「そんな!」
少年は晴喜を守れず、唇を噛みしめる。
そんな少年の前に、霧の中から誰かが現れた。
あの若い女だ。
女の身体からは、白い煙が出ている。
次の瞬間、女は、小学生ぐらいの女の子になった。
「また若返った」
女の子は、目を細めて不気味にほほ笑むと、宙に浮かびながら、公園の中へと逃げた。
「あっ!」
少年は、晴喜をその場に寝かし、立ち上がる。
「あ、あああ」
晴喜は、震えながら少年のほうを見る。
少年は、そんな晴喜をじっと見つめた。
「必ず、君たちを助けるから!」
少年は銀色のペンを取り出すと、霧に包まれた公園のほうへと駆け出した。
「どこにいるんだ!?」
少年は、目を凝らす。
ペンを握る手に力が入る。
しかし、女の子はどこにもいない。
「また、逃げたのかも……」
少年は戸惑いながらも、すべり台までやって来た。
キャ キャ キャ
すべり台の上から笑い声がした。
ハッとして、顔を上げる。
だが、すべり台の上には誰もいない。
「どこだ?」
キャ キャ キャ
キャ キャ キャ キャ
ブランコやジャングルジム、いたるところから笑い声が聞こえてくる。
「くっ」
少年はペンを握り締めながら周りを見るが、女の子の姿はない。
「一体どこに……?」
そう思いながら、後ろに下がった瞬間、背中に何かが当たった。
「わっ!」
少年は、あわてて振り返って身構える。
そこにあったのは、大きな木だ。
「くっ」
少年は、再び遊具のほうに顔を向けようとした。
瞬間──、
キャキャキャキャキャ
霧の中から女の子が飛び出してきた。
女の子は少年に飛びつく。
「うわあっ」
勢いに押され、少年は倒れる。
キャキャキャキャ
女の子は笑いながら、倒れた少年の身体を強く抱き締めた。
「うあ、ああああ」
少年は、だんだん身体に力が入らなくなっていく。
顔や手もシワシワになっていく。
「うう、あああ」
キャキャキャキャキャ
少年の全身が、老人のようになっていく。
しかし、その目は、女の子を睨んでいた。
女の子は、さらに若返り、幼稚園児ぐらいの小さな女の子になった。
その身体からは、煙が出ている。
それを見て、少年は目をカッと見開いた。
「このときを待っていた……。お前がそばに来る、このときを──」
少年は手の中のペンを強く握り直す。
刹那、ペンの表面に見たこともない奇妙な模様が浮かび上がる。
少年がペンを走らせると、宙に青白い炎が現れ、円が描かれた。
キィィ!!
女の子は声を上げ、少年を威嚇した。
少年はフラつきながらも起き上がると、円の中に見える女の子を睨んだ。
少年の赤い目が光る。
その目に何かが視える。
それは、女の子の『名前』だ。
「すべての災悪を、この光によって打ち消さん! お前の名は──」
少年は、ペンを走らせ、空中に文字を書いた。
キ リ オ ン ナ
瞬間、霧女の動きがピタリと止まった。
霧女は身体を小刻みに震わす。
キ キキ キィィィィ!!!
次の瞬間、霧女の身体にヒビが入り、光が漏れ出す。
そのまま、粉々になって消滅した。
公園に太陽が差し込む。
霧が晴れていく。
少年の全身に力がみなぎる。
見ると、シワがなくなり、元の身体に戻っていた。
少年は、自分の手足を見て、ホッと息を吐く。
やがて、ゆっくりと立ち上がった。
「もう大丈夫だよ」
公園から出た少年は、晴喜にそう声をかけた。
晴喜も元の姿に戻っていた。
「け、健一郎くんは?」
「彼も大丈夫」
少年はそう言いながら、立ち去ろうとした。
そんな少年に、晴喜は声をかけた。
「もしかしてお兄ちゃんは……」
晴喜と健一郎だけがいた霧の町の中に、なぜか少年もいた。
彼は、ただの少年ではないのかもしれない。
「僕は……」
少年は何かを呟こうとする。
だがすぐに、小さく首を横に振った。
「僕に関わっちゃいけないんだ」
少年は、銀色のペンをしまい、耳にイヤホンをつける。
そして振り返ることなく、その場から去って行った。
第4回へ続く
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