして、あれなんじゃないのかなって思ったんだ。
学校でみんな噂してたし、ネットでも色んな人がそんな風な声を出すって書いてたから。
それで、彩と一緒に草むらを探すことにしたの」
それであれを見つけた?
「うん、草むらをちょっと入ったところにあるブロック塀(べい)の上にいたよ」
「塀の上で丸くなってうずくまってたよね」
「私は本当にいたんだって思ってびっくりしたんだけど、彩は嬉(うれ)しかったみたいで近づいていっちゃったんだ」
「だって、触(さわ)ってみたくなったんだもん。茶色の毛がフサフサしていて、段ボールの箱ぐらい大きくて、それに柔(やわ)らかそうだったんだ」
実際にできた、触ること?
「ううん、触ろうって思って近づいたら、あれがお耳をピーンって立てて、急に地面に飛び降りちゃったの」
飛び降りた?
「私も彩もびっくりしちゃったよ。
だって、学校にもあれを見た人は何人もいたんだけど、みんな、丸くなって座っている姿しか見たことなかったんだもん。
しかもほとんどの人が夜に見ただけで、あれが動くところをちゃんと見た人なんて聞いたことがなかったから」
どんな風に動いた?
「段ボールの箱ぐらいの大きさでしょ。ちゃんと飛び降りられるのかなって思って心配しながら見てたら、急に丸まっていた身体が伸(の)びて。
アコーディオンみたいにビヨ~ンって。
塀は1メートルぐらいの高さがあるんだけど、後ろ足を塀の上に残したまま、身体が伸びて、前足だけが地面に着いちゃったの」
「うん、段ボールの箱みたいな身体がフランスパンみたいに長細くなってたよ」
「それで、その後、あれは後ろ足も地面に降ろすと、尺取(しゃくと)り虫みたいに身体を伸ばしたり縮めたりしながら、草むらの中に消えちゃったんだ。
結構動くの速かったよ。ほんと、びっくりしちゃった」
じゃあ、あれはもう、驚いて違う場所に逃げたってこと?
「まだいると思うよ」
なぜ?
「だって、クラスの女の子が言ってたよ。今朝、あの公園で、キャッキャッキャッ、っていう鳴き声を聞いたって」
そうか、ありがとう。
ところで、キミたちは、あれの『目』は見た?
「目? そう言われれば、顔はちゃんと見てないなぁ」
「うん、お耳だけしか見てない」
「だけど、あれってみんなが言っている通りの姿をしてたよね。
異様なネコ––。
確かにあれは、異様な姿をした大きなネコだよ」