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「ズボンが気持ち悪い」とはけなくなった娘。もう着られる服がありません。」子どもの発達お悩み相談室


みなさまが、小学生以下のお子さまを育てていて、「うちの子ちょっと変わってる?」と思い、お子さまの発達などに関してご心配になっていること、お悩みになっていること、お気づきになったことなどについて、脳科学者の久保田競先生と、その弟子で児童発達研究者の原田妙子先生が児童の脳や発達の最新研究をもとに回答します。

Q7. 「ズボンが気持ち悪い」とはけなくなった娘。もう着られる服がありません。

■家族構成
相談者:くままま(相談したい子の母、30代後半)、夫(30代後半)、長女(相談したい子。5歳)、次女

■ご相談
 ふだんは特に問題がある感じはないのですが、服などの接触に過敏なのか、何か一つのことが気になりだすとずっとそれを気にしてしまうくせ(?)があります。
数ヶ月前から「ズボンが気持ち悪い」と言いだし、それまでなにも気にせずはいていたズボンの大半がダメになり、今は特定のお店のズボンしか受けつけなくなりました。

 その後「靴下がなんかやだ」と言いだし、何度も何度も靴を脱いでは直したり、保育園登園時にはなにも言っていなかったのに「靴下が気持ち悪いかもしれないからはきたくない」と言いだしたり……。

「はけるやつをはけばいいよ」「ダメなやつは無理にはかなくていいよ」と言ってはいるものの、一度大丈夫と確認して買い足したズボンも次の日には「ダメ」となってはけなくなったこともあり、正直「いつまで続くのか、はけるものがなくなってしまったらどうしよう」と不安です。

 何をはかせても「気持ち悪い」と言うときには、着られるものがないので「じゃあ今日はお出かけはやめとこうね」と言うと「それはやだ!」と言われ、「じゃあちょっとがまんして着られる?」と聞くと「気持ち悪くていやだ!」と言われ、八方ふさがりでどうしてあげることもできずイライラしてしまうこともあります。

 昨年5月ごろ、外出自粛や保育園の登園自粛の際に、固形物が飲み込めなくなるなど、繊細なところがある子なのだろうなと思ってはいるのですが、これは何か発達に問題が……?と不安もあり、どう対応していいのかと悩んでいます。取りとめのない文章で申し訳ありません。何かアドバイスをいただけますと幸いです。
 

A. 専門家の回答

子ども自身に、服を選ばせてみてはどうでしょう。
 娘さんが、数ヶ月前からズボンがはけなくなってしまったとのこと。心配ですね。ご相談を読んで、ご家族の毎日の生活に支障をきたしている状況のようですので、なるべく早く対応する必要があると感じました。それまで大丈夫だったのに、なぜそうなるのか、くまままさんとしてはわけがわからずとまどってしまわれているのでしょう。お気持ち、よくわかります。

不安なせいで、ますます感覚過敏になる
 娘さんはもともと、少し感覚が過敏なのだろうと思います。そして、過敏=感覚の過剰反応は、不安と大きく関係していることがわかっています。つまり、不安感があると、ふだんは大丈夫なことでも過剰に反応してしまうということです。

 コロナ禍での外出自粛や保育園の登園自粛の際に、固形物が飲み込めなくなった、というのは、くまままさんのおっしゃるように、娘さんが、ふだんと違う状況にうまく対応できず、それまで気にならなかったことが気になるようになってしまったと考えられます。ズボンがはけなくなった、というのも同様かもしれません。2020年3月以降、世界じゅうに暗雲がたれこめている中、娘さんの場合、不安な気持ちや感覚過敏がひどくなる、という形で出ているのかもしれません。

 それでも、「気持ち悪いからはけない」と自分の思いをくまままさんに伝えられるのは、えらいですね。感覚過敏を持っているお子さんの中には、自分の感覚の不快さが理解できずに、落ち着かなくなって乱暴に服を脱ぎ捨てるなどして暴れる、というような、言葉で表現することができずに苦しんでいるお子さんが結構いるのです。

視点を変えて、娘さんの気を散らしてみる。「魔法」を使う
 それにしても、はけるズボンがなくてお出かけができない、というのは、くまままさんとしても困りますね。「これはどう?」「じゃあ、こっちは?」と娘さんのごきげんをうかがいながら一つ一つズボンをわたされているのだろうと思いますが、いっそ、ズボンもスカートもワンピースも、すべてを目の前に置いて、「どれが着られる?」と娘さんに選ばせてはどうでしょう。

「どれも無理」となったら、「魔法」を使ってみる方法もあります。

「そっか、これも気持ち悪いのかあ。でもね、ママ、実は魔法が使えるのよ。こうすれば気持ち悪くなくなるのよ」と、例えば、リボンやワッペンをつけてみます。あるいは下にレギンスをはかせるとか。「無理!」となっている気持ちを、少し横にそらすのです。それで、一瞬でも大丈夫かも、となったら、「じゃ、とりあえずそれで出かけましょう。でもやっぱりダメな時のために、お着替えも持っていくからだいじょうぶ」と着替えを持って出かけてしまいましょう。

 くまままさんも「お出かけの時はこういう服でなきゃ」という気持ちがもしあれば、それはいったん捨てて、部屋着やパジャマに上着をはおる、くらいでもよしとしましょう。服の感覚過敏のことが気になってしかたない娘さんと同じ土俵にいるよりも、くまままさんは少し引いた視点で、裸でなければよし、靴下も別にはかなくていい、くらいでつきあった方がいいと思います。少しの時間でもその服で行動できれば、案外いける、と娘さんも思うかもしれません。

発達障害の診断基準にも「感覚過敏」は入っている
 くまままさんも「何か発達に問題があるのでは」と気にされていますが、確かに感覚過敏によって生活がスムーズにまわっていかない状態なのは気になります。自我が芽生え始めた2歳児の「イヤイヤ期」ではなく、5歳なので、反抗しているわけでもなさそうです。

 実は、発達障害の中でもASD(自閉スペクトラム症)の診断基準のひとつに「感覚過敏(鈍麻)」があります。実際、ASD特性のある人の90%以上が、感覚症状がある、という調査結果があります。もちろん、感覚過敏のある人全てがASDと診断されるわけではなく、通常の定型発達の中にも感覚が過敏な人はいます。

 ただ、過敏ゆえに服が着られずに外に出られなくなってしまうと、人とのコミュニケーションの機会が減ってしまいます。そうやって、行動の幅を狭めてしまうことを考えると、上に書いたような対応をとりながら、できるだけ早く専門家に診ていただき、問題となるレベルなのかどうか診断されることをお勧めします。実際に生活に影響が出ているかどうかが受診の目安で、娘さんの場合は、その段階だと思います。もし、発達相談を掲げている小児科などが近くにない場合は、まずは保健所や地域の発達相談センターなどにご相談されるとよいでしょう。

お子さんの感覚についての特性を知ろう
 診断の際には、どのような感覚がどのくらい過敏なのかを評価する「感覚プロファイル検査」というものがよく用いられます。例えば、触覚については「汚れるのを嫌う」「特定の生地に敏感に反応する」「触れられると感情的・攻撃的に反応する」といった質問に、保護者や養育者が回答していきます。他にも、聴覚、視覚、嗅覚(におい)、口腔(口の中の)感覚など幅広い感覚についての125項目の質問で構成されていて、感覚の過敏(や鈍麻)について色んな角度で知ることができます。

 娘さんが経験している感覚を他の人が共感することは難しく、娘さん自身も、それが自分特有のものだとは自覚していないかもしれません。そのため、周りからは「わがまま」とか「がまんが足りない」などととらえられがちです。

 もし娘さんの感覚過敏が、専門家からみて問題となるレベルであったとすれば、娘さんの症状に応じた対応(療育など)を提案してくれるでしょうし、保育園でもそのような特性を理解して接してくれるはずです。感覚過敏を入り口に、娘さんの「発達の特性」について知ることもできるかもしれません。

 不安ゆえに一時的に感覚がいつもより過敏になっているだけかもしれませんが、発達の問題は早期発見・早期介入が大事です。ぜひ一度、受診を考えてみてください。

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久保田競先生
1932年大阪生まれ。
東京大学医学部卒業後、同大学院で脳神経生理学を学ぶ。米国留学で最先端の研究を身につけ、帰国後は京都大学霊長類研究所で教授・所長を歴任。
『バカはなおせる 脳を鍛える習慣、悪くする習慣』『天才脳を育てる3・4・5歳教育』『あなたの脳が9割変わる!超「朝活」法』等、脳に関する著書多数。

原田妙子先生
福岡大学体育学部修士課程卒業後、久保田競に師事し博士号取得。海外特別研究員としてフランス国立科学研究センター(College France CNRS)認知行動生理学研究室、パリ第六大学 脳イメージング・運動制御研究室を経て、現在は浜松医科大学 子どものこころの発達研究センターの助教。専門は子どもの脳機能発達。


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