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「寝つきが悪く、本を6冊読んでも寝てくれません。どうしたら寝てくれるでしょう?」子どもの発達お悩み相談室


みなさまが、小学生以下のお子さまを育てていて、「うちの子ちょっと変わってる?」と思い、お子さまの発達などに関してご心配になっていること、お悩みになっていること、お気づきになったことなどについて、脳科学者の久保田競先生と、その弟子で児童発達研究者の原田妙子先生が児童の脳や発達の最新研究をもとに回答します。

Q12. 寝つきが悪く、本を6冊読んでも寝てくれません。どうしたら寝てくれるでしょう?

■家族構成
相談者:ふみこ(相談したい子の母、30代前半)、夫(30代前半)、長女(相談したい子、3歳)

■ご相談
 娘は、なかなか夜寝てくれません。赤ちゃんの時から少し眠るとすぐに起き、お気に入りのビデオを見させたりしてまた寝かせて、を繰り返し、「朝になったら起きて夜になったら寝る」というリズムを作るのに苦労してきました。本を5冊、6冊と読んでもまだ寝てくれず。6冊読み終わると、また1冊目から読んで、とせがまれます。こっちもさっさと寝かしつけて、家のことをしたり自分の時間を持ちたいと思うのですが、結局なかなか寝てくれず、夜中に目を覚ますこともあります。ビデオを見せて私はウトウトしていますが、ゆっくり休めず、いつも寝不足です。娘は朝ゆっくり起きてきますが、私は夫を送り出すためにそういうわけにもいきません。なんだか自分のグチのようになってしまいました。母親失格ですね……。

 実は、知的な遅れはないが自閉スペクトラム症の疑いがあると言われていて、そのせいもあるのかなと思いながら……。もうすぐ幼稚園入園なので、それまでになんとかしなきゃ、と焦っています。

A. 専門家の回答

睡眠の問題も発達特性。「光」を効果的に使いましょう。
 ふみこさん、寝不足、つらいですよね。発達に特性のあるお子さんの場合、娘さんのように寝付きの悪さや、夜中に起きてしまったりといった睡眠の悩みを抱える親御さんは少なくありません。

 参考までに、発達障害児の場合、ASDでは50〜80%、ADHDでは25〜50%のお子さんに、なかなか寝ない、起きない、寝過ぎといった様々な睡眠問題があるという研究結果があります。(ちなみに定型発達児の場合、睡眠に問題のあるお子さんは25%程度。)

 発達障害は生まれつきの「脳の機能障害」で、それが睡眠の調整にも関係しているのではないか、と考えられていますが、はっきりしたことはわかっていません。感覚過敏のために少しの物音で起きてしまうとか、昼間のストレスが原因だとか、落ち着きがないせいだとかいろいろな理由があると思います。

 ふみこさんは毎日6冊もの本を読み聞かせているとは、すごく努力をされているのですね。お話の世界をさまよいながら眠りに落ちられるのは、娘さんにとって幸せなことだと思います。母親失格なんてことはないですよ。ご自分を責めないでくださいね。娘さんは本が好きなようですから、やがて、自分で本を読むようになってくれるのではないですか。もう少しつき合ってあげてください。

「朝の光」で早起きの習慣を
 少し気になったのは、夜中に起きてしまったときに「ビデオを見せる」ということ。実はビデオやテレビ、パソコンなどの光る画面を見ることは、神経を高ぶらせてしまい、逆に眠りづらくなるため、寝る前にはおすすめできません。寝る前2時間くらいは、画面を見せないようにして光の刺激を入れないようにしましょう。また、昼間の運動は足りていますか。昼間に十分身体を動かして疲れていると、すんなりと寝てくれるものです。

 もうすぐ幼稚園入園、とのことですので、自ずと朝早く起きなければいけなくなります。今のうちから、朝、少しずつ早く起こすようにしてはどうでしょう。「早寝早起き」、まずは「早起き」から始めましょう。そして、起きたらすぐにカーテンを開けて、朝の光を取り入れましょう。朝から外にお散歩に行くのもいいですね。雨で暗いなら朝から電気をつけて明るくしてください。「朝、光を浴びる」ことが睡眠リズムを作るのにとても大切なのです。

 幼稚園、小学校と進むにつれて、朝起きて幼稚園や学校に行き、活動して夜は疲れて寝る、という生活が身についてくるようになると思います。しかしそれでも、もしかしたら、ママが部屋から出ていった後で、一人でこっそり本を読んだりしているかもしれません。人間にとって睡眠はとても重要ですが、その長さや深さというのは、実は個人差があります。娘さんが毎朝起きて、問題なく活動できていれば、どうかそのまま見守ってあげてください。早く寝なきゃ、という気持ちがストレスになる場合もあります。

眠れないことを責めないように
 今はもう大学生になった自閉スペクトラム症の青年が言っていました。

 「保育園ではお昼寝の時間が何より苦痛だった。みんなで同じ時間に寝なければいけない。僕は全然寝たくなかったし、その時間お絵かきをしていたかったのに、寝たふりをしなきゃいけなかった。小学校に入ると夜中寝られないとこっそり本やマンガを読んでたんだけど、親に見つかるとすごく怒られた。中学校では夜中までゲームをしていて、やっぱり親に怒られた。僕は、睡眠時間が短くても大丈夫なタイプだったんだけど、親はよほど僕に早く寝て欲しかったんだろうと思う。僕自身も、みんなが寝ている時間に起きていることに罪悪感があった。でも眠れなかったんだからしかたがない。「早く寝ないと学校に行けなくなるでしょっ!」親にそう言われ続けて、「学校に行かないなら早く寝る必要がない」と思った僕は、入学した高校に通うのをやめた。僕は眠れないということより、眠れないことで親が怒ったり悲しんだりすることの方がずっとつらかった。」

 その後この青年は、高卒認定試験を受けて合格。建築家になるために大学に通っています。このようにお子さん自身が眠れないことに罪の意識を感じてしまうようなことのないよう、上手にサポートしていきたいものです。

 もし、昼夜逆転など、日常生活に差し障るほど眠りの問題がひどい場合は、薬物を使った解決法もあります。「メラトベル」は睡眠ホルモン「メラトニン」と同じ構造をもつ薬で、眠気を促したり、睡眠のリズムを整える作用があります。アメリカでは薬局のサプリメントコーナーで普通に売られています。日本でも2020年に、発達障害のある6〜15歳の小児を対象に保険診療での処方が認められました。依存性が少ないとされている薬ですので、関心のある方は医師に相談してみてください。

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久保田競先生
1932年大阪生まれ。
東京大学医学部卒業後、同大学院で脳神経生理学を学ぶ。米国留学で最先端の研究を身につけ、帰国後は京都大学霊長類研究所で教授・所長を歴任。
『バカはなおせる 脳を鍛える習慣、悪くする習慣』『天才脳を育てる3・4・5歳教育』『あなたの脳が9割変わる!超「朝活」法』等、脳に関する著書多数。

原田妙子先生
福岡大学体育学部修士課程卒業後、久保田競に師事し博士号取得。海外特別研究員としてフランス国立科学研究センター(College France CNRS)認知行動生理学研究室、パリ第六大学 脳イメージング・運動制御研究室を経て、現在は浜松医科大学 子どものこころの発達研究センターの助教。専門は子どもの脳機能発達。


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