
子どもが読書にハマるオンライン習い事「ヨンデミー」を主宰する笹沼颯太さんは、子どものころファンタジー小説に夢中になっていたそうです。ファンタジー小説の魅力やハマる作品の選び方、笹沼さんがおすすめする10冊についてお話を聞きました。
■ ファンタジー小説で味わう「没頭体験」
ファンタジー小説の魅力は、「没頭体験」を味わえること。言葉を話す動物、不思議な魔法の世界、ワクワクする冒険の旅など、現実とは異なる物語の世界に引き込まれ、文字を読んでいる感覚が薄れるほどお話に夢中になる子どももいます。
こうした状態を、読書教育では「リーディング・ゾーン」と呼びます。リーディング・ゾーンは本の魅力を全身で体感できる魔法のような状態で、読書を好きになるきっかけになります。また、リーディング・ゾーンに入ると、いつもより読み応えがある本でも読み切れることがあります。想像が膨らんで頭のなかに映像が次々と浮かぶため、わからない言葉が出てきても頭の中のイメージが補完し、スラスラと読み進められるのです。
イマジネーションを膨らませて物語を読むことは、子どもにとって大きな価値のある体験です。文字を読んで想像する力は、大人になっても求められます。今後必要な力を養うという意味でも、ファンタジー小説に没頭する体験はとても貴重だと思います。
■ 「ハマる一冊」に出会うには?
子どもが読書を好きになるためには、「子ども一人ひとりに合った好みやレベルの本を見極めることが大切」と笹沼さん。子どもに合った本選びのポイントを教えていただきました。
子どもの読書レベルに合う本を選ぶ
子どもが本を好きになるには、その子に合った読書レベルの本を選ぶことがとても大切です。同学年でも、読む力には個人差があります。頑張れば読める本ではなく、「疲れずに読める」を目安に選びましょう。
ヨンデミーでは、漢字率・漢語率・一文の長さなど、複数の指標をもとに独自のプログラムで解析して算出した「ヨンデミーレベル」という指標を設けています。LINEミニアプリを使って簡易的に判定できるので、子どもに合う本を探すときの目安として活用してみてください。

「ファンタジー×〇〇」で選ぶ
ファンタジー小説という大きなカテゴリーのなかでも、「冒険もの」「動物もの」「伝説」「魔法」など、さまざまなサブジャンルがあります。子どもの好きなサブジャンルから選ぶと、よりファンタジーの世界に入り込みやすくなります。
「ガイド読み」で助走をサポート!
子どもが没頭する本であっても、物語の舞台設定や人間関係がわからない最初の数ページはつまずきやすいポイントです。読む前に大まかなあらすじや世界観を少しだけ伝えておくと、物語に入り込みやすくなります。ヨンデミーでは、これを「ガイド読み」と呼んでいます。アニメ化や映画化している作品であれば、予告動画を見るのもおすすめです。ヨンデミーチャンネルでは、保護者に代わって作品のあらすじや登場人物を伝える紹介動画を配信しているので、新しい本を読むときの参考にしてください。
■ 笹沼さんおすすめの「ファンタジー小説」
「子どものころからファンタジーものが好き」と話す笹沼さん。子どもにおすすめのファンタジー小説と作品の魅力について教えていただきました。
【ヨンデミーレベル32】
「ここへ行きたい!」と言うと、ジャックとアニーのきょうだいが時空を超えて本の世界へタイムトリップするお話です。現在も続く人気シリーズで、1巻が気に入ったらどんどん読み進められるのが大きな魅力。作品の世界にどっぷりハマって夢中になるタイプの子どもにはとくにおすすめです。恐竜時代、古代エジプト、アマゾンのジャングルなど、さまざまな舞台設定で物語が展開され、教育面でも非常に役立ちます。
【ヨンデミーレベル34】
子どもの日常である「学校」を舞台にした作品です。人間の言葉を話す「学校ネズミ」と図工教師の「ぼく」を軸に、放課後の図工準備室からファンタジーの世界が広がっていきます。作者の岡田淳さんは、数々のファンタジーの名作を生み出しています。この本にハマったら岡田さんの別作品を読んで「作家読み」を広げるのも楽しいでしょう。
【ヨンデミーレベル36】
絵本や幼年童話でも人気の「猫」が登場する、動物好きな子どもが入りやすい作品です。独特の世界観と子どもが共感しやすいストーリーが魅力で、子どもが初めて読むファンタジー小説としてもおすすめです。一つひとつのお話がそれほど長くないので、読書の集中力が途切れやすいタイプにも向いています。学校での読書時間や、移動時間などにも読みやすい一冊です。
【ヨンデミーレベル38】
かわいいもの好きな子どもに人気の作家・あんびるやすこさんの代表的シリーズ。「洋服」「リフォーム」を題材にした、ファッション好きの子どもが入り込みやすい作品です。この作品をきっかけに、さらに「魔女」「魔法」の世界にハマる子どももいます。シリーズを続けて楽しむこともできますし、あんびるさんの別シリーズへ展開する楽しみも。作品の世界にひたる楽しさを味わえる一冊です。
【ヨンデミーレベル39】
「本屋」を舞台にした、本好きの子どもにはたまらない作品です。本の話題がたくさん出てくるので、ワクワクしながら読み進められます。母をひとりじめする妹への嫉妬という日常の世界から、絶滅したはずの鳥・ドードー鳥、ファンタジー作品ではおなじみの妖精や妖精使いが登場する、豊かな非日常の世界が広がっていきます。
【ヨンデミーレベル39】
映画から興味を持つ子どもも多い『魔女の宅急便』。250ページを超える作品ですが、あらすじを知っていることが助けになり、読み進めやすいところが大きな魅力。「こんなに分厚い本が読めた!」という達成感につながります。保護者の方も内容を知っているので、「あの場面、感動したよね!」などと親子で感想を言い合って盛り上がれるのもいいですね。読むだけでなく、本の話をすることも豊かな『読書体験』になります。
【ヨンデミーレベル42】
アニメ化され、2025年9月には実写版映画が公開予定の『ヒックとドラゴン』。ファンタジー小説でおなじみのドラゴンが登場する、少年の物語です。冒険ものが好きな子どもにはたまらないハラハラドキドキしたストーリー展開はテンポがよく、どんどん引き込まれます。シリーズ全12巻に加えて外伝もあり、一度ハマれば長く楽しめる作品です。
【ヨンデミーレベル44】
今回紹介している10作品の中でも大作のひとつ。文字サイズがやや小さく、はじめてのファンタジー小説としてはややハードルが高いものの、「ファンタジーものが好き!」という子どもにとってはもう一歩深くファンタジーにハマるきっかけになるはず。あの大作を読んだという大きな自信につながる一冊です。
【ヨンデミーレベル46】
ファンタジーと冒険は相性がよく、高い読書レベルのファンタジー小説には冒険ものがよくあります。『デルトラ・クエスト』もそんな作品のひとつ。ちょっぴり不気味でダークな雰囲気がありつつ、7つの宝石を取り戻して国を救うというワクワクしたストーリー展開とキラキラした表紙が子どもの心を惹きつけます。中世を思わせる言葉遣いなど、ふだんはなかなかふれない新しい世界を知るきっかけにもなります。
【ヨンデミーレベル59】
今回ご紹介した10作品のなかでアクション場面がとくに豊富な作品です。アニメ化や実写ドラマ化されてご存じの方もいるかもしれません。主役である腕ききの女用心棒・バルサを中心にした戦闘シーンや、登場人物の心理描写が非常に丁寧で、大人も楽しめます。この本が読めれば、大人向けの小説にも尻込みせず挑戦できるはず。一般小説への橋渡しになる作品です。
■ ファンタジー小説と読書感想文の相性は?
楽しんで読める作品が見つかると、「読書感想文の題材にならないかな……?」との思いが頭をよぎるかもしれません。ファンタジー小説は、読書感想文の題材として適しているのでしょうか?
笹沼さんは、「ファンタジー小説は読書感想文の題材にもなる」と話します。
「読書感想文は、教育的メッセージがある本のほうが題材になりやすいとよくいわれますが、子どもにとっては、メッセージ性があるけどハマらなかった本より、楽しく没頭した本のほうが取り組みやすいはず。映画を見終わった後、カフェで感想を話して盛り上がるのは楽しいですよね。同じような気持ちで、作品のおもしろさを書いてみるといいと思います」
笹沼さんのお話を参考に、子どもがハマるファンタジー小説を親子でぜひ見つけてみてください。
取材・文 三東社
【プロフィール】
笹沼颯太
株式会社Yondemy代表取締役。筑波大学附属駒場中・高等学校、東京大学経済学部経営学科卒業。筑駒時代からの友人とともに、東大3年次に株式会社Yondemyを設立。「日本中の子どもたちへ、豊かな読書体験を届ける」をミッションに、オンラインの読書教育サービス「ヨンデミーオンライン」を提供中。
