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<その問題は「頼るスキル」で解決できる>「頼る」スキルの磨き方  第2回


いま、孤独を感じながら、大変な思いで育児をしている人が多いように感じます。助けを求められず、世間の自己責任論に押しつぶされながら身を削って子どもに向き合っている人もいるかもしれません。新型コロナウイルス感染症の広がりで人との対話が生まれにくくなり、孤立する人が増加しました。子育て世代も例外ではありません。不登園や不登校の児童数も増加していることが問題になっています。そのような状況の中、親にとっても子どもにとっても重要性を増すものとして、周りの人に頼る力、つながる力である「受援力」を挙げるのは、医師で公衆衛生がご専門の吉田穂波氏。著書『「頼る」スキルの磨き方』では、「困った時に他の人に助けを求めること」の重要性を説いています。

※本連載は『社会人に最も必要な「頼る」スキルの磨き方』から一部抜粋して構成された記事です(毎週土曜更新/全4回)

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 その問題は「頼るスキル」で解決できる 

 さて、ここで、今の皆さん自身に、「受援力(頼るスキル)」がどのくらいあるか、簡単なチェックをしてみましょう。

自分の「受援力」を可視化しよう

 あなたは、次の表にある「A」と「B」のパターンでは、どちらのほうに多くチェックがつくでしょうか?
 日ごろ、何気なく出てくる口癖や、思考パターン、行動パターンを思い出しながら、近いと思うほうにチェックマークをつけてみてください。



⇧ 画像をクリックすると拡大されます。『社会人に最も必要な「頼る」スキルの磨き方』より

 いかがですか? これらのチェック項目はもちろん、受援力の一部を切り取ったものにすぎません。正解も不正解も点数による評価もありませんし、「A、Bのどっちのほうがいい」といったことを言いたいわけでもありません。でも、5つの選択肢を選んでいく過程で、自分の受援力をある程度可視化することができたのではないでしょうか。
 皆さんが「頼ること」に対するご自分のとらえ方をチェックすることを通して、「自分はAのように考えがちだな」「でも、Bのように考える選択肢もあるのだな」と、「自分の受援力」について認識することができ、これからの言葉の選び方や物事のとらえ方に変化が生まれるかもしれません。
 そして、わが子や若い世代が社会へ出ていくときには、「B」のような考え方をすると楽になるかもしれないよ、ということを伝えてあげるとよいでしょう。「社会の荒波を乗り越えて、幸せな人生をつかんでいってほしい」と応援する立場の人が、「A」のようにSOSを出すことを否定的に考えていたら、わが子や若者が辛い立場に立たされた時に、誰かに助けを求めることが難しくなるかもしれません。
 自分から頼った経験がない人は、困っている人を見ても、「何を甘えているんだ」「どうして頼るんだ」と、困っている人に対して不寛容で、SOSを出す気持ちを理解することができず、助けようという気持ちがわいてきません。そうして、「自己責任」という言葉のもとに、社会が頼り合うことに対して否定的な雰囲気を出していると、若い世代が一人ではどうしようもない事態に直面したとき、「自分ですべてを引き受け続ける」という選択肢しか思い浮かばず、〝助けて〞と言えないまま孤立していくことになってしまいます。

 


 

受援力の「ところ変われば品変わる」

 私が働きながら家事をしている中で、疲れ切って、自分ではどうにも手が回らなくなることがあっても、「誰だってしていることだから」「できないのは自分がまだまだ未熟だから」「できるのが当たり前」と自分で自分を戒め、身近な家族にさえ愚痴を言ってはいけないと思っていたことがありました。
 ところが、海外で暮らした時に、「人に相談すること」に対する発想の逆転が起こったのです。ドイツで第一子を妊娠・出産した時は、人に頼ることのほうが好意を持って受け止められましたし、イギリス、アメリカで妊娠・出産・子育てをする間は常に、前掲の図表でいう「B」の感覚が当たり前のように受け止められる風土を感じて、気持ちが楽になったのを覚えています。
 子どもが生まれる前は「頼ること」に対してずっとネガティブな捉え方をしていました。
「一人でできないなんて、情けない」「恥ずかしい」とさえ思っていたのです。でも、私が暮らしていた海外では、頼らないと周りの人に悲しまれ、相談することで、初対面の人とでも打ち解けられました。頼らないとむしろ、わからないのに、どうして聞かなかったの?と不思議がられます。ところ変われば品変わるとはいいますが、「頼るのが当たり前」であり「頼ることがコミュニケーション」になっていたのです。そして、それらの国で暮らしていく中で、助け合いの感覚を持っているほうが楽であることに気がつきました。

 例えば、「頼ることは新しいネットワーク作りだよ」と、態度で示してくれたのは、私の初めての出産をサポートしてくれたドイツ人のレナーテさんという助産師さんでした。彼女は産後も毎日家庭訪問してくれて、どんな小さなことでも、私から思い切って相談すると、笑顔で手助けしてくれましたので、私はすごく気が楽になりました。

「頼ることは会話のきっかけ作りだよ」と教えてくれたのは、ボストン留学時代の同級生たちでした。私は3人の子どもを保育園に送り迎えしながら、初めて学ぶ内容に全くついていけず、必死になって勉強していました。そんな時に、テストやレポートのことなど、本当に些細なことでも私に質問してくれたのです。そのおかげで、こんな私でも頼ってくれるんだ、こんなことを聞いてもいいんだ、私だけが落ちこぼれているわけではないんだと心が軽くなったのを覚えています。
 そこには、自分のせいだろうがそうでなかろうが、困っていたら助けを求めていいというゆるぎない雰囲気がありました。日本人は謙虚で遠慮がちで、なかなか他の人に頼れないところがありますが、頼り合ったほうがもっと大きなことができますし、お互いに楽になるのです。
 私は日本に帰ってからは、私の苦境を助けてくれた、頼り合うことを肯定する雰囲気やコミュニケーション方法について、ことあるごとにお伝えしていきました。この「雰囲気」が生まれるのは、それぞれの国の文化、宗教、政治、社会システムなど、様々な理由があるのだと思いますが、自分が賛成できるかどうかは別として、前掲表の「B」のような捉え方があり、こういう考え方が当たり前の国があるということを皆さんにも覚えておいてほしいのです。それだけでも、頼ることに対するイメージが変わり、自分の「当たり前」「常識」がすべてではないということに気づけるはずです。
そして、この「雰囲気」を自分から生み出すために必要な「受援力スキル(後ほど出てくる「敬意〈K〉承認〈S〉感謝〈K〉」の「KSK」)」も、簡単に身に付けることができますので、詳しくは拙著をご覧ください。
 さて、皆さんは「A」と「B」のどちらのほうが楽だと感じますか?


次回は、頼るマインドを引き出す! 言葉の「ネガポジ翻訳」 をお届けします。(3月4日公開予定)


著者プロフィール

吉田 穂波(よしだ ほなみ)
医師・医学博士・公衆衛生学修士。神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授。
三重大学医学部卒業後、聖路加国際病院で臨床研修ののち、名古屋大学大学院医学系研究科で博士号を取得。
その後、ドイツとイギリスの産婦人科及び総合診療の分野で臨床研修を行い、帰国後は女性総合外来の創設期に参画した。
2008年、0歳から3歳まで3人の子どもを連れてハーバード公衆衛生大学院に留学。卒業後は同大学院のリサーチフェローとなる。
11年の東日本大震災では産婦人科医として国内外のネットワークをつなぎ被災妊婦や新生児の支援に携わる。
このとき「受援力」の大切さを痛感し、多くの人に役立ててもらいたいとの思いから、無料でダウンロードできるリーフレット『受援力ノススメ』を作成。
これまで300回以上のセミナーや研修講師として呼ばれ、国や地方自治体の検討会等、全国で「受援力」を学ぶ場作りに取り組む。
取材記事・著書多数。4女2男の母。

吉田穂波

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