【インタビュー】建築家の隈研吾さんに子どもの「なぜ?」「なんで?」を質問!『けんちくってたのしい!たてものとそざいのぼうけん』作者・たつみなつこさんの制作秘話も

物語の舞台は、高知県にある「雲の上の図書館」。
そこには、大好きな図書館の工作を作ったけど「友だちが ぼくの工作 へんだって言って…」と元気のないいつきと、小さい頃から石ころが大好きで、石ころを宝物にしているひかりがいます。
2人が話していると、どこからか猫がやってきて、その後ろから建築家の隈研吾さんが現れました。
猫の“みみ”や隈さんと一緒に、隈さんの建物をめぐるいつきとひかり。2人はそこでどんなことを学ぶのでしょうか。
本作の監修をした隈さんが、本作をいち早く読んだ子どもたちから生まれた質問などに答えてくれました!
■建築の最初のアイデアは、積み木や粘土細工と同じです
——ストーリー絵本の監修は初めてだそうですが、お話があったときにどう思われましたか?
隈研吾さん(以下、隈):子どもたちにも僕の建築の魅力を伝えたいとずっと思っていたので、オファーがあってとても嬉しかったです。
僕自身もたくさんの発見がありました。僕ら建築家は、建築っていうと建物全体を見るけど、普通の人は木組みや石の壁など、細部にリアリティを感じていることがわかって、とても面白かったです。
——この中に登場する建物には、紙・布・竹など工作でも使われるような素材が使われています。その建物に使う素材をどのように考えていますか?
隈:僕の建築では、まず最初に素材を決めます。よくあるのは、まず平面図から入って、それから形が決まって、その後にどんな素材を貼り付けようかと考える方法なので、順番がまったく逆ですね。
どういう素材でその建物ができているのかなっていうのを想像して、なんとなく想像が固まったら、そこから形や平面図を考えます。一つの素材に入り込んで、とことん付き合っていこうとしているんです。
——それで、木を組み合わせたような建築や、石を積み上げたような建物ができあがるのですね。
隈:一つの素材で一つの塊を作ろうとしているから。子どもが作る積み木や粘土細工と同じです。だけど実際には、地震に耐えるとか、雨風に耐えるとか、いろいろなことを考えないといけない。裏にはものすごい努力があるけど、表向きは木や石だけでできているように見せているわけです。

——そんな建築を見て、子どもたちはいろいろな質問が生まれたようでした。たとえば、「紙だけで作った家はビショビショにならないの?」と。
隈:紙という素材で作った空間に感情移入していて、想像力が豊かな子ですね。この本に登場する「陽の楽屋(新潟/ひかりのらくや)」には、障子が使われています。
日本では、明治時代に大陸からガラスが入ってくるまで、窓は紙だけで作られていたんです。この家を設計しているとき、そのことに気づいて、日本人ってなんてすごい人たちなんだろうと思いました。
障子に使った和紙には柿渋とこんにゃくを塗って、雨を弾くようにしました。その話も、和紙の職人さんから初めて聞いたときにびっくりしました。
——「土でできた建物はどうやってつなげているの?」と気になった子もいるようです。
隈:自分が建物の土をいじって家を作るつもりになっている、すごく頼もしい子どもですね。たしかに、土ってドロドロしているし、乾くとパサパサになってしまって、それが固まるなんてあり得ないと思いますよね。
本の中に出てくる「UCCA陶美術館(中国)」や「グルベンキアン美術館(ポルトガル)」は、土を瀬戸物と同じように焼き、それを組み合わせて作りました。
この本には載っていませんが、山口県の安養寺にある建物には、水を混ぜてドロドロにして型に入れ、太陽の下に置いておくと、それだけで固まる特別な土を使いました。昔は車のエンジンなどの鉄を磨くときに使われていたぐらい、特別に固まりやすい土なんですね。
——驚くような建築がたくさんあって、実際に見てみたいという子もたくさんいました。現地を訪れたら、隈さんの建築をどんなふうに楽しんでほしいですか?
隈:絵本で見るのと実物を見るのとでは、全然違う体験になると思います。人間って意外と、その場にいかないと気づかないことがいろいろあるんです。
たとえば、「木のいい匂いがする」とか「石ころをにぎっているみたい」とか。身の回りにある建物とどんなところが違うのか、子どもたちならきっと感じ取ってくれるんじゃないかと思います。
——隈さんご自身も、この絵本を通じてインスピレーションを受けることはありましたか?
隈:僕がはじめて建築に出会った時、建築そのものが驚きの集合体のようなものでした。でも、大人になるとだんだん驚きや発見が少なくなってしまう。この絵本を読んで、もう一回、子どもの頃に戻り、建築そのものの驚きが見えたような気がして、それは貴重な体験でした。

<監修プロフィール>
くまけんご
1954年生まれ。神奈川県横浜市出身。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。東京大学特別教授・名誉教授。自身が手がけた建築に、国立競技場(2019年)、角川武蔵野ミュージアム(2020年)、高輪ゲートウェイ駅(2021年)、大阪・関西万博EARTH MART(2025年)など。現在も50を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案している。
絵と文を手がけたのは、本作が記念すべき絵本第一弾となったイラストレーターのたつみなつこさん。
現地まで訪れて描いた建築もたくさんあるそうで、絵本をまた読みたくなるような制作秘話がいっぱいです!

■木には生き物と一緒にいるようなふしぎな魅力がある
——隈さんの建築を、写真ではなく絵で見られる貴重な絵本です。木や石といった素材を一つのテーマにしたのはどうしてですか?
たつみなつこさん(以下、たつみ):隈さんの建築や展示会を自分でも見に行ったのですが、展示会の一つに、マテリアル(素材)をテーマにしたものがあったんです。隈さんの建築の本質の一つは素材なんじゃないかという発見があり、素材を絵本のテーマにしました。
——猫のみみちゃんは、隈さんが昔飼っていた猫の名前だそうですね。
たつみ:子どもたちと隈さんが出会うきっかけがほしくて、猫を登場させました。隈さんご自身も子どもの頃、動物が好きで、その中でも猫が好きだったそうです。取材で「木は猫のようだ」と仰っていたこともあり、猫を意識しました。
隈さんは建築でよく木を使っていますが、木があるとなぜか癒されるときがありますよね。猫のような温かさもあり、木には、生き物と一緒にいるようなふしぎな魅力があると思っています。

——猫のみみちゃんは、隈さんが昔飼っていた猫の名前だそうですね。
たつみ:最初は普通の猫だったんです。本のなかでたくさんの建築物を紹介することになったときに、編集部からの提案で、みみちゃんに時空を超えるふしぎな力を持たせるのはどうかという話になって。神秘的な猫に見せたくて、オッドアイのように両目を違う色にしました。
——建物の細部まで描かれていてリアリティがあります。描いていてワクワクした建物や、ちょっと大変だった建物もあるのでしょうか。
たつみ:ワクワクしたのはスコットランドにあるV&A Dundeeです。現地まで見に行ったのですが、Dundeeという街の何もないような場所に、この建物があるだけで、その街自体に文化的な香りがするような気がして、その時の感動を思い出しながら描きました。
大変だったのは、那須・芦野にある「石の美術館」です。壁面の石の積み方が緻密なパターンになっていて、工芸品のようにきれいだったので、きちんと段数を合わせて描きました。設計通りに石を重ねた職人さんもすごいと思いました。

——いつきくんとひかりちゃんが工作をする最後の場面では、読んだ子どもたちも何かを作りたくなりそうですね。
たつみ:その前に描かれたページのアンサーとして、元気を取り戻したいつきと、石が大好きなひかりが、思い思いに作品作りをしています。この本を読んだ子も、自由な発想でたくさんのものづくりを楽しんでもらえたら。
じつは、私が実際に作った工作や、子どもと一緒に作った工作も入っています。隈さんの現在進行中のプロジェクトをモチーフにした工作も3つ入っているので、ぜひ探してみてください。

<作家プロフィール>
たつみなつこ
東京都生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。イラストレーターとして、書籍の装丁や商品パッケージ、雑誌のイラストなどを手がける。代表的なものに『角川の集める図鑑GET!宇宙』(KADOKAWA)のイラスト、文明堂のカステラのパッケージなど。BUBBLE GUMシリーズなどのオリジナルグッズも制作し、自身の公式サイトや美術館、雑貨店で販売している。絵本の制作は今回が初めて。プライベートでは男児2人の母。
取材・文=吉田あき
撮影=後藤利恵
書籍情報
- 【定価】
- 1,980円(本体1,800円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- A4判
- 【ISBN】
- 9784041158821