KADOKAWA Group

Life & Work

暮らし・働く

『こども六法』山崎聡一郎さんインタビュー 第2回 大学入学で変わった「人のためになることを」


出版以来異例のヒットとなっている『こども六法』。前回につづき、著者の山崎聡一郎さんにお話を聞きました。小学生のときに好きだった本、中学・高校で楽しかったこと、大学入学後の気持ちの変化など、ご自身について語ってくださっています。
取材・文:大和田 佳世

「かっこいい」は大事

――小学校でのいじめ体験から、中学で偶然「六法全書」を手にとり、「法律を知ることで、子どもはもっと自分の身を守れるはず」と思ったという山崎さん。「六法全書」を読む中学生なんてどんな読書家!?と思ってしまいますが……。子ども時代の山崎さんは、どんな本を読んでいたのでしょうか。

実は小学生の頃は、文字ばっかりの長い本はほとんど読んでなかったです。よく読んでいたのは、百科事典や図鑑ですね。「ビル」「飛行機」「車」とか身近なものを探して読んでいました。理由は、単純に、かっこいいから(笑)。「かっこいいから」という動機づけはけっこう大事なんですよ。刑事物のドラマで出てくる法律用語だって、何となくかっこいいから、という理由で興味を持つ子もいるんじゃないかなと思います。あとは、偉人伝などの学習まんがをよく読んでいました。小説や物語はあまり読まなかったです。

――「六法全書」はどこで手にとったのですか。

中学校の図書館です。たまたまテーブルの一角に法律関係の本が並べられたコーナーがあったのです。「六法全書」は分厚いですが、興味があれば中学生でも読めると思いますよ。


山崎さんが所持されている法律関連書の一部と「こども六法」。手前左は弘文堂刊「こども六法」、手前右は大学時代に製作された旧版。


――中学や高校ではどんなことをしていましたか?

いじめ被害を知った両親と一緒に、学区外の中学を選択したいと地域の教育委員会に申し出ましたが、認めてもらえなかったため、やむを得ず私立中学を受験しました。中学では囲碁、放送、写真などの部活に所属しながら、勉強以外ではプラモデルを組み立てたり、好きなことをやっていたと思います。高校は進学校で、勉強もしましたが、合唱部に打ち込んで、大きなコンクールで入賞できたことが自信になりました。高校時代は、自由で楽しかった。その一方で自由な分、自分たちで考えて、選択の結果には自分で責任を負わなければいけない。大変でしたが、「選択する力」が養われる良い環境だったと思っています。

やりたいことを見つけたら、飛び込もうと思っていた

――大学では法律に関することを研究するつもりだったのですか?

入学時はまったく考えていなかったです。もともと、大学に入ってからいろいろなことを勉強して行く中で「これだ」というものを見つけたら、飛び込もうと思っていました。入学後に専攻テーマを決められる大学に絞って受験し、慶応義塾大学総合政策学部(通称SFC)もその1つでした。
SFCは「問題発見、問題解決」と口癖のように言うところです。いま目の前にある事象、世の中全体を見回して、現在の最先端の場所で起きている問題をまず見つける。そして「根本的な原因はどこにあるんだろう?」と探っていく。「それに対して自分はどのようなアプローチをするか?」を考え、問題解決に結びつけていくという考え方をする大学です。
自分にとって小学生の頃のいじめは、大きな原体験の1つだったので、1年生の春学期の時点で「いじめ問題に関して、何か取り組めることがないかな」とは何となく思っていました。

――大学の特長と、山崎さんの経験が合わさって、「法教育を通じたいじめ問題解決」という研究テーマが生まれるのですね。

その頃はまだ「自分の力で学校を選び、自分のために勉強してきた」と強く感じていた時期でもありました。大学入学で一区切りついたとき「そろそろ人のために活かせることをしようかな」という気持ちの変化はあったと思います。
中学生で「六法全書」に出会い、憲法以外の法律の存在を知ってから、自分のために法律を勉強してきました。「じゃあ、それを人に活かすためにはどうすればいい?」「弁護士になるべきだろうか?」と自問したとき、なぜかその方向には向かなかったんです。「自分のために身につけてきた法律の活かし方は、弁護士なんだろうか。他に活かし方があるのではないか」と考えるうちに、“法教育”というアプローチに結び付きました。そして、この研究が後に『こども六法』の出版に結びついていったのです。


慶應義塾大学SFC在学中の研究発表の様子。


一橋大学大学院修士課程1年時、「法と教育学会」での発表の様子。


大学時代は英国オックスフォード大学に短期留学もしている。
留学中に訪れたグリニッジ天文台にて撮影。


――劇団四季『ノートルダムの鐘』に出演するなどミュージカル俳優としての経歴をお持ちで、現在は、俳優が所属する合同会社Art & Artsの社長もされているそうですね。

高校で合唱部の活動にハマったことから、歌うことの魅力を知りました。歌うことは気持ちがいいですし、生きがいの1つになっています。好きなことは1つでも多いほうが人生は楽しいはずです。傍から見たら共感されるかどうかわからないことでも、どんな生きがいでも、持っているにこしたことはないと思います。

僕自身はずっとエンターテインメント分野にも興味があったので、法律を学ぶきっかけになるような、たとえばミュージカルのようなエンタメなどをつくりたいなと思っています。


Art & Artsの主催公演での写真。


Art & Artsの主催公演での写真。


他団体のミュージカルに客演で参加した際の写真。


百科事典や学習まんがが愛読書だった子ども時代から、ミュージカル俳優としてもご活躍の現在まで、エピソードを披露してくださった山崎さん。「法律」「エンタメ」「教育」という3つの関心事から『こども六法』へつながっていったことが想像できます。次回、最後の回では、山崎さんから子どもたちへのメッセージをお届けします。

書籍情報


『こども六法』
著:山崎 聡一郎/絵:伊藤ハムスター
【定価】本体1,200円(税別)
【サイズ】A5 並製
【発売日】2019年08月
【ISBN】9784335357923
【公式HP】https://www.kodomoroppo.com/


 


アンケート実施中



この記事をシェアする

特集

ページトップへ戻る