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「数字がわからず、同じことを繰り返し言い、思いどおりにならないと大泣き。診断を得るべき?」子どもの発達お悩み相談室


みなさまが、小学生以下のお子さまを育てていて、「うちの子ちょっと変わってる?」と思い、お子さまの発達などに関してご心配になっていること、お悩みになっていること、お気づきになったことなどについて、脳科学者の久保田競先生と、その弟子で児童発達研究者の原田妙子先生が児童の脳や発達の最新研究をもとに回答します。

 

Q14. 数字がわからず、同じことを繰り返し言い、思いどおりにならないと大泣き。診断を得るべき?

■家族構成
相談者:さーあー(相談したい子の母、30代後半)、夫(40代前半)、長男、次男(相談したい子、3歳)

■ご相談
 4歳にもうすぐなりますが、数字の感覚がなく、1つか2つかなどの数字が分からないようです。全部ではないですが、いまだに食事や着脱は手伝ってほしがります。また、排泄もトイレでの排便を嫌がります。給食では好みが激しく、気に入らないと全く食べない時も。おしゃべり好きで、園でも先生や他の子に長々ととりとめのない、「ごはんつくるからねー」とか「気をつけて帰ってね」を繰り返し話しかけます。他の人と会話していても、割って話しかけます。そして、おもちゃが思い通りに遊べない、使いこなせない場合や自分の思い通りにならないとき、怒って、「僕は怒った! 〇〇しない!」と頻繁にふてくされ、機嫌が悪いとそのまま大泣きに発展することもしばしばです。ただ、しばらく抱いていたり背中をさすっていたり、一人になることで、落ち着くことができます。

 長男は、4歳頃に保育園で指摘をうけ、小学校入学前にASDの診断を受けました。次男も同様に上記のような細々なこだわりの気質を持ちつつも、長男とは環境もこだわり方も違うこともあり、園や検診での指摘もなく、病院で受診したものの、未診断状態です。園では怒ることはありつつも、友達と毎日揉めるでもなく、さほど困っていないように見受けるため、このまま過ごして良いのか早期療育の為に診断を得るべきか、今は悩んでいます。

A. 専門家の回答

5歳までに自制心を育てることで、その後の人生が決まります。
怒るのではなく「できたらほめる」を忘れずに。

「数」の理解には2つある
 早く数を数えられるようになってほしい、という親の願い、よくわかります。さーあーさんの息子さんは「数字の感覚がなく、1つか2つかがわからない」とのこと。「数」の理解については、大きく分けて2つの種類があります。1つは「イーチ、ニイ、サーン、シイ、ゴー……」と数を歌うように唱える「数唱」。お風呂で「10まで数えたら出ようね」などと言って数えたりします。3歳くらいまでに10まで数えられる、というのが一応の発達の目安です。

 ただ、10まで言えても、この場合、数字の意味を理解せず覚えて唱えているだけという場合もあります。そこで、「りんごは何個あるの?」「3個ある」と「数える」ことを計数と言います。では、いつ頃計数ができるようになるのか。これは個人差がありますが、4〜4.4歳がおおよその基準です。息子さんの場合は、計数ができないということだとすると、とりあえず今の段階ではそれほど気にしなくて大丈夫でしょう。

 発達はお子さんによって個人差があるので、なかなかできないな…と思っていても、ある日突然できるようになり急に伸びていく、ということも少なくありません。どうかまだ、心配しすぎませんように。

 また、食事やお着替えで、さーあーさんの手を借りたがるのも、甘えてるんだな、ということでよしとしましょう。排便については、発達に特性のあるお子さんでは問題が出ることはよくあります。排便時に便が下に落ちていく感覚がいやだから、というお子さんもいます。4歳5歳となり、社会性が育ってくると、自分だけトイレでできないのは恥ずかしい、となると思います。

日々の生活の中で練習していく
 給食の好ききらいは、程度にもよりますがまったく何も食べられないということではないようなので、きらいなものは無理に食べさせなくてよいと思います。体重が順調に増えていれば問題ありません。

 また、おしゃべりが好き、というのは、人とのかかわりに積極的ということなので、大事にしてあげたいところです。ただ、お友達の話に割って入って一方的に話す、というのはちょっと考えものです。「今お友達が話しているから、終わるのを待ってから話そうか。」と教えてあげてください。それがよくないことで、お友達がいやだなと思っていることがわかっていないと思うので。「待ったほうがお友達もうれしいよ」と伝えてください。

泣けばなんとかなる、という誤学習をさせない
 そして、気に入らないことがあると怒ってふてくされてしまう、大泣きすることもある、というのも、お子さんが2歳ならしかたないですが、息子さんの場合はもうそろそろなくしていきたいですね。そこで、さーあーさんには、息子さんが自分の思い通りにならなくて大泣きしているときに、機嫌をとったり優しくなだめたりということをしないでいただきたいのです。泣けば問題が解決できる、というまちがった学習をして欲しくないからです。

 「僕は怒った。もう○○しない」と言うのはいいのですが、その後泣かずに気持ちを切り替えられるようにサポートしてあげてください。

 「そんなことで怒っても自分もお友達も楽しくないよ。遊ぶ時間が終わってしまうから損だよ」と、大泣きしようが当たり散らそうが、中立的な対応で説明して泣き止むまでそばで待っていてあげるのもよいでしょう。そんなことをしても意味がない、ということをとことん教えることが大切です。「叱る」というよりも、「そんなことすると、ママは悲しいな」ということを伝えるとよいでしょう。このような対応は保育園の先生にもお願いしておくといいですね。

5歳までに抑制力をつける
 2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授は、5歳までの教育がその子のその後の人生を大きく左右する、ということを立証して話題になりました。脳科学の分野でも、脳が大きく発達する幼児期にさまざまな能力を高めておくことで、その後の年収や社会的地位、健康状態にも影響するという研究がこの10年、数多く報告されています。

 特に5歳までに自己制御能力(=自制心)をつけておくことが大事です。さーあーさんもここで息子さんのわがままを通していては、その後の息子さんの長い人生のためにならない、ということを忘れないでください。

 ただし、なんでもがまんを強いるのはもちろんよくないですし、幼児期の行き過ぎた自己抑制は、思春期以降、暴力や不登校などの形で現れることがあります。自制心を教えるのは簡単なことではありませんが、「少しでもできたらほめる」ということを常に意識し、タイミングよくほめてあげましょう。本人が偶然できたことでも、そのときにすかさず「今、よくがまんできたね! えらかったね!」とほめることで、「今のでいいのか」ということをお子さんは学ぶことができます。

 よく観察して、ちょっとしたことでもできたら大げさにほめる。スモールステップで根気よく育てましょう。

「特性」であって「障害」ではないのかも
 さて、最後に、お兄ちゃんがASDと診断され、下のお子さんも診断を受けたほうがよいのでは、というご相談について。

 確かに、きょうだいの一人がASDの場合、別のきょうだいが発達障害である確率は、そうでない場合に比べて10〜20倍高いことが報告されています。発達障害の診断基準を満たさない場合でも、ASD特性を持っている、ということはよくあります。

 ASD(Autism Spectrum Disorder)=自閉スペクトラム症の「スペクトラム」というのは連続体という意味です。つまり、ここまでが自閉症でここからはそうではない、といったはっきりした線引きができないのです。その特性のせいで日常生活に支障があり生きづらさがある場合には「障害」と診断されますが、そのような特性があっても日常生活がそれなりにおくれるのであれば、それは自閉スペクトラムという特性(=性質)があるだけで「障害」ではない、ということになります。
 もしかすると弟さんの場合は、特性、にとどまって「障害」とはなっていないのかもしれません。お友達とのトラブルも特にないようですし。これまでにお伝えしたようなことを毎日の生活の中で実行していただき、よいところは伸ばして、いけないことは、よくないよ、と教えて、少しでもできたらほめる。これを繰り返してください。

 診断は、保育園の先生などから受診を勧められてからでいいのではないでしょうか。お兄ちゃんのこともあり、さーあーさんも毎日大変だろうとは思いますが、どうかできるだけ怒らず、弟さんの良いところを見て伸ばしてあげてください。そしてさーあーさんや周囲の方のサポートで、弟さんが「特性」を持ちながらも、集団生活の中でうまく折り合いをつける方法を身につけられるとよいな、と願っています。

「うちの子ちょっと変わってる?」子どもの発達お悩み相談室はこちらから

 

久保田競先生
1932年大阪生まれ。
東京大学医学部卒業後、同大学院で脳神経生理学を学ぶ。米国留学で最先端の研究を身につけ、帰国後は京都大学霊長類研究所で教授・所長を歴任。
『バカはなおせる 脳を鍛える習慣、悪くする習慣』『天才脳を育てる3・4・5歳教育』『あなたの脳が9割変わる!超「朝活」法』等、脳に関する著書多数。

原田妙子先生
福岡大学体育学部修士課程卒業後、久保田競に師事し博士号取得。海外特別研究員としてフランス国立科学研究センター(College France CNRS)認知行動生理学研究室、パリ第六大学 脳イメージング・運動制御研究室を経て、現在は浜松医科大学 子どものこころの発達研究センターの助教。専門は子どもの脳機能発達。


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