KADOKAWA Group

小学生に大流行したあのヒットシリーズの生みの親 名物児童書編集者が語る「読まれる子どもの本」の作り方


578万部売れた大ベストセラー児童書『マジック・ツリーハウス』はこうして生まれた――四半世紀売れつづける児童書シリーズ、ヒットの鍵は徹底した『子どもの読書』の観察

「マジック・ツリーハウス」は、2002年3月に刊行スタートし、今年24周年を迎えた児童書シリーズ。これまでに累計578万部売れている大ベストセラーです。



「この本なら、子どもがよろこんで読んでくれる」「本ぎらいの子もハマる」と評判で、教育関係者や図書館司書、保護者からも長年支持されてきました。

そんな、多くの小学生が夢中にさせてきたこの大型作品は、いったいどのようにして生まれたのか?

日本版の立ち上げから24年、現在も、全イラストをカラー化した『[カラー新装版]マジック・ツリーハウス』を刊行するなど、新たな挑戦を続ける本作の担当編集者が、企画のきっかけから「大ヒットの理由」までを語ってもらいました。

プロフィール

豊田たみ
1985年株式会社リクルート入社、1998年株式会社メディアファクトリーで書籍編集者に。合併を経て、現在は株式会社KADOKAWAに在職。2002年スタートの「マジック・ツリーハウス」ほか、「ガフールの勇者たち」「サーティーナイン・クルーズ」「スパイ暗号クラブ 」など数々の児童書シリーズを刊行し、立ち上げた上記4作で累計680万部を超える。





「マジック・ツリーハウス」とは

世界40か国以上で1億9400万部の大ベストセラーシリーズ。日本では2002年から刊行スタート、現在までに78タイトル、物語本編は54巻まで発売中。ジャックとアニーの兄妹が、ふしぎなツリーハウスでさまざまな国や時代を訪ねる冒険ファンタジー。各話で実在の国、時代、人物、事件など多様なテーマをとりあげているため、地理や歴史、自然科学の学びにもつながると、教育関係者からも高く評価されている。


 

◆企画のきっかけは「朝読書」!

――「マジック・ツリーハウス」が登場するまで、児童向けの本といえば、厚紙表紙の本か、高学年向けの児童文庫が主流で、四六判ソフトカバーの本はありませんでした。そもそもなぜ、このような本を作ろうと思ったのでしょうか?

じつは、私がこのシリーズを立ち上げた24年前、在籍していた児童書編集部は、まさに存続の危機にありました!

現在もそうですが、当時も少子化による市場縮小の真っただ中。児童書の売り場が毎年3割ずつ減っていると言われた時代で、出した本もぜんぜん売れず。ついには会社(当時のメディアファクトリー社)として児童書事業からの撤退が決まってしまったのです。

ちょうどその頃、子どもが小学校に入学しました。「ゆとり教育」改革の一環で、毎朝10分間本を読む「朝読の時間」が始まりました。しかしすぐに直面したのは「低学年の子は、朝読で読む本がない」という切実な状況でした。絵本は「卒業」したし、かと言って児童文庫はまだ無理……そんな低学年の子どもが、毎日読む本。それが、市場からぽっかりと抜け落ちていたんです。

朝読の本を選ぶ親だって、大変です。「絵よりも字が多い本」と言われても……ない! 毎日同じ本をバッグに入れて持たせては、児童書編集者としての無力感に胸が痛みました。

「どうせ撤退するなら、最後に小学生が朝読の時間で読める本を作りたい」。そう考え、必死に企画を考えました。そして、編集者人生「最後の本」になるかもしれないという覚悟で会社に提出したのが、「マジック・ツリーハウス」の企画でした。




朝読書の現場で見えてきたこと

――本を作るにあたって、はじめにしたことはなんですか?

始まったばかりの「朝読書」の現場を、何度も見学させてもらいました。すると、どの学年、どのクラスにも、分厚いファンタジーを静かに読んでいる子もいれば、じっとしていられない子もいる。私は、そのあいだぐらいにいる「とくに本が好きではないが、なにかきっかけがあれば読む」という子どもたちをターゲットにしようと思いました。この子たちに「本好きになるきっかけ」をつかんでもらうにはどうすればいいか? 子どもたちの様子を観察しながら、徹底的に考えました。

「マジック・ツリーハウス」の原書と出会ったのは、ロサンゼルスの書店でした。棚に並ぶ1冊を眺めていたら、現地に住む友人が「それ、うちの子がはじめてひとりで読み切った本よ。夢中になって、おやつ食べるのも忘れて読んでいる」と言うんです。

当時(25年前ですが)、アメリカの子どもたちは、とてもカジュアルに読書を楽しんでいました。テレビやゲーム、スポーツや外遊びをするといった過ごし方のひとつに「読書」も入っている。机の上でおごそかに本を広げるのではなく、寝転がっておやつをボリボリ食べながらページをめくったり、読み終わったら友だちと交換したり。日本でイメージされる「静かにすわって読む」スタイルとはちょっとちがう、自由で気軽な読書の姿がそこにはありました。日本で出版するにあたっても「こんなふうに、ハードルを低くして読んでほしい」と考えました。

読書のハードルを下げるために

――ハードルを低くするために、具体的にどのような工夫をしましたか?

まずこだわったのが、手にとりやすさとサイズ感です。いまでは想像もできませんが、当時、低~中学年向けの本は、分厚い表紙がついたハードカバーだけでした。だから、朝読書のために専用バッグを持たせなければいけなかった。

そこで、新しく作る本は、ランドセルのすみにひょいと入る、軽くてコンパクトな「四六判ソフトカバー」にしたいと思いました。

さらに、文字の大きさ、行数などについても、低学年の子どもの「読むストレス」を徹底的に少なくしようと、試行錯誤しました。ほかにも、漢字をひらがなに開きすぎると逆に読みにくくなるので、固有名詞などの漢字はそのまま使おう。そのかわり、すべての漢字によみがなをふる「総ルビ」形式にしよう、といったアイデアを考えていきました。

また、近所の子どもたちを家に呼んで、いろんな本を読んでもらいました。本を読むときの視線の動きやスピードを観察し、その結果、1~3年生の子がいちばん集中力をキープできる文字サイズを見つけました。また、さし絵も、小さなカットではなく、大きなイラストをドーンと入れるようにしたのも、まず最初にパラパラと絵を見て、気に入ったら読みはじめる子が多いということを観察した結果です。

なにせ事業撤退前夜での刊行ですから、あまり時間がありません。まだ本が読みきれない子どもでも、パッと見て「この本、おもしろそう!」と思ってもらうしかけが必要でした。そこで、カバーの折り返し部分に、切りとって遊べる「きせかえ」をつけてみました。カバーとはいえ「本にハサミを入れるのはどうか」という声もありましたが、「まあ最後だから……」と、思い切ってやらせてもらいました。

――イラストレーターの甘子彩菜さんとのタッグは、どのように決まったのですか?

アメリカで出版されている原書のイラストは、ダークで落ち着いた雰囲気ですが、私は、もっとポップでカラフルでないと、日本の読者には見てもらえないと思っていました。

そこで、漫画家出身の若手クリエイターである甘子彩菜さんに相談しました。カードゲームの絵を見て、色彩の美しさに一目ぼれしていたんです。しばらくして、ティラノサウルスに追いかけられる主人公のイラストがあがってきたとき、その躍動感に衝撃を受けました! 大人の私でも、冒険のわくわく感が止まらなくて……!

本文のさし絵も、これまたすごかった。登場キャラクターはポップな表現なのに、動物や植物、風景、建物、その時代その国の人々のくらしなど、その巻に出てくる素材は徹底的に資料を調べて、忠実に描いてくださるんです。

甘子彩菜さんに「マジック・ツリーハウス」のイラストを描いていただけたことが、もしかしたら、シリーズ成功の一番の要因かもしれません。




逆風からのスタート、味方は子どもたち

――発売当初、反応はどうでしたか?

最初はさんざんな結果でした! というのも、いくつもの書店さんから「児童書コーナーに四六判の棚はない」と返品されたり、「置き場所がわからない」と店頭に出してもらえなかったりしたのです。これまでのジャンルに当てはまらないような本を、書店員さんもどう扱えばいいか悩まれたと思います。これには猛省しました。でも、もうやり直せない……。

次の巻も校了して編集の仕事がなくなってしまうと、会社にいたたまれなくなり、毎日手作りのPOPと注文書を持って、朝から夕方まで書店をまわりました。

そんななか、ぽつぽつと子どもたちが興味を示してくれるようになりました。棚に並べてくださった書店さんで、柱の陰から様子を見ていると、子どもが表紙に目をとめて「あ、これ、おもしろそう」と言ってくれるんです。

3巻の『アマゾン大脱出』を発売したときは、そんな子どもが増えてきた、という印象でした。色あざやかな熱帯多雨林のイラストが呼び水になったのか、徐々に1巻と2巻も売れるようになりました。

そして、大きく風向きが変わったのは、全国紙の読書欄に学校司書の方の紹介記事が載ったときです。それが児童書としての「お墨付き」となり、書店さんからも注文をいただけるようになりました。

発売の約束は、4巻まででした。しかし、4巻を発売する頃1巻に重版がかかり、5巻を刊行してもよい、ということになりました。「5巻の売れ行き次第では、もっとシリーズを続けられるかもしれない」。そう思い、5巻の編集作業には力が入りました。そして、5巻『SOS!海底探険』を発売し、書店にPOPを持っていったとき、書店員さんが笑顔で受け取ってくださったのを、いまでも覚えています。

9巻『タイタニック号の悲劇』を発売したときには、さらに部数が大きく伸びました。この頃には、図書館から「子どもたちがよろこんで読んでいます」という声をいただくようになりました。

「この先も、シリーズを続けられる」というたしかな実感が持てたのは、それからしばらくして、累計部数が20万部を超えたときでした。

20数年の時を経て、現場が気づいた「もうひとつの魅力」

――昨年発売された[カラー新装版]は、どのような背景で生まれたのでしょうか。

[カラー新装版]では、甘子彩菜さんに、カバーイラストとさし絵をすべて新しく描き下ろしていただき、全ページに色をつけました。いまの時代、視覚情報に慣れている子どもたちが、より自然に作品世界へ没入できるように、というねらいです。カバーイラストはもちろんのこと、すべてのさし絵がキラキラしているので、ぜひご覧ください!

そして、刊行スタートから20年以上が経ち、このシリーズが当初とは異なる切り口で、教育の現場で「意外な評価」をいただくようになったことも、大事なポイントです。

学校の先生や塾の先生など教育関係の方が、あることに気づいてくださいました。というのは、「このシリーズは、フィクションではありながら、ノンフィクションの要素を“絶妙に”含んでいる」という点です。

主人公のジャックは、冒険に出かけるとき、リュックに本を入れて持ち歩き、訪れた場所のことを調べます。また、自然を観察して、気づいたことや感じたことをノートに書きとめていきます。これは、いま学校で行われている「調べ学習」や「探究学習」そのものなんですね。子どもたちが主人公たちと一緒にフィールドワークに出かけ、訪れた世界で冒険しながら、歴史や地理、自然科学の知識を身につけていく……そんな「生きた学び」の疑似体験ができる。物語を楽しみながら、そのまま学習への好奇心につながっていく。

「であれば、その知的好奇心を、もっともっと応援できる本にしよう」。そう考え、[カラー新装版]では、巻末に「学習コラム」を収録しました。これは、既刊シリーズでも掲載しているものですが、ページ数を増やし史料も充実させています。「自由研究の参考になる」「学習に役立つ」と、大変好評をいただいています。

世代を超えて読みつがれるベストセラー

――最後に、なぜここまで多くの小学生に読みつがれてきたのだと思いますか?

最初は「小学生が朝読の時間に読める本を」「本ぎらいの子が読書好きになってくれる本を」という気持ちだけで作っていました。でも、物語を楽しむ力は、そのまま「知る楽しさ」「世界のことを考える力」へと広がっていきます。心から楽しめる物語、学べる工夫、どちらもマジック・ツリーハウスの大きな魅力です。

入り口はカラフルなイラスト。そして、本を開けば、いろんな世界での冒険が待っている。大人が押しつけるのではなく、子どもがわくわくしながら自分で扉を叩いてくれるような本作りを貫いてきたからこそ、スタートから四半世紀近く経ったいまも、多くの読者たちから信頼され、また次の世代の子どもたちに、「この本おもしろいよ」「このシリーズはおすすめだよ」と手渡していただけるシリーズになれたのだと思います。



 多くの小学生の「読書の楽しみの原体験」であり続けてきた本作は、いよいよシリーズ開始から24年を迎えます。

 現在、シリーズは54巻までが発売しており、フルカラー版である『[カラー新装版]マジック・ツリーハウス』は1~3巻まで発売中。お話が少しでも気になったみなさんは、まずは手に取りやすい[カラー新装版]の一冊目から読んでみてはいかがでしょうか?



 

【書籍情報】

[カラー新装版]マジック・ツリーハウス 恐竜の谷の大冒険



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