発達障害や知的障害、言語障害の専門家として知られる川﨑聡大氏(立命館大学教授)をはじめ、子どもに関する各分野の専門家が集結! 発達障害の子が不安なく、しあわせに生きていくため、家庭・学校・地域社会でどう環境をととのえたらよいかを詳しくていねいにお伝えします。
連載第4回は、「学校で大きく育つ子どもたち」の中から「学校の先生とのコミュニケーションで困ったら」と「通級指導教室ってどんな場所?」を紹介します!
※本連載は『発達障害の子が羽ばたくチカラ 気になる子どもの育ちかた』から一部抜粋して構成された記事です。
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学校の先生とのコミュニケーションで困ったら
「学校とのコミュニケーション」の基本スタンスは、「情報提供」と「対話」です。またゴールは常に「わが子が学校や教室や教師に不安を感じずにいられること、そしてその環境を整えること」です。これは発達障害の有無にかかわらず、すべての子どもにとって大切な視点です。
勝ち負けや戦いにならないようにするには
情報提供とは、「わが子の実態や特性」+「支援の必要性」を具体的に丁寧に伝えることを言います。例えば「うちの子は、○○な場面でいきなり否定語を伝えると納学校の先生とのコミュニケーションで困ったら得がいかずに暴れてしまうことがある。▲▲な関わりをすると落ち着く」などです。
対話とは、お互いの考え方や捉え方の違いを理解し合いながら、話し合いを通して少しずつ溝を埋めていくことを言います。要望を伝える場合は「私はこう思うが、どうだろうか」とお互いに歩み寄りながら協議・交渉を続ける方がうまくいきます。
学校から「難しい」「できない」と言われた場合はどうすればよいでしょうか。現行のシステムでは、現状に追い付いていないこと、すぐに対応できないことが多々あります。前例のない「ファーストケース」の場合は、未開の地を行くような努力を強いられることがあるかもしれません。それでも、これまでに作られた制度や支援の多くは、過去の子どもたちの苦労や保護者の努力のおかげで切り拓かれていった歴史があります。「わが子だけのため」ではなく、「次の世代の子どもたちのため」にも必要な支援を訴え続けていくという気持ちが必要になるとも言えます。
学校とのコミュニケーションは簡単にいかないこともあります。何度も学校に行ったり、対話がうまくいかなかったり。もしそうなっても、ご自身を責める必要はありません。その一方で、理解がない相手をただ責めるだけでは事態はなかなか好転しないということも、心に留めておく必要があります。想定していることのすべてを実現させようとするのではなく、「優先順位の高い項目から進める」「取り入れやすいことから始める」といった方向性も一つの「落としどころ」だと考えるようにしてみてください。大切にしたいのは「わが子にとっての困りごとの解消」であり、決して戦いや勝ち負けではないことを保護者・学校の双方がともに理解する必要があります。
怒りや苛立ちをそのままぶつけても好転しない
学校という場は、保護者にとっていわば「わが子を人質にとられている」場であるという認識があるかもしれません。そのため、言いたいことをグッと我慢してしまう方がいます。しかし、それでは子どもにとって必要な支援が先送りされたり、場合によっては「困っていない」「必要ない」と判断されたりすることすらありえます。問題が大きくなる前に懸念や不安を伝えることは悪いことではありません。「一緒に問題解決を目指す仲間を作る」という気持ちで相談してみてください。
その一方で、必死の覚悟で伝えたお願いを検討しようともせずに「できません」と無下に断られ、学校に対して強い怒りや不満を感じる場合もあると思います。残念ながら、特別支援教育への理解は今も浸透していない現実があります。ただ、そんな相手にケンカ腰になれば、相手もかえって頑なになり、心を開いてくれず緊張状態に陥ります。憤りや苛立ちの感情をぶつけても、あまり状況はよくはならないでしょう。
その教師が「コミュニケーションに値する人間ではない」と感じた時には、迷わずに第三者の介入や外部機関の力を借りるようにしてください。
第三者とは、校内の関係者で言えば、学年主任、養護教諭、特別支援教育コーディネーター(各校一人以上が教師の中から選任されています)、管理職、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどが該当します。
外部機関とは、教育委員会、行政の子育て支援担当、特別支援学校の地域支援事業(センター的機能)、相談支援事業所(学校や放課後等デイサービス等との橋渡し的役割)、医療機関などが該当します。
ケースバイケースですが、上記のメンバーを含めた「支援者会議」を実施することで、学校や教師の態度が変容していくこともあります。子どもを中心に、それぞれの立場でできることを持ち寄りながら、学校でできることも確認していくという場があると、いざという時の安心感につながります。
川上康則
通級指導教室ってどんな場所?
子どもたちが安心して学ぶことができる「学びの保健室」
通級指導教室とは、通常の教科とは違い、児童生徒の特性に応じて学習上・生活上での困りごとを改善・克服するための特別な指導を受けられる場です。障害の状態の改善・克服を目指す指導(自立活動)と、各教科の補充をする指導を合わせて、週に1~8単位時間を行うのが標準です。障害の状態に応じて行われ、LD、ADHD は月1単位時間から通級で指導を受けることが可能になっています。これは平成5年度に小中学校、平成30年度に高等学校で制度化されました。
指導の形態は3つ。在籍校に通級指導教室を設置する「自校通級」、自校にはないため設置のある他校に出向く「他校通級」、通級指導担当教師が他校に出向いて指導する「巡回指導」があります。
子どもにも保護者にも負担が少ないのは、やはり「自校通級」。保護者の送迎の必要がなく、本人が校内を移動するだけで指導が受けられます。また、校内に通級指導教室があることで担任の先生との連携もスムーズになり、支援体制が整えやすいという利点もあります。しかし、今の段階では、すべての学校に通級指導教室を設置することは非常に難しい状況です。通級指導教室を必要とする児童生徒の人数は右肩上がりで増え続けているので、子どもと保護者の負担軽減のために「巡回指導」が盛んになってきています。最終的にはすべての学校に通級指導教室が設置され、多くの子どもたちが安心して学ぶことができる「学びの保健室」として通級指導教室が力を発揮する必要があると思っています。
では、具体的に通級指導室とはどのような場所なのでしょうか。それは「自分の特性に合った学習方法を見つけ、実践し、自信を回復する場所」と考えています。日本の学校は一斉指導が主流であり、黒板の前に立った教師による「チョーク&トーク」で授業が展開されます。読み書きができるという前提で授業が設計されているので、多様な学びをする子どもたちはあっと言う間に落ちこぼれ、自信を失っていきます。
中学校通級の子どもたちに「いつ学習することを諦めたか」と聞くと、ほとんどが「小学2年生」と答えます。漢字が複雑になってきたとたん書けなくなるのです。低学年までに特性を知り、その子に合った学習方法を身につけていれば、学ぶことをあきらめなくて済むケースも多いのではないかと感じます。だからこそ、少しでも不安があればできる限り早く通級につなげてほしいのです。
日本の学校は「書く」に重きをおく傾向があります。「書けなければ将来困るから」と言われるのですが、子どもたちは今書けなくて困っているのです。教える側がその子の「今」を見ることなく、できないことばかりを指摘し続けていれば、文字を書くどころか教科書やノートを机に出すことすら拒むようになってしまいます。
通級は自分らしく学ぶためにある
通級では、「なぜできないのか」を丁寧に把握し、「どうやったらできるか」を本人と一緒に考えます。子どもに寄り添い、支え、見届け、自信を回復させていきます。これまでにとらわれず、その子のできる方法を編み出していきます。通級でできるようになったら、通常の学級でもできるよう環境を整えます。
担任の先生や通常の学級の子どもたちへの理解啓発も必要です。通級の子どもたちは、多くの時間を通常の学級で過ごすのですから。ただ、通常の学級に合わせるスキルを身につけさせるために通級指導教室があるのではないということは胸に刻んでほしいのです。大事なのは、学校でその子らしくいられるということ。その子に合った学び方を見つけ、多様な学びが通常の学級の中で認められ、本来の力を発揮するための環境調整をすることが、通級指導教室の重要な役割なのです。
平成18年度から学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもも通級指導教室の対象になりました。「通級では勉強は教えられない」と断ることがあるそうですが、平成29年の学習指導要領で「特に必要がある時は、障害の状態に応じて各教科の内容を取り入れながら行うことができる」と改正されています。ソーシャルスキルも大切ですが、自分らしく学ぶこと、学び方を教わることも同じように大切です。特に中学生になると、学習面の困難を訴える生徒が激増します。どの子も安心して学べる環境を作る場所、それが通級指導教室です。
三富貴子
「気になる子ども」という言葉を入り口に、発達障害、子育て、学校との関係、社会とのつながりについて、一緒に考えていく一冊です。
この本を通じて、子どもと養育者の関係性の中だけで問題を解決しようとすることなく、少し俯瞰した視点に立って、今より少し生活をよくする手がかりが得られることを願っています。
【書籍情報】