子どもがどうしてもゲームがやめられない……そんな悩みを抱えている親御さんも多いのではないでしょうか?
本連載では、子どものゲーム依存について、ネット・ゲーム依存専門心理師として、カウンセリングだけでなく講演活動も行っている森山沙耶さんにわかりやすく教えてもらいます。
連載第2回では、ゲーム依存を専門とする心理師が、子どものゲーム依存を予防したい家庭での取組みについて解説します。ゲーム以外の遊び、ゲームの使用ルールの決め方、子どもへの注意の仕方など、子どもがゲームと上手に付き合うために保護者がどのような関わり方ができるかをお伝えします。
ゲーム依存に至るメカニズムは?
ゲームは子どもたちにとって、とても魅力的な活動です。オンラインゲームのジャンルは多岐に渡りますが、特に人気の高いシューティングゲームやアクションゲームは競争心を駆り立てられ、勝てたときには大きな達成感が得られます。自分のペースでコツコツと建造物をつくっていくことに没頭する子もいるでしょう。また、ゲーム内で友達とコミュニケーションをとりながら一つの目標に向かって取り組むことでつながりを感じられます。このような魅力があるからこそ、ゲームに夢中になっていきます。
ときに現実では得にくい「達成感」や「やりがい」、「自信」、「人とのつながり」などがゲームの中で得られるようになると、現実の活動よりもゲームを優先しやすくなります。さらに、最近のデジタル環境は、いつでもどこでも手軽に利用できるため、「その場ですぐに」欲求を満たすことができます。
また、現実の生活で困難や不安、ストレスが大きい場合、ゲームをしている間はそうした不安やストレスを忘れられるため、ゲームを手放すことが難しくなっていきます。このように、ゲーム以外の活動が減り、ストレスへの対処法がゲームに偏っていくと、ゲーム依存の状態に陥ることがあります。
ゲーム依存を予防するための取組み
このような依存の状態になりにくくするためにご家庭でできるることはどのようなことでしょうか。
① リアルでの人との関わりや楽しみのレパートリーを増やす
依存症になりにくいライフスタイルは、ゲームやインターネット以外にも楽しみや達成感が得られる活動があることと言えます。特に成長期の子どもの場合には、見ること、聞くこと、触ること、感じること様々な豊かな「経験」によって脳も発達を遂げていきます。(※1)
もちろん、ゲームや動画などから学べるものもありますが、ゲームやインターネットの使用時間が長くなるとリアルでの双方向のコミュニケーションの時間が減ってしまったり、他の遊びのレパートリーが少なくなってしまいます。スマホやゲームから離れて、さまざまな遊びを通して豊かな感覚を育む機会を作っていくことが望まれます。
② 家庭での使用ルールを決める
長時間ゲームをすることが習慣になってしまうと依存症のリスクが高くなり、いざ減らそうとしてもうまくいきません。そこで、あらかじめ家庭内で使用時間のルールを作っておくことも大切です。こども家庭庁の調べでは、青少年(10〜17歳)の家庭でインターネットの使い方に関するルールがあると答えた割合は67.5%でした(※2)。多くの家庭でルールが作られているようですが、どのようなルールがよいのかわからない、ルールを作っても子どもが守ってくれないなど保護者も戸惑いや難しさを感じていることをよく耳にします。
海外の研究では、親が一方的に制限する関わりはかえって依存のリスクを高める一方(※3)、親子でインターネット使用について満足のいくコミュニケーションがとれていることが大切だという報告もあります(※4)。ご家庭でゲームやネットのルールを作る際は、親だけで決めるよりも、子どもと一緒にお互いの意見を受け入れながら、落とし所を見つけていくことが重要と考えられます。子どもが100%満足のいくようなルールだと保護者は不安になりますし、保護者が100%満足いくようなルールだと子どもは不自由を感じて不満が高まります。どちらか一方の満足ではなく、お互いに譲ったり、譲られたりするプロセスを丁寧に行うことで親子の信頼関係を築くことができるのではないでしょうか。
こども家庭庁「令和6年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」から引用しグラフを作成
インターネットを使っている青少年に、家庭でインターネットの使い方についてルールがあるかを尋ねた結果
どのようなルールにしたらよい?
心理学の視点から考える「よいルール」
私は「認知行動療法」という心理学のアプローチを用いてカウンセリングを行っています。特に「行動」に注目し、問題となるゲームの使い方を減らし、代わりに健康的で適切な行動を身につけられるようサポートしています。
心理学的にみる「よいルール」とは、子どもが守りやすく、段階的に取り組めるルールといえます。
大前提として親子でルールについて合意がとれていることが重要です。そのうえで、子どもが「何をすればよいか」が具体的に分かるルールにすると守りやすくなります。
例えば、「なるべくやらないようにする」「早くやめる」といった抽象的な表現は分かりにくいものです。代わりに、「夜21時にはゲーム機を戸棚にしまう」とか「夜23時にスマホを充電器にさす」といったように具体的な行動で示すことをおすすめします。
また、そのルールが今の子どもにとって実行しやすいレベルかどうかも大切です。
例えば、今まで一度も自分からゲームを切り上げたことのない子が、突然「自分で時間を見てやめる」のはとても難しいことです。ゲームをやめるためには、「終了時間を自分で確認する」「終了時間前にキリがよいところを考える」「時間になったら終了ボタンを押す」といったいくつものステップが必要だからです。大人から見ると、できて当然に見えることでも、どこかでつまづくと実行が難しくなります。
そのため、今の子どもがルールを守るための行動を取れるかどうかを今一度確認し、難しそうであればハードルを下げたり、サポートを考えたりすることも必要です。保護者としては、「理想では〇時間までにしてほしい」という願いもあると思いますが、まずは子どもが守りやすい最低限のルールから始めることで、「守れた」「できた!」という成功体験が積み重なり、次のステップへ進みやすくなります。
守らせる? 今はOK? 戸惑う場面での対応
なかなか子どもがゲームをやめないと、保護者としても強く注意したくなると思います。また、子どもが勉強やお手伝いをするからゲーム時間を増やしてほしいと強く要求されると、ぶれない方がよいのか迷ってしまうこともあるでしょう。
ゲームをし続けてしまう背景には、「保護者の声がけが耳に入っていない」、「ゲームの後に勉強やお手伝いなどやりたくないことをしなければいけない」、「ゲームのキリが悪い」などさまざまなことが考えられます。まずどのような要因でゲームをやめないのかを観察した上で、適切な促し方を考える必要があります。また、促してからゲームを終了するまで待ってみて、渋々でも終わらせて次の行動をとることができたらその行動を認めてあげるなど「やめないこと」よりも「望ましい行動」に注目することが大切になります。
勉強やお手伝いをする代わりにゲームをしたいという場面では、頑張ったこととゲームの時間がどのくらいバランスがとれているのかを見積もる必要があります。例えば、宿題を30分取り組んだので、夜は好きなだけゲームをしたいというのはバランスが悪いように思います。こういったときも、その場で要求されるままに応えるのではなく、一旦親子で、勉強などのご褒美としてゲームを設定することのメリットやデメリット、バランスなどを話し合ってみてください。
【引用文献】
(1)Stiles & Jernigan (2010). The Basics of Brain Development. Neuropsychology Review, 20(4), 327-348
(2)こども家庭庁(2025)令和6年度 青少年のインターネット利用環境実態調査
(3)Lee & Ogbolu (2018). Does Parental Control Work with Smartphone Addiction?: A Cross-Sectional Study of Children in South Korea. Journal of Addictions Nursing, 29(2), 128-138.
(4)Van Den Eijnden et al. (2010). Compulsive Internet Use Among Adolescents: Bidirectional Parent-Child Relationships. Journal of Abnormal Child Psychology, 38(1), 77–89.
【プロフィール】
森山 沙耶
ネット・ゲーム依存予防回復支援サービスMIRA-i(ミライ)所長
公認心理師、臨床心理士、社会福祉士
2012年、東京学芸大学大学院教育学研究科修了。家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設にて臨床心理士として勤務。
2019年、ネット・ゲーム依存予防回復支援サービスMIRA-i(ミライ)を立ち上げ。当事者とその家族に対するカウンセリング、予防啓発のための講演、執筆活動を行う。
著書に『専門家が親に教える子どものネット・ゲーム依存問題解決ガイド』(2023年7月Gakkenより発売)
長期休み、ゲームや動画視聴はどうする? シチュエーション別のアドバイスですっきり! 子どもとデジタルメディアの上手な付き合い方
2学期が終わり、いよいよ年末年始の長期休暇が始まります! 親としては、家族団らんの時間を楽しみにしつつも、気になるのが子どものゲーム時間や動画視聴の時間ではないでしょうか。「生活リズムが崩れるのでは...」「友達とのトラブルに巻き込まれたら...」と、モヤモヤ、イライラが募ることも多いかもしれません。
そんな悩める親御さんにおすすめしたいのが、コミックエッセイ『うちの子、ゲームして動画ばっかり見てますけど大丈夫ですか!? もしかしてデジタル依存!? と思ったら』(アベナオミ 著、森山沙耶 監修/KADOKAWA)。
長期休みの「お悩みあるある」を本書からシチュエーション別にご紹介。手遅れになる前に、メディアとの上手な付き合い方を学んでみませんか?