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大人気水族館・沖縄美ら海水族館の佐藤圭一さんが語る、 これからの魚図鑑は「魚マニアではなく科学的な考え方を育てる」

角川の集める図鑑GET!シリーズ最新学習図鑑『GET!魚』で総監修をした宮正樹先生。実は沖縄美ら海水族館の佐藤圭一さんとは30年来の仲。2人の出会い、水族館や研究のこと、これからの魚図鑑についておききしました。

――出会いは北海道大学時代
30年ぐらい前ですが、私が大学生だった頃に千葉県立中央博物館ができて、宮さんがそちらの研究員になったんですね。当時、宮さんは魚類の系統分類学、特に深海魚の研究をしていたんです。今ではDNAの分析による分子進化や系統学の研究の大家として君臨されていますけど、元々は深海魚の専門家で。私も深海のサメを研究していたので、宮さんに一緒に採集に連れて行ってもらったり、大変お世話になりました。その後もお互いに沖縄と千葉を行き来していて、今でも環境DNAの研究などでもお付き合いさせてもらってます。

――多くの水族館関係者を輩出する「北海道大学水産学部」とは



北大水産学部から水族館へ入る人が多くなってきたのは最近ですかね。私たちの時代は、水族館のイメージも今と異なり、そこまで人気のある職種ではなかったと思います。私の出身講座の大先輩である鴨川シーワールドの荒井一利さんや海遊館の西田清徳さんが水族館でご活躍されているのを聞いて。そのあとに、私の同期だったアクア・トトぎふの池谷(いけや)幸樹さんが先にこの世界に入られ、今や皆さんそれぞれの水族館で館長をなさっています。私は池谷さんと同期でしたが、かなり遠回りして後から水族館に入って、今に至っています。北大で博士の学位を取ったあとは、すぐに仕事が無いので研究室でしばらく居候をしていたんです。サメの研究なんかやっても民間企業では働けないので(笑)。たまたま先代の館長の内田さんが何気なく「沖縄に来てもいいよ」と言ってくれたので、その気になって沖縄に来たんです(笑)。その後リニューアルして、美ら海ができて、規模も入館者数も大きくなって、今に至っています。私の場合は飼育もしましたし、水族館を管理運営する(一財)沖縄美ら島財団 総合研究センター動物研究室でも室長をして、今から6年ほど前に水族館に来て、研究だけでなく水族館全般の管理責任者をしています。


――角川の集める図鑑『GET!魚』の率直な印象



私も魚類の研究に関わっているので、ついつい目がいってしまうところが「内容の新しさ」なんですよね。魚の説明などは平易に書かれているのですが、魚の分類の体系は新しいものになっていて。環境DNAのことなどはこれまでの図鑑には書かれていなかった。ここ数年で主流になってきた、そういう最新の研究手法が書かれているところが宮さんの本らしいなという感じがしましたね(笑)。

――子ども向け学習図鑑とはいえ妥協が無い!?



普通の図鑑はどうしても魚の種類の説明とか、その魚の生態がどうであるかという説明に入り込んでしまうものなのですが、そうではなく、自然環境全体や魚のすんでいる場所についてフォーカスしているというのは、子ども向けとはいえ妥協が無いのだなと感じました。これはある意味で、魚マニアというよりも科学的な考え方を育てるという意味で良い試みなんじゃないかなと思っています。生息地域ごとに章が立てられているのも新しいですよね。魚の研究者でしたらやはり分類群ごとに専門性が決まってくるので、たとえば「太平洋、大西洋、南極海など海域ごとの魚を研究テーマにする」ということはあまり無いように思います。この本を拝見して、なるほどこういうくくり方があるのかと。実際、私も海の生物の研究に関わっていますけど、生息環境や海洋物理、たとえば水の性質や温度や水圧や光などは、生物の特徴を理解するためにも非常に重要ですね。ですから、魚がすんでいる環境や物理にも踏み込んでいるというのは、新しい取り組みだなと思います。

――魚を入口にして科学に興味を広げていくために



私も他の図鑑で執筆をしているのですが、私個人の希望としては、子どもたちにはマニアックな知識を蓄えるよりも、魚を入口にして科学に広く興味を持ってもらえたら良いなあといつも思いますね。実際には魚を詳細に説明するような本を書いてはいるんですけど、本来であれば魚以外の科学にも目がいく本にしてほしいなと思うところではあります。私も沖縄に来る前は北海道にいたわけなんですけれども、基本的に北海道で得た魚の知識は沖縄ではほぼ役に立たないんですよね。すんでいる魚の種類が95%以上違っていて。北海道と沖縄の両方にいる魚ってほとんどいないんですよね。たぶんクロマグロとかホホジロザメとか、そのくらいしかいない。表層だけでなく、水温が低い深海についても、北海道と沖縄では魚種がまるっきり異なります。だから同じ日本の海でも「なんでこんなに違うんだ!」というのがあるっていうところを私もいろいろな講演会で説明するのですが、そういう魚のすむ環境の違いと魚種の違いというのが、何を反映しているのかというのを考えていくと、科学全般に対して好奇心が育まれていくと思うんですよね。

写真提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館

佐藤圭一さんプロフィール



佐藤圭一(さとう・けいいち)
1971年栃木県生まれ。北海道大学大学院水産科学研究科博士課程修了(博士・水産学)。2000年より沖縄海洋生物飼育技術センター(国営沖縄記念公園水族館)、2002年沖縄美ら海水族館勤務を経て、2013年一般財団法人沖縄美ら島財団総合研究センター・動物研究室 室長に就任。現在、同財団総合研究センター動物研究室上席研究員 兼 事業部 水族館統括。軟骨魚類の比較解剖学・分類学・繁殖生態学などを中心に、サメ・エイ類の調査研究および水族館に関する普及活動を行なっている。


【新刊情報のお知らせ】

① 2022年6月8日(水)に角川の集める図鑑『GET!魚』が発売されました!





② 2022年6月15日(水)に佐藤圭一さんの最新刊『沖縄美ら海水族館はなぜ役に立たない研究をするのか?  サメ博士たちの好奇心まみれな毎日』(産業編集センター)が発売されます!


著者:佐藤圭一、冨田武照、松本瑠偉

定価
1,944円(本体1,800円+税)
サイズ
四六判、244ページ(巻頭4ページカラー)
ISBN
978-4863113350

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2022年6月21日(火)ヨメルバ連載『角川の集める図鑑GET!とめぐる日本の水族館』でも沖縄美ら海水族館が登場します! どうぞお楽しみに!!


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