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【スペシャル連載】第1回 13歳からの経営の教科書 「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語


6月29日(水)発売の『13歳からの経営の教科書 「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』をためし読み公開!
外国には小さいころから経営の勉強をしている国があり、日本でも起業家(会社をつくる人)の教育を始めている小学校も増えました。
将来の夢を考えるのにも、友だちと仲良くするのにも役立つ「経営」の物語を読んでみよう!



 思わぬ大金を手にして、ヒロトは驚いた。これを、自分たちの力で……。
「あっという間だったね」
 そう話しかけるヒロトに、リンがお金を整理しながら答える。
「……これ、全部でいくらあるのかな?」
 千円札が何枚かと大量の小銭。
 それをたった一日で、いや、ほんの数時間で得た。
 誰かからお金を盗んだのでも、何か悪いことをしたのでもない。自分たちが育てた野菜を、自分たちで作った野菜市で、自分たちで売って手に入れたお金だ。

 こんなこと、ほんの数日前までのヒロトだったら絶対にありえなかった。
 ヒロトだって、小さい頃には、自分はきっとどこかの国の王子で、いつか伝説の剣を持った使者が迎えに来るんだと信じていた。自分がいつか宇宙人に誘拐されると本気で心配したし、サンタクロースとだって自分なら友達になれると思ってた。だけど、中学に入る頃には、ヒロトはすっかり現実に打ちのめされていた。

 そう、自分は特別じゃない、どこにでもいる普通の中学生。でも、その普通ってそんなに悪くないんじゃない? 王子さまなんて気軽にポテトチップスも食べられないだろうし、宇宙なんか公園さえなさそうだし、サンタクロースと言葉が通じるかもわからないし……。
 最近では、ヒロトはそう自分に言いきかせてきた。
 ヒロトにとって挑戦や冒険はマンガやゲームの中だけの話だった。だけど……。

「てかさっ、これだけあれば、中古のカメラくらいなら買えちゃうかもっ!」
 ヒロトなりの照れ隠しだ。
 とはいえ、たしかにヒロトは、写真部に所属しているのに、ちゃんとした一眼レフカメラを一台も持っていない。撮影はスマホでいいけれど、写真部顧問のおじさんのカメラコレクションを見せられると、やっぱり一台くらいはちゃんとしたカメラが欲しくなる。
「……だめ、これはみんなのお金だから」
「いやあ、そりゃ、もちろんわかってるけどさ」
 そう言い訳して、ヒロトが、付け加えるようにつぶやいた。

「これも『教科書』のおかげだ」
「……教科書って?」
「えっとね、実は、お店やろうってのも、この『教科書』を読んでたから、できるかもって」
 そう言ってヒロトは、スクールバッグから『みんなの経営の教科書』を取りだした。そう、この『教科書』と出会わなければ、自分がビジネスをやるなんて思いもしなかった。



 手作り感のある本だ。表紙は古びて茶色く変色していて、ところどころ小さな破れがある。
 リンがその『教科書』を受け取った。
 リンがページをめくると、ちょうど「製品・サービス」の章で手が止まった。そこに、しおりの代わりとして、ノートの切れ端が挟まっていたからだ。

〈コンビニにいってみると、五百ミリリットルのペットボトルのお水は百円くらいだ。じゃあ、これが二リットルだといくらか知っているだろうか?

 気になった人は確かめてほしい。

 量が四倍だから値段も四倍だと思うかもしれない。

 でもちがう。二リットルのお水も百円くらいだ。そしてなぜか一リットルのお水は二百円くらいだったりする。

 これは、五百ミリリットルや一リットルのペットボトルのお水には「持ち運びやすい」

という良いことがあるからだ。

 また、量と内容がまったく同じジュースでも、激安スーパーで買ったら五十円だったものが、自動販売機だと百円以上したりする。これも自動販売機のジュースには「いつでも、どこでも、冷たい飲み物を飲める」という良いことがあるからだ。〉



 思わずリンが笑顔になったのを、ヒロトは見逃さなかった。
「……ねえ、ヒロト、もしかして駅前のときも、これ読んでやってみたの?」
「へへっ、わかっちゃった? さっすがリン。実は、そうなんだ」
 ヒロトも笑顔になった。「駅前のとき」というのは、土日にヒロトが一人でやった「ビジネス」のことだ。といっても、そのビジネスは、リンのおせっかいのせいで、やめてしまったけれど……。
 でも、この野菜市ビジネスを通じて、ヒロトとリンのあいだには、昨日まであったはずの対立なんかすっかりなくなってしまっていた。
 ヒロトはもう一度『教科書』に視線を落とした。
 すべてはこの『教科書』を手にした、あの日の図書室からはじまった。


<第2回へつづく(7月3日公開予定)>

書籍紹介



500mlのペットボトルの水が100円なのに、なぜ2Lの水も100円?
物語を通して楽しく学べる「ビジネス」と「生き抜く力」!

(あらすじ)
中学校の図書室に忘れ置かれた不思議な『みんなの経営の教科書』と出会い、
ヒロトは仲間と共に社会の課題に向き合う――。

“人は誰でも自分の人生を経営している。だから、すべての人にとって経営は必要不可欠”
という強い思いから、中学生から社会人までが楽しめる物語形式で書き下ろされた、
これからの時代に必要なビジネス素養が身に付く本。

※本書は前から物語、後ろから“教科書”を読むことができます
 



著者 岩尾 俊兵

定価
1760円(本体1600円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784041125687

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