元気に学校に通っていると思っていた我が子が、ある朝突然「学校に行きたくない」と言い出す……。実は、今や不登校はそんなに珍しいことではなくなっています。学校へ行けなくなる、いわゆる「不登校」の児童の数は年々増加の一途をたどり、2021年の調査では全国の小中学校で不登校児童数が24万人を越え、過去最多となりました。いつでも、どこの家庭でも起こりうる「行きたくない」に、親はどんな対応をしたらいいのでしょうか? 岡山県立大学で教育心理学を専門にしている樟本千里(くすもと ちさと)先生に、主に小学生の不登校についてお話をうかがいました。
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※もくじ※
◆「行きたくない」と言われたとき、どうする?
・どう声をかけたらいい?
◆学校との関係
・学校にはなんて話せばいい?
・休んでいる間の友人づきあいは?
◆年齢別の対応
・小学校低学年
・小学校中学年
・小学校高学年
◆子どものサインと生活
・不登校になる前にはどんなサインがある?
「行きたくない」の理由は簡単にはわからない
ここ数年の不登校の増加について、文部科学省は、「新型コロナウイルスの感染もあいまって、子どもの生活リズムが乱れやすく交友関係を築くのが困難になり、登校意欲がわきにくい状況になった」といった分析をしています。
子どもが学校に行きたくない理由は実にさまざまです。環境の変化や友人関係、勉強が難しいなど、子どもは「行きたくない」理由をそれぞれ抱えていますが、それをうまく言語化できない場合も多々あります。うまく言えないだけでなく、もしかすると保護者には言いたくない、という気持ちや事情もあるかもしれません。
もちろん親として、「えっ、行きたくない? どうしよう、困ったな」という思いになるのは当然です。でもここで「なぜ? なぜ?」と問い詰める前に一呼吸おいてください。
この段階で一番大切なことは、「行きたくない」気持ちを親に伝えてくれた、という事実です。気持ちを伝えられずに苦しみながら学校に通っているよりも、「行きたくない」という意思を表明してくれたことは、一つの安心材料だと思います。
言わないより言ってくれるほうがはるかに状況は良いです。もし、「学校には行きたくないけど、家にはいたい」のだとしたら、子どもが家にはちゃんと自分の居場所があると感じているということです。一番辛いのは、子どもが学校にも家にも、どこにも居場所がないと感じていることですよね。
行きたくない理由は、徐々にわかってくるかもしれませんし、子どもが話してくれるかもしれない。でも「行きたくない」と言われたときに、親がひどく動揺したり、行くように強く言ったりすることで、せっかく打ち明けた「行きたくない」が、子どもにとって無意味なこととなってしまうのは避けたいものです。
どう声をかけたらいい?
まず親が深刻になりすぎずに受け止めていくのが第一歩です。単に「たまたま今日はいやな授業があって行きたくない」「体調が悪い」「気分がのらない」という「行きたくない」もありますから、子どもの様子を見ながら「嫌なことあった?」とか「具合でも悪いの?」と聞いてあげてください。そこで言いたくなさそうなときに無理に理由を探ってもあまりいいことはないでしょう。
もしそこから嫌な理由を話すことができたなら、その事情に対して「あなたはどう思ってるの?」と気持ちを具体的に聞いてあげると子どもが答えやすいかと思います。おそらくネガティブな出来事のはずですし、うまく整理して物事を話すのは小学生だと難しい場合があります。できるだけ先走らずに、整理がついていない話でも聞いてあげてください。ちょっとしたヒントだけだとしても、口を閉ざしていることのほうが多いでしょうから、話してくれる分だけラッキーくらいの気持ちで聞いてみましょう。
まったく話してくれないなら、理由についてはとりあえずあとまわしで、「行きたくないんだね。いいよ。」と受け止めてあげてください。どんな場合であれ、気持ちを受け止めたよ、というメッセージを親が出してあげることが必要です。
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学校にはなんて話せばいい?
学校の担任には、「ちょっと行きたくないということを言っているのでとりあえず様子を見ます」という一言を早めに伝えたほうがいいでしょう。教師も子どもが休んでいたら心配でしょうし、休んだのが体調だけが理由ではないということを学校側と情報共有しておいたほうが、学校での様子や友達関係などを担任から教えてもらうきっかけになるかもしれません。子どもによっては行けたり行けなかったりを繰り返すので、行けたときに先生に意識して気にかけてもらう必要もあります。
もしも子どもが行けない理由が担任にあったり、担任に知られたくないなどがある場合には、担任以外の教師やスクールカウンセラーに話を通すという方法もあります。いずれにせよ、親のみで抱え込むより、学校と情報を共有することで、子どもが学校に戻りやすい環境を整える方向を探ってみてはいかがでしょうか。
休んでいる間の友人づきあいは?
学校に行けない間も、友達が原因そのものである場合を除き、できるだけ友達との関係は断ち切らないほうがいいと思います。友達が原因である場合でも、全員と会いたくないわけではないかもしれません。学校に行けなくても、好きな友達とは一緒にいたいし、遊びたいというのもよくあることです。
親からしてみたら、「学校に行けないのにふらふらと遊びに行くなんて」「外で○○ちゃんと遊ぶんだったら、○○ちゃんも学校にいるんだから行けばいいのに」と言いたくなりますよね。でも、本人は学校に好きな友達がいても行けないわけですから、そこはやっぱり認めてあげていいのではないでしょうか。
児童期の友達関係はとくに大事です。ある程度は認めてあげて、その関係性は継続する、繋がりを切らないで保障してあげる方が、子どもの気持ちもラクなはずです。
担任にも、学校外では友達と遊べていることやその交友関係や、家ではこういう姿を見せていますということを伝えておけば、本人とのつながりを維持できるよう配慮してくれたり、教師の専門性から責任をもって関わってくれたりするはずです。
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小学校低学年
お子さんが幼稚園や保育園に通っていたご家庭は多いでしょう。思い出してほしいのですが、そのとき登園渋りというのを経験されているのではないでしょうか。
低学年の不登校というのは、お子さんがおうちとは環境の異なる幼稚園や保育園には「行きたくない」と泣くのに近い場合があります。要するに「慣れていない」わけです。小学校というまったく新しくなった環境に馴染めない、適応できないというケースが多いのです。
今まで遊び中心で活動していたもの、比較的自由に学びが保証されていたものが、一定の時間座っていなければいけなくて、ある種フォーマルな学習スタイルが始まるわけです。あるいは、園生活では一番上のお兄さんお姉さんとして、しっかりしなきゃと自覚していたのに、小学校入学と同時に一番下の学年にされてしまう、そういった変化についていけないということですね。
この場合は、とにかくこの状況に少しずつ慣れていくしかないでしょう。行きたくない、の思いを汲んであげつつも、学校に行かなければ慣れていくこともできませんから、少し強く背中を押してあげる感覚でいいかもしれません。小学生とはいえ、低学年はまだまだ幼くてあらゆることに親の手を必要としています。抱っこや膝に座らせて話をゆっくり聞いてあげること、身体接触で気持ちを落ち着かせてあげることなど、「小学生になったのに」と言わずに、大いにしてあげてください。
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小学校中学年
中学年になると、ご近所や保育園・幼稚園の流れのままの友達関係もありつつ、新たな友達関係ができてきます。また、自分についての認識が高まってくると、友達とのかかわりや集団経験などの中で、幼児のときに持っていた「なんでもできる」という万能感に変化が出てきます。
「自分には苦手な分野がある」ことに気がついてみたり、「ずっと○○ちゃんと一緒にいたけれども、私この子意外と苦手だった」といったことに気づいたり、子どもの成長発達とともにさまざまな自覚が現れてくることがあります。
他者から見られている自分というものにも意識が向き始める時期なので、他者からの評価にも敏感になりがちです。
学校に行きたくない理由も、低学年のときのような「慣れないから居心地が悪い」という単純なものだけでなくなるわけですから、「がんばって行っておいで」と言うだけでは子どもの心は動かなくなっているかもしれません。まず、辛い気持ちを受け止めてあげる、という対応はどの学年でも必要です。
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小学校高学年
高学年では、中学年での問題がより複雑化してくることがあります。個人差がありますが、その子の中でどういう変化が起きてくるかに注目してください。自分と友達の距離や違いに比較的強い子もいれば、センシティブで大きなストレスを受ける子もいます。
勉強にしても、人間関係にしても、他者との比較を自覚できるようになるというのが苦しいところです。年齢が低いと他者比較は難しいのですが、それが明確に自覚されるようになっていくと、人間関係の面でも「このグループの中で、自分はどういう役割を担ってるんだろうか」ということが気になって、しんどくなってくる子どもがいます。
学業面も、勉強ができないこと自体ではなく、勉強ができない自分を自覚することで辛くなってしまう傾向があります。単に先生の話していることが分からずに、授業中が暇という部分が辛いのではなく、友達との関係性の中での勉強というものに疲れてしまうんですね。
また、学校や塾、習い事、友達との遊び、と高学年は毎日の忙しさも大人並みの子どもがいます。学校に行きたくないというときに、生活全般を見直してもいいのではないでしょうか。現代では子どもの心と体の「疲れ」も大きな問題のひとつです。
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不登校になる前にはどんなサインがある?
一般的には朝起きられないというところから始まることが多いです。また、朝ごはんにすごく時間をかけるなど、本来ならば、もう家を出ないと間に合わないよっていう時間を、食べられない、またはゆっくり食べるというような形で出てくることも多いです。
前日に持っていくものを用意していない、忘れ物が多い、そんな些細なことも学校に行きたくないサインのことがあります。
保護者からしてみたら十分に目をかけていると思っていても、朝晩のちょっとした行動の変化は見逃してしまいがちです。子どもを信頼していると言えば綺麗な言葉ですが、信頼はしていても、毎日の行動に意識を向けておくことは必要ですね。
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生活リズムの大切さ
高学年の子どものところで、「生活が忙しすぎる」ということをお伝えしました。これは子どもだけでなく大人にとっても大事なポイントで、小学生全体に言えることだと思います。
不登校に多い最初の兆候、それは朝に起きられないということです。今はとくに子どもの生活の時間帯が後ろ寄りになっています。共働きのご家庭も多いのでどうしても夕食の時間、寝る時間というのが、後ろにずれているお子さんが多くなっています。
それにより単純に朝起きられないとか、それで行くのがもうめんどくさいといったことも不登校のきっかけになる場合があります。難しいのを重々承知で言うのですが、決まった時間に、決まった生活をするというのは、子どもにとってかなり大事なことです。
親の都合に合わせると、昨日の夕ご飯は夜6時だけど今日のご飯は夜8時というようになることがあると思いますが、子どもの年齢が小さければ小さいほど、自分で生活のリズムを整えるのが難しい。そのため、子どもが小さいうちは特に親が意識して一定の規則正しいリズムをつくること、それが生活の質を高めることにつながります。
たとえちょっとぐらい生活リズムが後ろになったとしても、できるだけ同じ時間で動くという気持ちで生活していけば、子どもは子どもなりにその生活様式に慣れてくれます。それが日によって明らかに乱れて、その乱れを正さないままだと、これは大人でも健康を損ねてしまうので、子どもに影響があるのは当然です。どうしてもリズムを同じにするのが難しい場合、夕食だけでも一定の時間を崩さないようにしてみてはいかがでしょうか。
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不登校を恐れる前に
学校がすべてではない、と親がとらえる
法律や社会のニーズが変わっていったこともあり、学校の教師が不登校をとらえる感覚や、不登校に関する知識や学びはこの数十年でだいぶアップデートされました。それに伴って、社会の理解や、不登校の子どもを受け入れるフリースクールの数や内容も変化していきつつあります。
学校に行けないとすべてがダメになるわけではありません。子どもの個性や成長を受け入れながら、必要以上に「こうでなければならない」という思い込みを持たずに、必要な支援を過不足なく行っていくことこそが、子どもが自分の人生を楽しんで生きていくための大事なポイントではないでしょうか。
監修者プロフィール
樟本千里
岡山県立大学保健福祉学部子ども学科講師。
担当科目:教育心理学、発達心理学、幼児理解の理論と方法、教育実習
資格:幼稚園教諭専修免許、小学校教諭専修免許