「も~、言っちゃだめなら書かないでよ」
亜美花は戸惑うが、掲示板の下に、この噂を見た人たちのコメントが書かれていた。
こんなの嘘に決まってるじゃん
ちょっと怖かったけど、あるわけないよね
ないない。こんな噂知らないし
「よかった~。そうだよね、こんなのあり得ないよね」
誰かが、みんなを怖がらせようと思って嘘の噂を流したようだ。
「そんなことより、失恋する方法を探さないと」
亜美花は少年の話を気にするのをやめ、再び画面をタップした。
画面に、『失恋』という文字が見えた。
「これって」
亜美花は凝視する。
どうやら、必ず失恋させられるようだ。
その感想が、先ほどと同じようにコメントで書かれている。
すごく効果あったよ!
好きだった人が、彼女と別れて、私と付き合うようになりました!
これ以上の失恋系の方法ってないかも!
みな、高い評価を書いている。
「これだ!」
亜美花は、改めておまじないの内容を確認する。
「……金曜日にやればいいんだね」
亜美花は、ニヤリと笑うと大きく頷いた。
●
「わあ、亜美花ちゃんの家で遊ぶの久しぶりだねえ」
金曜日の放課後。
亜美花は、利佳を家に誘った。
「それで、お部屋でやりたいことって何なの?」
「うん、利佳ちゃんもきっと喜ぶと思うよ」
亜美花は、机の上を見る。
そこには、爪切りが置かれていた。
「これを使って、今からおまじないをしようよ」
亜美花は爪切りを手に取ると、利佳に見せた。
「利佳ちゃんが、おまじないあんまり信じないのは知ってるよ。だけど、これはほんとにすごいんだ。何でも夢が叶うんだ」
もちろん、嘘だ。
金曜日に、爪切りで爪を切ると、失恋をする。
それが、亜美花が見つけた『失恋する方法』だった。
「へえ、なんか面白いかも。やってみよっか」
利佳は信じていないようだが、こういうのをやって盛り上がるのは好きなようだ。
「うんうん、やってみて!」
「分かった。何でも夢が叶うかあ。あ、じゃああれにしよ」
「何にするの?」
「私の願いはね、亜美花ちゃんと、『これからもずっと一緒にいられますように』だよ」
「えっ」
「なんか、言うの恥ずかしいけどね」
「利佳ちゃん……」
悟志の片想いの相手が利佳だと分かり、ずっと苛立っていた。
騙して、恋が上手くいかないようにした。
だが、利佳は何も悪くない。
片想いをしてるのは、悟志で、利佳はそのことすら知らないのだ。
(それなのに、私)
亜美花は、笑顔を浮かべる利佳をじっと見つめた。
「ごめん、利佳ちゃん、私ひどいことしちゃった」
亜美花は、わざと恋が上手くいかないようにしていたことを話した。
「悟志くんが、利佳ちゃんのことを好きみたいなの。それで私……」
悟志のことを聞き、利佳は驚く。
しかし、すぐに笑顔になった。
「私は悟志くんのこと、ただのクラスメイトとしか思ってないよ」
「えっ、そうなの?」
「うん、だって私、となりのクラスの本郷くんが好きだもん」
「そうだったんだ」
本郷は、悟志とはまるで違う、真面目で物静かな男の子だ。
「利佳ちゃん、ああいう感じがタイプだったんだね」
「言わないでよ。今まで誰にも言ってなかったんだから」
亜美花と利佳は、同時に笑った。
「そうだ、せっかくだから、今まで以上に仲良くなれる方法とか探して一緒にやってみようよ」
利佳がほほ笑みながら提案する。
「利佳ちゃん、そういうの信じてないんでしょ?」
「信じてはないけど、亜美花ちゃんと一緒にやってみたいよ」
「利佳ちゃん……」
利佳が親友でよかった。
「うん、やってみよう!」
亜美花は満面の笑みを浮かべて、利佳と検索し始めるのだった。
(はあ~、私、とんでもないことをするところだったよ)
夕方。
利佳は家へと帰り、亜美花はひとりリビングにいた。
危うく親友を失うところだった。
(おまじないとか、もうあんまりしないほうがいいよね)
もしやるとしても、いい効果のあるものだけにしたほうがいいだろう。
亜美花はそう反省しながら、ジュースでも飲もうと、冷蔵庫に向かった。
ガタ ガタ
突然、廊下のほうから音がした。
「えっ?」
何かが動く音だ。
亜美花は、廊下に出た。