KADOKAWA Group

Life & Work

暮らし・働く

依存を引き起こす脳内の化学物質


『「発達障害」と間違われる子どもたち』著者成田奈緒子さん推薦!
「脳を育て直せるのは「自分自身」だけ。その覚悟と勇気をくれる1冊」

ついつい気になってしまう子どものスマホ習慣。

じつは、スマートフォンの使い過ぎには、思っている以上に悪影響があるんです。

ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト・マガジンなどで活躍する気鋭の著者が発表し、世界34カ国以上で支持された『スマホ断ち 30日でスマホ依存から抜け出す方法』では、「スマホ依存」がいかに脳の力を奪ってしまうかを分かりやすく解説。そのうえで、150名が参加して開発した、たった4週間の「スマホ断ち」プログラムを紹介しています。

連載第2回は、本書の中から「依存を引き起こす脳内の化学物質」をピックアップします!

※本連載は『スマホ断ち 30日でスマホ依存から抜け出す方法』から一部抜粋して構成された記事です。記事内で使用している写真は本誌には掲載されていません。



 

ドーパミンの起爆剤

時代を経て薬物が強力になったように、行動がもたらす興奮も昔と比べてはるかに強くなっている。世のプロダクトデザイナーたちの優秀さたるや、いまや前例のないレベルだ。どのツボをどう押せば私たちをそそのかすことができ、何度も何度も製品を使いたくなるかを熟知している

──アダム・オルター『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』〔上原裕美子訳、ダイヤモンド社、二〇一九年〕

 





依存を引き起こすドーパミンの作用

 製品の使用時間をできるだけ延ばすために、プロダクトデザイナーたちは依存症を引き起こすとされる方法で、脳内の化学物質をたくみに操っている。

 そこで主役になるのがドーパミンと呼ばれる物質だ。ドーパミンにはさまざまな役割があるが、特に押さえておくべきはひとつ。快楽にまつわる受容体を活性化することで、特定の行動と報酬とをセットで記憶させるというものだ(レバーを押せば餌が出てくる、と学習したネズミの話を思い出してほしい)。ドーパミンは快楽をもたらす――そして、私たちは快楽を味わうのが大好きだ。だからこそ、ドーパミンを放出する体験を何度も繰り返したくなる。

 ところが、話はそれで終わらない。特定の行為で何度もドーパミンが分泌されると、その因果関係も記憶される。すると、その行為をただ頭に思い浮かべるだけでもドーパミンが放出される。つまり、期待感でドーパミンが出るようになるのだ。

 あとで得られる満足感を予測する力は、人間が生きのびるうえで不可欠なものだった――たとえば、食料を探すときの原動力になる。けれど、それは同時に渇望感を引き起こし、もっとひどい場合には依存症の引き金にもなる。

スマホを見れば報酬が得られると脳が学習すると、遠からずスマホを思い浮かべるだけでドーパミンが分泌されるようになる。スマホ中毒の始まりだ(人がスマホをチェックしているのを見ると、自分もチェックしたくなると感じたことはないだろうか?)。

 興味深いのは報酬にはプラスとマイナスがある点だ。スマホに手を伸ばす理由は、よいことが待ち受けているという期待感や予測である場合もあれば、反対に退屈さや不安といった不快なものを回避するためだという場合もある。どちらでも結果は同じだ。脳内でスマホチェックと報酬が結びつけば、私たちはとにかく何がなんでもスマホを見たくなる。

 ラボのネズミのように、餌を得るためにひたすらレバーを押しつづけるようになるのだ。ありがたいことに、食べ物に対する欲求は満腹になれば自然と落ち着く(でなければ、胃が破裂するかもしれない)。一方で携帯電話や多くのアプリでは、もうじゅうぶんだと気づかないように、〝やめどきのサイン〞が意図的に排除されている――これが時間を忘れて没頭しやすい理由だ。

 じつは私たちはある程度の段階を過ぎると、このままつづければ不快な思いをすると気づいている。ところが、脳はそこでストップをかけるのではなく、対処策としてさらにドーパミンを求めるという判断を下す。こうしてまたスマホを見ることになる。それが何度も何度もつづくのだ。

 そうなると、人は自分の自制心のなさを責めがちだ――つまり、自己嫌悪に陥る。しかし、私たちは気づいていない。このデバイスの裏にはプロダクトデザイナーがいて、途中で使用をやめることがきわめて困難になるよう意図してドーパミンを操っているということを。〝脳のハッキング〞と呼ばれるこのテクニックは、要するに、脳内物質を使った行動操作だ――そして、一度その特徴を見抜けるようになれば、スマホがそうした技の塊だと気づくようになるだろう。





脳を育て直せるのは「自分自身」だけ。その覚悟と勇気をくれる

連載第2回は、本書の中から「依存を引き起こす脳内の化学物質」をピックアップしました。

「スマホ依存」は気になる、でも持たせないわけにはいかない……。
本書が紹介する「スマホ断ち」プログラムは、そんなホンネに寄り添っています。
ぜひスマートフォンとの正しい付きあい方を見つけてみてください! 



【書籍情報】


著者:キャサリン・プライス 訳者:笹田 もと子

定価
990円(本体900円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784040824932

紙の本を買う



【プロフィール】

キャサリン・プライス(Catherine Price)
イェール大学卒業、カリフォルニア大学バークレー校大学院を修了後、ワシントン・ポスト・マガジン、ニューヨーク・タイムズ紙など多くの新聞や雑誌で活躍する科学ジャーナリスト。本書の原著〝How to Break Up with Your Phone〟(Ten Speed Press)は世界34か国以上で出版された。著書として〝Vitamania:How Vitamins Revolutionized the Way We Think About Food〟(PenguinBooks)や〝The Power of Fun:How to Feel Alive Again〟(The Dial Press)など(いずれも未邦訳)。

(訳)笹田もと子(ささだ・もとこ)
英日翻訳者。兵庫県出身。神戸市外国語大学国際関係学科卒業。共訳書に『数学アタマがぐんぐん育つ 算数の実験大図鑑』(新星出版社)。

 



 


この記事をシェアする

特集

ページトップへ戻る