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癇癪(かんしゃく)とは?原因は?どう接する?対処法を専門家が解説


子どもが癇癪(かんしゃく)を起こして手がつけられずに困った……という経験のあるパパママは多いのではないでしょうか。

子どもはなぜ癇癪を起こすのか? その原因を探っていくことで、子どもが癇癪を起こした時の親の行動や子どもへの接し方がわかるはず。そこで、発達心理学・発達臨床心理学・学校心理学を専門としている法政大学・渡辺弥生教授に、癇癪について聞きました。


もくじ

そもそも癇癪って何?


子どもと癇癪の関わりとはどういうもの?

癇癪を起こした子どもへの対処法

癇癪が収まるように発達を支援する方法とは?おすすめ行動3事例

癇癪は成長の過程!子どもと一緒に親も成長することが大事

 

そもそも癇癪って何?

「癇癪」とは、制御できない興奮が行動に表れること

「癇癪」というと、ひっくり返って手足をバタバタさせながら泣き叫ぶイメージがあります。どんな状態が癇癪と考えられるのでしょうか?

渡辺教授:

「感情が乱れ、自分で制御できずに行動に表れることを『癇癪』と言います。声を上げて泣き叫ぶ、手足をバタバタさせて暴れるということから、物をかじったり投げたり、人をたたいたり蹴ったりするような八つ当たりのような行動、壁や床に頭を打ち付けるといった自傷的な行動も含めて考えることもあります」

自分の欲求が満たされない状態を行動で表すのが癇癪

どうして子どもは自分の感情をコントロールできない状態になり、癇癪を起こしてしまうのでしょうか? また、癇癪を起こすことは、子どもにとってどのような意味があるのでしょうか

渡辺教授:

「子どもの年齢によって癇癪の原因はさまざまありますが、どの年代でも共通するのは自分の欲求が満たされないこと、そしてその憤りや悲しみの表現方法を知らないから起きるということです。子どもにとって癇癪を起こすことは、その状況に陥っていることのアピールになります」

イヤイヤ期は時期を指し、癇癪は行動や状態を指す

自分の欲求がかなわず癇癪を起こすというのは、いわゆる2歳前後の「イヤイヤ期」によく見られる光景だと思います。イヤイヤ期と癇癪はイコールなのでしょうか?

渡辺教授:
「まず、イヤイヤ期は学術的には『第一次反抗期』『自己の芽生え』といった表現をしますが、これは発達的に特徴のある時期を指します。対して、癇癪は行動や状態を指す言葉です。このイヤイヤ期に入ると癇癪を起こすことがよく見られます。

2歳未満の赤ちゃんは、お腹が空いた、オムツが気持ち悪い、疲れたなどの生理的な欲求を周りに伝えるために大泣きします。その後、イヤイヤ期に入ると自分のやりたいことや意志が芽生え、それが受け入れてもらえない状況や戸惑いに対して癇癪を起こすと考えられます」

例えば、0歳の赤ちゃんが泣くのも癇癪にあたるのでしょうか?

渡辺教授:
「赤ちゃんは、ミルクを飲まなければ命に関わるわけですが、0歳児は泣くことでしかその欲求を伝えることができません。なので、これはコミュニケーションの一つであり、いわゆるイヤイヤ期の癇癪とは別のものと考えます」

子どもと癇癪の関わりとはどういうもの?

癇癪を起こしやすい子どもの特徴や傾向は表せない

癇癪を起こしやすい子どもの傾向はあるのでしょうか?

渡辺教授:
「『こういう性格の子が癇癪を起こしやすい』という言い方はできません。癇癪に相当する行動を起こすことは誰もが通る道ですが、それを癇癪と受け止めるかは大人側の主観が非常に関わってきます。例えば、子どもが激しく泣いた時に『なんでこの子は……』と思う親もいれば、『子どもなんてこんなもの』と思う親もいます。子どもの行動は客観的な数値として表されるものではなく、また、乳幼児期は性格が形成される以前の時期なので、癇癪を起こしやすい子どもの特徴や傾向を示すことは難しいです。

なかには、泣き叫ぶ、暴れるといった通常の癇癪から少し外れた行動を起こす子どももいます。その場合は、先に話した『自分の欲求を発散させるため』とは別の原因が隠れている可能性があります。これは危険だと感じることがあれば、専門家に相談してみてください」

癇癪はいつから起きて、いつまで続くのか?注視すべき4つのポイント

癇癪とは欲求が満たされない状態を行動で表すこと、「自我の芽生え」が起きるイヤイヤ期の2歳前後から癇癪は始まるといったことがわかりました。では、癇癪が収まる時期はだいたいいつごろなのでしょうか?

①言葉の獲得
渡辺教授:
「癇癪を起こすようになるのも、収まっていくのも、子どもたちそれぞれの発達の状況と周囲の環境の関係性に関わるので、学術的には何歳から何歳までと言うことは難しいです。しかし、平均的に見れば、癇癪を起こしやすい期間は早くて1歳半ごろから5歳くらいの幼児期後期まで続くと言えます。

癇癪を起こさないようになるには複数の要因があるのですが、まずは自己や他者を理解していく上で『言葉の獲得』があげられます。ボキャブラリーが増えれば、自分がなぜ怒っているのかを言葉で主張できるようになり、泣き叫ばなくてもよくなっていきます。また他人の気持ちも理解が進み、トラブルになっても解決の仕方が理解できるようになります」

②時間的展望能力の発達
渡辺教授:
「次に時間的な展望や過去と未来について考えられる『時間的展望能力の発達』があります。小さい時ほど先の見通しが立たず、昨日も明日もない状態なんですね。

大人もそうですが、例えばある仕事の締め切りに余裕があれば『それだけ時間があればなんとかなるだろう』という見通しが立ち、不安になることはありません。しかし、締め切りまで時間がなければ『間に合うの?』と不安になってしまいますよね。

子どもも段々、今日といっても時間の流れがあることや、昨日、今日、明日といった時間の感覚が身に付くことで、『ちょっと待って』『明日にしよう』という話が通じてくるようになるわけです」

③セルフコントロール力の向上
渡辺教授:
「そして次にあげられるのは、『セルフコントロール力の向上』です。自分で自分をコントロールする力というのは幼児期から非常に発達します。

例えば、子どもの目の前にケーキを置いた時、2歳だと『食べちゃダメ』と言われても食べてしまいますが、3、4歳になるとちょっと我慢する様子が見られるようになります。5歳くらいになればケーキを見ないようにする『目逸らし作戦』などのスキルを身に付けて我慢できるようになります。それでもパパやママの期待する時間だけ我慢するのは難しいものです。これを『誘惑への抵抗』と呼んでいます。

小学生くらいになると、セルフコントロール力はさらに高まります。例えば、肩たたきをしたらお小遣いがもらえるようにしたとします。そのお小遣いを1日10円にするか、1週間毎日やったら最終日にまとめて100円にするかと選択肢を与えられると、子どもは前者の方が得に思う段階から、後者の方が得だと考えられるようになります。これを心理学用語で『満足の遅延』といい、見通しを立てて衝動をコントロールする力が発達していることを示します。

こうした『誘惑への抵抗』『満足の遅延』をはじめ、子どもは徐々に自分をコントロールする力が備わっていくので、これが成長していくと癇癪も落ち着いていくと考えられます」

④セルフ・エフィカシー(自己効力感)の向上
渡辺教授:
「さらに『セルフ・エフィカシー(自己効力感)の向上』もポイントです。これは、自分があることに対して『できる!』という自信を持つことです。例えば、洋服を着たいと思った時に、2歳の子どもは着たいと思っても自分だけの力でできなくて時おり癇癪を起こしてしまうことがよくあります。ですが、失敗を重ねながらも4歳になったら『自分はできる!』というセルフ・エフィカシーが高まっているので、実際にできるようになっていくわけですね。

大まかに言えば、こうした自己主張ができる、我慢をする・制御する力がそれぞれ独立して身に付き、小学生くらいになるとそれぞれのバランスが取れていくことで、癇癪が収まっていくのです」

癇癪を起こした子どもへの対処法

新生児期〜乳児期(0〜1歳)への対処法

さきほど、赤ちゃんが激しく泣くことは、いわゆる「癇癪」とは違い、コミュニケーションであるというお話がありました。0歳から1歳ごろの赤ちゃんの感情を収めるにはどうしたらいいのでしょうか?

渡辺教授:
「新生児期や0歳の赤ちゃんは快か不快かという生理的な部分で泣いているので、まずは心地よい快の感情を経験させてあげるとともに、不快だと思っている原因を取り除いてあげるのが対処法となります。1歳になると欲求の幅も広がっていきます。何が欲しいのか、何がやりたいのかというのを注意深く観察してください」

幼児期(2〜5歳)への対処法

年齢で区切るのは難しいとのことですが、目安としてそれぞれの年齢に対して、どういった対処法が考えられるか教えて下さい。

渡辺教授:
「2歳くらいになると不快なことに対して『イヤ!』とはっきり主張できるようになるので、何を主張しているのか理解してあげて、『そうだね』と肯定し、『○○をしたかったから怒っているんだね』と気持ちを代弁してあげましょう。こうした『気持ちの言葉』と経験している気持ちのイライラやモヤモヤが対応することで、『自分は怒っているんだ』と心の状況を言葉で表現できるようになれば、やがて、癇癪を起こさずに自分から怒っていることを他人に伝えることができるようになります。

3歳くらいになると簡単なルールがわかってくるので、ルールを守ることで上手くいくんだということを教えてあげて、見通しをつけてあげるのがよいでしょう。そうすれば癇癪を起こすよりも『貸して』『いいよ』といった簡単なやりとりが他者との関係でできるようになり、癇癪が減ります。

4歳くらいになると自分とは異なる周りの人の気持ちも次第にわかるようになります。『友達の○○ちゃんはおもちゃが壊れたから悲しいんだね』と周りの人の気持ちを代弁しつつ、何に不満を持っているのかを見てあげてください」

大人が感情や状態を言葉にして子どもに聞かせてあげる

どの年齢でも、子どもの気持ちや周りの人の気持ちを代弁してあげることが大事なんですね。

渡辺教授:
「そうですね。周りの大人が子どもに言葉を聞かせないと、子どもは自分の気持ちを表す言語を獲得することができません。子どもは生まれてからさまざまな経験をしていきます。『悲しいんだね』と言われて、子どもはこういう情動は悲しいという言葉で伝えられると覚え、『そんなにいじけちゃダメ』と言われたら、自分が部屋の隅っこでぐじぐじしているのをいじけるということなんだと覚えます。このように、経験と言葉がリンクすることで、自分でもその言葉を使って自分の感情を表現できるようになっていくわけです」

子どもが落ち着くのを待つ

癇癪を起こして暴れている子どもに対して、落ち着くのを待つというのは有効なのでしょうか?

渡辺教授:
「それはあります。『情動感染』といって、気持ちや感情は他人へ伝播していきます。大人だって話をしている相手がイライラしていたら、自分もイライラしてきて、途中から入ってきた人もイライラすることがありますよね。なので、癇癪を起こした子どもに対する時は、大人も感情的になってしまうという悪循環を招くのを防ぐために、まずは子どもが落ち着くのを待つというのは有効な手段の一つです。

大人だったら深呼吸したり、水を飲んだりして気分転換することができますが、子どもにはそういったことがまだできません。なので、癇癪を起こした原因とはまったく別の話をしたり、場面を変えて気をそらすといいでしょう」

癇癪が収まるように発達を支援する方法とは?おすすめ行動3事例

癇癪を起こすことは誰もが通る道であり、癇癪を起こさないようになっていくのには、さまざまな能力の獲得が必要であることがわかりました。子どもをそういった方向に導くために、親や周りの大人ができる方法は何なのでしょうか?

子どもに次の行動の見通しを立ててあげる

渡辺教授:
「まずは『見通しを立ててあげる』ということです。例えば、子どもが遊びに夢中になっている時、急に食事やお風呂といわれても、子どもの立場で考えると、楽しんでいたものを突然取り上げられた気持ちになるわけですね。

子どもは急に気持ちを変えられないので、子どもの年齢に合わせて見通しを立ててあげることが大事です。コミュニケーションがとれるようになったら『お母さんがこれをし始めたらやめるんだよ』、時計の針が読めるようになったら『あの時計の針がここにきたらやめようね』などと話してあげてください。

この時、ただ言葉をかけるのではなく、親も一緒に行動することが大切です。例えば、遊んだ後に手を洗って食事をするのであれば、親も一緒に手を洗いましょう。親が行動を示すことで、子どもはより見通しが立つようになります。そして行動に移すことができたら、そのことを褒めてあげましょう」

『顔カード』や『気持ちの温度計』など、気持ちを伝えるツールを使う

渡辺教授:
「2つ目におすすめなのが、気持ちを伝えるツールを使うことです。発達支援の現場でも使われているものに、笑った顔・怒った顔・悲しい顔などさまざまな表情が描かれた『顔カード』や、温度計に見立てて表情の変化を描いた『気持ちの温度計』のイラストがあります。感情や状態を可視化することで、子どもは自分の感情をより理解することができます。

気持ちの温度計は、例えば、『今これくらい怒っている』と子どもが親に感情を伝える時に使ってみてください。そして、あるラインまで感情が高ぶったら、気分を変えるために水を飲んだり歌を歌ってみることを提案してもよいでしょう。

 



気を付けたいのは、『なんでできないの!』と怒ったり、一方的に押し付けようとしないこと。子どもが自分の気持ちを伝えられるようになるためのサポートという気持ちで、ツールを活用しましょう。

また、親も『だめ!』など同じ言葉ばかり使っていると、自分の気持ちを表現するボキャブラリーが貧しくなってしまいます。褒めるときも叱るときも、『○○ちゃん、えらいね』『心配するからやっちゃだめだよ』など、豊かなボキャブラリーを心掛けてください」

気持ちの切り替え方法を親が子どもに示してあげる

渡辺教授:
「3つ目におすすめなのは、気持ちを切り替えるための方法を親が実践することです。子どもの好きな食べ物を与えることでもいいし、静かな場所に連れて行くことでもいいでしょう。楽しいことを考えるのも良いですね。それを示しながら、子ども自身がどうやったら気持ちをすっきりさせられるのかを教えてあげられるとよいですね」

癇癪は成長の過程!子どもと一緒に親も成長することが大事

渡辺教授の話から、癇癪は感情のコントロールが効かない状態で、それを収めるためには言葉の発達や先を見通す力などさまざまな発達が必要なことがわかりました。癇癪を、単に乳幼児期の一時的な行動と捉えるのではなく、長い人生の成長の過程であると考え、子どもと一緒に親も成長していきましょう。

【監修者プロフィール】

渡辺弥生教授



法政大学文学部教授。教育学博士。筑波大学大学院博士課程で心理学を学び、筑波大学、静岡大学を勤務して、現在に至る。途中、ハーバード大学、カリフゾルニア大学サンタバーバラ校で客員研究員を経験。主著に、『子どもの「10歳の壁」とは何か?―乗りこえるための発達心理学』(光文社)、『感情の正体―発達心理学で気持ちをマネジメントする』(筑摩書房)、監修に『まんがでわかる発達心理学』(講談社)『よくわかる発達心理学』(ナツメ社)など多数。


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