子どもたちの思考力の基礎をつくる「ことば」を、親子で楽しく学べる『わが子に「ヤバい」と言わせない 親の語彙力』。
連載第3回は、本誌の中から『日常の意識で変わる語彙力【難読語】』をピックアップします!
※本連載は『わが子に「ヤバい」と言わせない 親の語彙力』から一部抜粋して構成された記事です。
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簡単な漢字でも組み合わせると「難読語」に変身する
問題
次の傍線部の漢字の読みをひらがなで答えなさい。
① 人の往来が激しい。
② 心配事が杞憂に終わる。
③ 世間の耳目を集める問題。
④ 秋の風物をめでる。
⑤ 海外企業の参入を促す
2019年度・攻玉社中学校(第1回)
こたえはコチラ
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わたしはセミナーで、ある有名企業トップのこんな熱弁を耳にしたことがあります。
「いいですか、皆さん! 企業の多くはジュンプウマンポに成長してきたわけではありません!」(順風満帆=ジュンプウマンパンのことだと思われます)。
なぜ、このような「権力を持つ人」が誤読を連発するのでしょうか。あれこれ考えてみたら閃いたことがあるのです。実は権力を持つ人物だからこそ誤読を積み重ねる可能性が高くなるのではないかということです。
権力者を象徴する存在といえば政治家が筆頭に挙げられるかもしれません。もうずいぶん前の話ですが、政治家の「誤読」が話題になったことがありましたね。
たとえば、首相経験者である重鎮の政治家の「誤読の連発」は有名です。「踏襲(トウシュウ)」を「フシュウ」、「未曽有(ミゾウ)」を「ミゾウユウ」、「頻繁(ヒンパン)」を「ハンザツ」などと誤読した過去があります。文部科学副大臣を歴任した政治家の誤読も相当なレベルです。国会の場で「便宜(ベンギ)」を「ビンセン」、「出自(シュツジ)」を「デジ」と読み間違えたことがあり、その当時話題になりました。
大人であれ、子どもであれ、誤読を改める手っ取り早い方法は、周囲の人たちから、自身の誤読に対して「その読み方って○○が正しいんだよ」と指摘してもらうことです。その場では少し恥ずかしい思いをするかもしれませんが、それをきっかけに以後その漢字の読みに気をつけていく……。これを繰り返せば、誤読している漢字の総量を徐々に減らすことができるに違いありません。
だから、誤読を繰り返す権力者のそばには、誠意を持ってそれを指摘してくれる人がいないのかもしれません。すなわち「裸の王様」と化している可能性が高いのですね。
その人の誤読に気づいたけれど、畏れ多くて指摘することができない。あるいは、ミスを指摘すると逆ギレされそうなので気づかぬふりをしている……。周囲がそんなふうに委縮(あるいは無視)してしまうと、当人は誤読に気づかないまま、そのことばを人前で連呼しつづけることになります。そして、相変わらず周囲は「その読み方って違うよな」と内心あきれながらも、沈黙を決め込むのです。これってこわいことですし、大変さみしいことだと思いませんか。
ですから、わが子が「誤読」をしたときには、親が瞬時にその間違えを指摘してやることが大切なのです。
それでは、冒頭の問題に目を移してみましょう。
どちらも漢字を単体で切り離してみると、簡単な部類に入ります。しかし、その簡単な漢字であっても熟語として組み合わされると意外に読み方を間違えてしまうものが多いのです。
冒頭の問題は攻玉社の漢字の読み取り問題ですが、この5問のうち①「往来」③「耳目」④「風物」などはまさに「簡単な漢字の組み合わせの『難読語』」でしょう。
わが子の漢字学習というと「書き取り」のほうに意識が向いてしまい、つい「読み取り」の学習を飛ばしてしまいがちです。それで手痛いミスを入試本番でやらかすのはもったいないですから、塾の教材や市販の漢字問題集などを使って、読み取りの問題を解いて、自身のこれまでの勘違いに気づいてほしいものです。
漢字を書くわけではなく、読みを確認するだけですから、「漢字の書き取り」よりも短時間で、場所を問わず取り組むことができるはずです。朝の家庭学習の時間やちょっとした休憩時間などスキマ時間を活用して、一日3分程度で構いませんから、コツコツと確認作業をおこなうとよいでしょう。
さて、「漢字の読み取り」で受験生たちがミスしやすいものを狙って入試で出題する学校はたくさんあります。その手の問題を出題する学校の一例を挙げると、先の攻玉社中学校のほか、慶應義塾中等部、慶應義塾湘南藤沢中等部、青山学院中等部、浅野中学校、横浜共立学園中学校などです。また、6年生はさまざまな学校の過去問(過去に出題された入試問題)に挑みます。その際「漢字の読み取り」でミスしてしまったところは、メモを残しておくとよいかもしれませんね。
語彙力も、思考力も、受験合格も、家庭での言葉遣いが明暗を分ける!
連載第3回は、本誌の中から『日常の意識で変わる語彙力【難読語】』をピックアップしました。
「わが子のことば遣い、“ヤバい”かも(そして、実は自分自身のことば遣いが“ヤバい”かも)……」と思った方は、本誌をチェック!
【著者プロフィール】
●矢野耕平
1973年東京都生まれ。中学受験指導スタジオキャンパス代表、国語専科博耕房代表。東京の自由が丘と三田に2教場を構える。指導担当教科は国語と社会。中学受験指導
歴は今年で29年目を迎える。2児の父。法政大学大学院人文科学研究科日本文学専攻修士課程修了。現在は社会人大学院生として同大学大学院同研究科国際日本学インスティテュート日本文学専攻博士後期課程に在籍し、認知言語学、語用論などをベースに学齢児童の言語運用能力の研究に取り組んでいる。著書に『令和の中学受験 保護者のための参考書』( 講談社+α新書/講談社)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書/文藝春秋)、『13歳からの「気もちを伝える言葉」事典―語彙力&表現力をのばす心情語600』(メイツ出版)など。中学受験や中高一貫校、国語教育などをテーマにした連載記事を担当し、これまでにオンラインメディアの記事を300本以上執筆。
① おうらい
② きゆう
③ じもく
④ ふうぶつ
⑤ うなが
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