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小説紹介クリエイターけんご厳選! ミステリー・恋愛・ホラー・SFなど、88冊の多種多様な小説を紹介。
100年以上前に発表された作品から、近年刊行されたばかりの新刊まで。
栄誉ある賞を受賞した作品から、新人作家のデビュー作まで。
思わず涙が溢れてしまう物語から、戦慄が走るほどのホラー作品まで。
動画では紹介していない作品も多数収録しています。
連載第2回は「第2章 背筋が凍る物語 ―恐怖の読書体験をしたい方へ―」から『クリムゾンの迷宮』をご紹介いたします。
・本連載は『けんごの小説紹介 読書の沼に引きずり込む88冊』から一部抜粋して構成された記事です。
『クリムゾンの迷宮』貴志祐介(角川ホラー文庫)
恐ろしくてたまらないのに、どこかワクワクしてしまう、目を背けたくなるほど悍ましいのに、ページをめくる手が止まらない──そんなホラー小説があります。今回ご紹介する『クリムゾンの迷宮』です。『黒い家』『天使の囀り』『悪の教典』など、数多くの傑作ホラーを生み出した貴志祐介さんが描く、命懸けのサバイバルゲームです。
主人公は、藤木という四十歳の男。失業してからは、貧乏生活を送っています。ある日、目覚めると、彼は岩だらけのまるで火星のような場所にいました。傍にはゲーム機に似た端末があり、そこには、次のようなメッセージが表示されていたのです。
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ゲームは開始された。無事に迷宮を抜け出て、ゴールを果たした者は、約束通りの額の賞金を勝ち取って、地球に帰還することができる。
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どうやら藤木は、何者かによって仕組まれたサバイバルゲームに参加させられたようなのです。そのゲームには、藤木を含む九人の参加者がいました。賞金と書かれていますが、藤木には、こんなゲームにエントリーした記憶は全くありません。
ゲームの内容はシンプルで、端末に表示された指示に従って、途中で支給されるアイテムを駆使しながらチェックポイントを目指すというものです。生き残れるのは、たった一人。食料や水も満足に用意されておらず、まさにサバイバルな状況下でゲームは進みます。
ゲーム開始当初は、参加者同士で協力し合おうとしていました。しかし、徐々に雲行きが怪しくなっていきます。我こそは生き残ってやろうと企む参加者たちによる、騙し合いが始まったのです。生き残るために容赦無く他の参加者を貶めようとする者もいます。もはや、他人を迂闊に信じることが許されないのです。
そして、物語の後半、このゲームの行く末を大きく左右する、恐ろしい“何か”が現れます。その正体については、実際に読んで確かめていただきたいです。
サバイバルゲームということもあり、作中では主人公である藤木の逃走劇がたびたび描かれます。緊張感のある描写には、思わず息をするのも忘れてしまうほどでした。
極め付きは、物語の結末です。なぜこのサバイバルゲームが開催されたのか、一体誰が藤木たちを謎の場所に連れ出したのか。
僕は『クリムゾンの迷宮』を、エンタメ小説として最高峰の完成度であると思っています。
初版発行から二十年以上の歳月を経た作品ですが、読むたびに目新しさすらも感じられるのです。『クリムゾンの迷宮』を読むことでしか味わえない恐怖を、ぜひその目に焼き付けてください。
新しい読書体験で、ぜひ「読書の沼」にお入りください
本書では、数多の小説の中から、多種多様な88冊を選んで紹介しています。僕自身もさまざまな作品を読むことで、新たな気づきを繰り返してきました。本書で紹介している作品をきっかけに、読書の幅を広げてもらえることができるなら、それは僕にとって幸せなことです。
あなたにとって、大切な一冊が見つかりますように。
引用文献:貴志祐介『クリムゾンの迷宮』(角川ホラー文庫)51刷、14ページ、2021年、KADOKAWA
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