つばさ文庫の大人気シリーズ「恐怖コレクター」の作者がおくる「呪ワレタ少年」1巻を、期間限定で特別公開するよ!
心の準備ができたら、スクロールしてね!
ケース3 霧の中の少女
とある繁華街。
道路の端に、ひとりの少年がいた。
少年は、白い服を着ていて、左目が赤い色をしている。
少年は、苦しそうな表情をしていた。
身体のあちこちに傷がある。
何かと戦った後のようだ。
少年は道路に座り、ひとり痛みに耐えていた。
すると、中学生ぐらいの女の子たちがやって来た。
「その子の名前を言うだけで、呪われちゃうんだって」
「ほんとに? めちゃくちゃ怖いじゃん」
どうやら、『呪われた少年』の話をしているようだ。
少年は、彼女たちを見つめる。
彼女たちは、少年に気づくことなく話を続けた。
「そんな子、絶対会いたくないよね」
「もし会ったら、悲鳴を上げて逃げちゃうかも」
女の子は笑いながら、少年の前を通り過ぎて行く。
少年は、そんな彼女たちを、悲しそうな表情で見つめる。
そして、耳につけているイヤホンに手を当て、目を瞑った。
「……大丈夫。僕は大丈夫……」
少年は目を開ける。
イヤホンから手を離すと、ゆっくりと立ち上がった。
傷を押さえながら、少年は繁華街の人ごみの中へと消えて行った。
●
「どうして言っちゃったんだよ?」
放課後。
小学5年生の内村晴喜は、クラスメイトで親友の野田健一郎と一緒に帰っていた。
「晴喜くん、そんなに怒ることないだろ」
「怒るよ。だって健一郎くん、『呪われた少年』の名前言っちゃったんだよ」
今日の昼休み。
晴喜は、他のクラスの友達から聞いた、呪われた少年の話をみんなにしていた。
すると健一郎が、紙に書いていた少年の名前を言ってしまったのだ。
「僕、名前を言ったら呪われるなんて知らなかったんだよ」
健一郎は、晴喜が呪われた少年の話をはじめたとき、トイレに行っていた。
そのため、呪われる条件を聞いていなかったのだ。
「だけど、こんなのただの噂だよね?」
健一郎は、晴喜に言う。
晴喜も「それは」と言葉を続けた。
「僕だって、そう思いたいけど」
晴喜は、怖い話は苦手だった。
そのため、他のクラスの友達から話を聞いたとき、ひとりで怯えるのは怖いと思い、みんなに伝えたのだ。
「とりあえず、この話はもうやめようよ」
晴喜は健一郎に言う。
「そ、そうだね。今度の日曜何して遊ぶか考えよう」
2人は気にするのをやめ、日曜日の話をすることにした。
「あれ?」
晴喜がふと立ち止まった。
「どうしたの?」
「いや、これ、どういうこと?」
晴喜は周りを見ていた。
健一郎も立ち止まると、周りを見る。
と、思わず目を大きく見開いた。
いつの間にか、周りが霧に包まれていた。
「どうして?」
霧など一切出ていなかった。
「っていうか、こんな天気の日に出るのおかしいよね?」
先ほどまで晴れていた。
雨が降る気配もなく、気温が下がったわけでもなく、霧が出るような状態ではなかったのだ。
「これじゃあ、道が見えにくいよね」
霧は濃く、周りの景色は薄らとしか見えない。
「とにかく、家に帰ろう」
日曜の話をしている場合ではない。
晴喜たちは、慎重に歩きながら、家へと向かった。
しかし、しばらく歩くと、晴喜たちは再び立ち止まった。
「どうなってるの?」
2人の家は、先ほどの道を右に曲がり、そのまままっすぐ歩いた大通りの向こうにある。
だが、いくら歩いても、その大通りに出なかったのだ。
「さっきの角を右に曲がれば出るはずだよね?」
「うん、それで合ってるはずだよ」
いくら霧で周りの景色が見えにくくなっていると言っても、毎日通っている道なので間違えるはずがない。
晴喜たちは戸惑いながらも、道路を歩く。
道路はだんだん狭くなってきて、袋小路に辿り着いてしまった。
「どこで間違えたんだろう?」
「分からないけど、晴喜くん、戻ろう」
霧のせいで、道を間違えたのかもしれない。
晴喜たちは、来た道を戻ることにした。
「ん?」
ふと、晴喜は道路の先に、ぼんやりとした光が見えていることに気づいた。
「あれは……」
赤く光っている。
車道にある信号機だ。
「大通りだ!」
この辺りで、車道用の信号機があるのは大通りだけだ。
晴喜たちはホッとしながら、信号機のほうへと走った。
「えっ?」
大通りに出た2人は、目をパチクリさせる。
大通りの向こうは、晴喜たちの家がある住宅地のはずだ。
それなのに、森が広がっていた。
「この森はたしか……」
大通り沿いに、森があるのは町外れだけだ。
「道に迷って、遠くまで来ちゃったってこと?」
「まさか。いくらなんでもそんなに歩いてないよね?」
町外れまで歩くと、30分はかかる。
晴喜たちは、5分ほどしか歩いていなかった。
「いつの間に森まで……」
晴喜は戸惑う。
すると、健一郎が首を傾げながら、口を開いた。
「ねえ、さっきから思ってたんだけど、どうして僕たちしかいないのかな?」
「僕たちしか?」
晴喜は健一郎の言葉にハッとした。
霧の中を歩いている最中、誰とも出会わなかったのだ。