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宇宙研究の原点は「探検家ごっこ」だった!? 子どもの頃の話を聞かせて!第2回「天文学者・小久保英一郎」


作家やイラストレーター、専門家はどんな子ども時代を過ごしていたの? 本にまつわる様々な人の子ども時代に迫る「子どもの頃の話を聞かせて!」第2回では、11月15日発売の学習図鑑『GET!宇宙』で総監修をつとめた天文学者の小久保英一郎先生にインタビューしました!

【プロフィール】
小久保英一郎(国立天文台科学研究部教授)
宮城県仙台市出身の理論天文学者。コンピュータによるシミュレーションを用いて、地球や月の起源、土星の環の構造などの研究をしている。

 



探検家になりたかった子ども時代



―子どものころから天文学者を目指していたのですか?

じつは、子どものころは古代遺跡や未知の生物を探すような探検家になりたかったんです。家から歩いて5分くらいのところに、山田上ノ台遺跡という有名な遺跡があって、発掘が行われていました。そこに遊びに行くと、発掘したあとの土が山になっていました。プロが見逃したのか、価値がないからそのままにしていたのか、その中に、土器のかけらとか、矢じりなんかがいっぱい埋まっているんです。そういうものを見つけては、すごく感動していました。
朝学校に行く前、学校から帰ってきた後、発掘あとの山や周りの畑で、飽きもせずにずーっと拾い歩いていましたね。妹たちをかり出して手分けして探すこともありました。今でもきれいなものは2、30個ほど大事にコレクションしてとってあります。


宮城県仙台市にある山田上ノ台遺跡。縄文時代の住居の様子が再現されている。



―よく外で遊ぶお子さんだったのですか?

はい、家の中ではあまり遊んでいなかったですね。遺跡以外にも、虫とりをしたり魚とりをしたり、そういう外遊びが原体験としてあります。とにかく生き物が大好きで、体を張って探検する人になりたかったんです。高校で山岳部に入ったり、大学時代はスクーバダイビングに熱中したり、どれも探検家への憧れからきています(笑)。
本格的に宇宙に興味を持ったのは、中学生のとき、テレビでボイジャー2号の活躍や宇宙の誕生から人類の進化までの歴史を紹介する番組を見てからですね。



「勉強しなさい」と言わなかった両親

―ご両親からはどんな教育を受けましたか?

親からは「勉強しなさい」と言われたことはなかったです。その代わりよく言われていたのは、「好きなことをしなさい」ということでした。ただ、たんなる放任かというとそうではなくて、うまいタイミングでなんとなく誘導されていたんだと思います。
歯医者に行くのを嫌がる僕に、母はよく「終わったら本屋に連れて行ってあげるから」と言って図鑑や学習漫画を買ってくれましたし、父は小学校高学年ぐらいのときに「コンピュータはこれからおもしろくなるぞ」と教えてくれました。
それでコンピュータに興味をもって、電気屋さんの店頭に飾ってあるコンピュータを使わせてもらって、ゲームのプログラムを書いては、カセットに保存して帰って、またお店に行って続きを書くみたいな遊びにもハマりました。

―学校の勉強も得意だったのですか?



小中学校の時はそうだったかもしれません。高校に入ると少し変わってしまって。そもそもなぜこれをするのか、ということが腑(ふ)に落ちないとやる気が出ない性格なので、学校の勉強にはたいして興味を持てないこともあって、赤点をとったりしていました。学部学科を決めずに進学できる大学があるらしいということを聞きつけて、進路相談で「東大を受けます」と言ったら、冗談だと思われたんです。それでも東大を受けたんですが、当然落ちてですね(笑)。
それから1年間予備校で一生懸命勉強したのですが、勉強のおもしろさ、奥深さに目覚めました。自分の気持ちの準備ができていたからだ思います。いざ本気でやってみるとおもしろくて毎日授業が楽しみでした。英語、古典、世界史とか理系じゃない科目も楽しかった。


―小久保先生は好奇心を持つとなんでも熱中してしまうタイプなのでしょうか?

オタク気質なんですよね 。今も、子どもと一緒に虫とりに行くんですけど、どんな虫がどこで取れたか記録するのが楽しくなってしまって、子どもが眠ってからわざわざもう一回とりに行ったり、それから激辛料理好きが高じて 、唐辛子の栽培を始めたりもしました。ダイビングの道具選びとか、自分の歯が痛くなったときの歯医者選びなども、吟味していました。いつまでも調べたり、くらべたりしているので、妻からは「はやく歯医者に行けば」と言われてしまいました(笑)。





子育てに必要な4つのこと

―子育てには、どんなことが必要だと思われますか?

まずは体力をつけることが一番大事だと思っています。頭を使うのってすごく疲れるので、勉強したいことが見つかったときに、体力がないと勉強ができないんですよね。小さいうちは野山を走り回ったりして体を鍛えるのがいいのではないでしょうか。
それからもう少し実利的なところでは、
英語とプログラミングはできると圧倒的に有利だと思います。この2つはとても便利な道具なので、苦手に思わないように親しんでおくことで、将来いろんなことが楽にできるようになります。
それから最後にもう一つ、これは高校生たちに会うときによく言っていることなのですが、
「自分はこれだ」とはやくから道を決めすぎないほうがいい、と思っています。僕は大学に入ってからも別に「天文学者になろう」と決めていたわけではなくて、この道に進むきっかけになったのは、学科を選ぶときに、たまたま「コンピュータもできる、天文学もできる」という研究室に出合って、「これだ」と思ったことでした。やがて生き物好きもつながってきて、宇宙で生き物に関わるところといえば、やはり「惑星がどうやってできたか」というテーマだろうと思い、今の研究に続いていたりして、何が活きるかわからない。


太陽系以外の惑星、「系外惑星」には、生命の存在が期待されている惑星がある。
左は、代表的な地球型の系外惑星「ケプラー1649c」の想像図。(画像:NASA/Ames Research Center/Daniel Rutter)



ですから、若い人は、まだ世界が小さいうちに、無理に目標をしぼらなくていい。「何者でもない」状態は、「何にでもなれる」可能性の塊なので、世界を旅するなり、本をいっぱい読むなり、そのすばらしい時期を楽しめばいいと思うんです。
僕は今、子どもを海や山に連れて行って「僕はこんなことが好きだよ」と見せている感じですが、彼も昔の僕と同じく宇宙よりも先に生き物に興味をもっているみたいです。

小さいうちは、虫や魚や宇宙のような、きれいでおもしろいものを見せてあげれば、きらいな子はいないはず。それから自身の興味にまかせて、将来は思いっきり好きなことをしてもらいたいですね。





『GET!宇宙』は「宇宙地図」がスゴい!

―今回総監修を担当された『GET!宇宙』は、どんな図鑑ですか?



目指したのは、宇宙を旅行するためのガイドブックのような図鑑です。巻頭についている「これが宇宙地図だ!」という観音開きのページは、地球からはじまって、月、太陽系、銀河系、銀河宇宙、宇宙の果てと、どんどん遠ざかりながら、距離ごとにいろいろな天体を紹介するようになっています。図鑑本編もページをめくるごとに遠くへ旅する構成になっていて、「宇宙地図」のなかにはそれぞれの天体が図鑑のどこでくわしく紹介されているかも書いています。これが宇宙全体のガイドであると同時に、図鑑全体のもくじにもなっているんです。



頭から読み進めてもいいですし、気になったところに“自由に飛んで”いってもいい。いろいろな楽しみ方ができると思います。
物事を理解するには、俯瞰(ふかん)することが大事ですから、宇宙の全体像を俯瞰して見渡せるようなものを目指して作りました。最新の研究成果がふんだんに入っているので驚きながら楽しんでもらえると思います。
特に近年研究が進んでいる
「宇宙と生命」のかかわりについてもかなり取り上げているので、見どころです。




取材:小林智明



▼書籍情報▼


総監修:小久保 英一郎 監修:野口 聡一

定価
2,420円(本体2,200円+税)
発売日
サイズ
A4変形判
ISBN
9784041130933

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