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岸壁幼魚採集家・鈴木香里武さんに特別取材!! 幼魚を愛する鈴木香里武さんが いま一番漁港で出会いたい魚は「フリソデウオの幼魚」!!

今年7月7日に静岡県の駿河(するが)湾にほど近い場所に「幼魚水族館」が開港しました。実は、その館長に就任されたのが岸壁幼魚採集家の鈴木香里武(かりぶ)さん。漁港の「岸壁」にいる「幼魚」をタモ網で「採集」する研究者です。幼少期から海に親しみ、日常風景として漁港があったことから、自然と海や魚を好きになりのめり込んでいったそう。幼魚への愛や水族館の館長としての日々、岸壁幼魚採集家としての魚への思いを語っていただきました!


三島駅と沼津駅のちょうど間にある「幼魚水族館」。駿河湾周辺は幼少期から頻繁に訪れてきたゆかりの深い土地


――「幼魚水族館」の開港おめでとうございます!
 ありがとうございます! 幼魚に特化した水族館は世界で初めてなのですが、幼魚を入手することは難しいので、館長自ら漁港ですくって搬入しています(笑)。昨日も房総の海で水族館に展示する魚たちを採集しておりました。オープンから1か月が経ちましたが、おかげさまで大変好評をいただいております。
 幼魚は展示中に成魚になっていくので展示しておけなくなるのですが、その時は「卒魚式(そつぎょしき)」をして「卒業魚(そつぎょうぎょ)」として全国の水族館さんに成魚として無償提供させていただいています。
 駿河湾は日本一水深が深いことでも有名ですね。魚種が豊富なのはもちろんなのですが、幼少期から最も多く通っていた漁港が駿河湾にあったので思い入れが一番強いんです。そこに水族館をオープンできたことが本当に嬉しいですね。


週末になると両親と海へ遊びに行く生活をしていたため海や漁港は日常風景


――幼魚との出会いを教えてください。
 0歳からダイビング好きな両親に連れられて週末になると海に通っていたようです。レジャーシートの上に赤ちゃんの自分を置いて、両親はタモ網を持ってはしゃいで海へ遊びに行ってしまうので地元の漁師さんによく叱られていたらしいです(笑)。実は、今も両親との3人チームでタモ網を持って漁港に行くので、家族みんなでずっと海が大好きなんです。
 漁港にはあまり大きな魚が入ってこないので、自然と幼魚を好きになったんだと思います。幼魚は食べるというサイズではないので、すくっては生態観察の日々ですね。家には海水水槽があったので、海から連れてきていろいろな魚を育ててきました。
 彼らを観察して、知れば知るほど幼魚の「生きざま」に惹かれていきました。あのちっちゃな身体の中に生き残るためのありとあらゆる戦略がぎゅっと詰まっている。大きな魚ももちろん好きで大きな魚の生きざまも素敵なんですけど、ちっちゃいと成魚以上に頑張らないと敵に見つかってすぐ食べられちゃうんですよね。幼魚は成魚以上に生き残り戦略を徹底的に考えなくてはならなくて。進化の過程で得た十種十色の姿、このユニークさに惚れ込んでいます。

――岸壁幼魚採集家として歩み始めたきっかけはありますか?
 明確にこれというのは無いかもしれませんが、やはり小学校3年生の時にさかなクンと出会ったことは大きいですね。当時はここまで魚好きの子どもは珍しかったのか「こざかなクン」という名誉ある名前をもらいました。さかなクンの行く先々にくっついていき、一緒に釣りをしたり交流が生まれて。さかなクンからは何かを教えてもらうというよりは、さかなクン自身が本当にキラキラ輝いていたので、その姿を見て自然と影響を受けましたね。
 さかなクンは魚を生きものの種類としてでなく、一匹一匹を「個」として見ているんです。憧れる部分もありましたが、さかなクンは人間の域を超えている途方もない人なので絶対に誰も真似できない。だからさかなクンのようになりたいなんて考えることはできませんでした。
 ただ、自分が好きなことを突き詰めていった先に、幼魚の魅力をお茶の間に届けたいという強い思いがあったので、いま「岸壁幼魚採集家」として活動できていると思いますね。
 そうやって好きを貫けたのは、やはり「見守ってくれる大人の存在があること」は大きかったと思います。両親もですが、自分を子ども扱いしないで対等に話してくれる大人が周囲にたくさんいたんです。当時はSNSが無かったので、極度の人見知りであった自分も何とか人付き合いをして克服しなければという思いがあって。長年の試行錯誤もあって、魚を入口にいろいろなジャンルと魚をつなげていく発信者という仕事にもつながっていったのかなと思います。


採集は東京から車で1-2時間で行くことができる房総・伊豆・三浦半島の海が多い


――普段はどちらの海に行かれますか?
 東京から車で1-2時間で行ける海へ行くことが多いですね。全国のいろいろな海に行かせていただく機会は多いのですが、幼魚採集の場合は魚たちの移動の負担を考えてその距離を心掛けています。
 漁港という場所は、どちらかというと人工的環境だから魚のすみかとしては注目されていなかったんです。でも、漁港って囲われているから大きな魚があまり入ってこない、敵が入ってこない、外の海が荒れていても中は穏やかで。隠れ家もいっぱいあってエサも豊富にある…幼魚が育つための条件が整った環境なんですよね。
 昨年から大学院に入り直して勉強しているのですが、そこでの研究テーマも「漁港は幼魚たちのゆりかごになっているか」です。これまでは幼魚のゆりかごというと、藻場か岩礁か砕波帯(さいはたい)などは知られていたのですが、漁港は未知のゾーンなんです。海に入らず沖に出ず、ひたすら這いつくばって上から足元の海を見る30年…。活動範囲狭いですよね、半径5メートルくらいです(笑)。


付箋がびっしり貼られた『GET!魚』を手に登場された香里武さん。
付箋にはひとつひとつに丁寧にコメントが書かれており、誠実で研究熱心なお人柄が垣間見えた。


――『角川の集める図鑑GET!魚』ご覧いただきありがとうございました!
 幼魚好きとしては、よくぞこれ(=稚魚仔魚を特集したページ)をここに持ってきてくださった…と。普通の図鑑ではなかなか触れてもらえないのが幼魚なので、こんなに目立つ場所に掲載されていることが、個人的な趣味になりますが、まず素晴らしい図鑑だなと思いました。
 そして地域分けですよね。これ僕が好きな言葉で言い換えれば「生きざま分け」をしているわけです。他の種類との関係性がよくわかるんですよ。たとえばP34-35のように、ジンベエザメとコバンザメとブリモドキは普通ほかの図鑑では同じページには載らないわけです、全然違う種類なので。普通に分類したら同じページには載らない、でもこの3種類って実は関係性が深い。
 岸壁幼魚採集家としても、どこにどんな魚がすんでいるかがわかる地域分けは魂が湧くわけです。だからこの図鑑はコンセプトからして共鳴するところが多かったです。


ヨコヅナイワシTシャツに釘付けになっていたところ、香里武さんがおもむろに懐から「ヨコヅナイワシのうろこ」を取り出され…。
みんなでじっくりと見させていただきました!


――『GET!魚』図鑑のなかで好きなお魚はいましたか?
 僕が好きなのはレプトケファルス幼生ですね。ウナギとかウツボとかアナゴとか、ああいうニョロニョロした魚はみんな幼少期に葉脈標本みたいな姿をしているんです。このレプトという存在に昔からロマンを感じていて。見た目の美しさ、ほとんど目玉しか見えないくらいものすごく透明度が高い。海中では完全に透明で敵に見つからない。遊泳する姿は天女の羽衣(はごろも)のように美しいんですよね。あと、生きざまも面白くて。ウナギの場合はいかにも水の抵抗を受けそうな身体で海流にのって、半年ほどかけて3000kmの長旅をしてくる。長旅に特化した身体と形がすごい。種を超えて共通の性質として、危険を感じると頭を中心にしてとぐろを巻くんですよ。ひとつひとつの行動が健気で良いですよね。
 あと、フリソデウオ! この子の仲間には何度も出会っているんですけど、このフリソデウオには出会えていないんです。漁港でフリソデウオの幼魚に出会うというのは一つの目標です!

――鈴木香里武さん、ありがとうございました!!(編集部)

画像提供:鈴木香里武さん

プロフィール】



鈴木 香里武(すずき かりぶ)
1992年東京都生まれ。岸壁幼魚採集家。学習院大学大学院心理学専攻博士前期課程修了。幼少期より海や魚に親しむ。小学校3年生の時にさかなクンと出会い、以後さまざまな専門家との交流・体験を通して魚への愛を深め知識を蓄えてきた。長年の幼魚愛が高じ、岸壁幼魚採集家としての活動を通じてTV・ラジオをはじめとしたさまざまなメディアに出演。著書に『海でギリギリ生き残ったらこうなりました。進化のふしぎがいっぱい!海のいきもの図鑑』『海でギリギリあきらめない生きざま。知恵と工夫で生き残れ!海のいきもの図鑑』(ともにKADOKAWA)『岸壁採集!漁港で出会える幼魚たち』(ジャムハウス)など多数。2022年7月7日に静岡県の駿河湾にほど近い場所に開館した「幼魚水族館」の館長に就任。現在、北里大学大学院海洋生命科学研究科博士後期課程に在学しながら、魚の研究を続けている。
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■お知らせ■

①鈴木香里武さんからのお知らせ
2022年7月7日に静岡県・清水町のショッピングセンター「サントムーン柿田川」内にオープンした幼魚水族館。地元駿河湾の漁港で出会える幼魚から深海の幼魚まで、約100種の幼魚を間近で観察できます。
※幼魚水族館ホームページはこちら




②編集部からのお知らせ
大好評発売中の学習図鑑『GET!魚』総監修・宮正樹先生のイベント開催決定!!
8月27日(土)千葉県立中央博物館でお魚好きの皆さんをお待ちしています!!
※イベント詳細・お申込みはこちらから



『GET!魚』くわしくはこちら


総監修:宮 正樹監修:佐土 哲也監修:小枝 圭太

定価
2,200円(本体2,000円+税)
発売日
サイズ
A4変形判
ISBN
9784041118535

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