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ビッグバンから人類の誕生まで、138億年の流れが5分でわかる! 世界一やさしい進化論『きみは どこから やってきた?』刊行記念 国立科学博物館・北山太樹インタビュー


宇宙誕生から今日に至るまでの進化の歩みを、わかりやすく、そしてユーモアたっぷりに描いた絵本『きみは どこから やってきた? 宇宙誕生からはじまる いのちのものがたり』が翻訳出版されました。日本語版の監修を務めた北山太樹先生によると、この絵本と同じコンセプトで作られた展示を、東京・上野の国立科学博物館で楽しむことができるとのこと。北山先生に国立科学博物館の「地球史ナビゲーター」をご案内いただきながら、『きみは どこから やってきた?』の魅力を伺いました。
撮影:島本絵梨佳 / 取材・文:加治佐志津/協力:国立科学博物館

私たちはみんな138億さい!?

―― 国立科学博物館の地球館1階にある「地球史ナビゲーター」は、北山先生の企画・立案から始まった展示だそうですね。

ここはもともと海洋生物のフロアだったのですが、2015年のリニューアルの際、新しい展示は地球館全体のシンボルになるようなものにしたいと考えたんです。

国立科学博物館には、動物・植物・地学・人類・理工の5つの研究部がありまして、それぞれ別々のフロアで、昆虫や恐竜、宇宙や人工衛星など、自然科学と科学技術にまつわる、ありとあらゆる展示を作ってきました。ただ、それだけだと全体の関係が見えてこないので、それらをひとまとめにして見せる展示にしたいと思ったんです。そうしてできあがったのがこの「地球史ナビゲーター」です。


北山太樹先生


現在の知見によれば、宇宙の誕生から今日まで、138億年経っていると考えられています。その間にどのように宇宙が進化し、地球が生まれたのか、そしてどのように生物が誕生し、進化を遂げて、人間が生まれたのか、そこからいかにして科学技術を手に入れて今日にいたったのか……この壮大な物語を、地球史ナビゲーターでは、3つの大きなスクリーンにアニメーションを映し出して、ダイナミックに表現しています。

展示の制作にあたっては、国立科学博物館の総勢60人の研究員が参画して、それぞれの専門分野を担当しました。


地球館の様子。後ろのスクリーンが「地球史ナビゲーター」


―― まさに英知の結集というわけですね。

見どころはいくつもあるのですが、私としてはアニメーションの最初と最後に登場する、ひとりの少年に注目していただきたいですね。

順を追って説明しましょう。少年は、プロローグ「すべては原子でできている」のアニメーションでバラバラに分解されて、原子になります。その原子というものは、138億年前のビッグバンがきっかけとなって誕生しました。さまざまな生物が誕生するまでを、1つ目の大きなスクリーンで「宇宙史」として示しています。

2つ目のスクリーンは「生命史」です。我々の最初の祖先はバクテリアのようなもので、46億年前に生まれたと言われています。哺乳類の祖先が現れるのは、まだ恐竜が闊歩(かっぽ)していた時代。恐竜は惑星の衝突によって絶滅しますが、そんな中、我々の直系の祖先にあたるネズミのような生物が、木のうろに隠れて生きのびた様子も描かれています。

3つ目のスクリーンは「人間史」で、化石人類がどんどんホモ・サピエンスに近づいていって、火や道具を使うようになり、牧畜や農耕をやるようになって、乗り物を作って……という科学と技術の進歩を描いています。

宇宙史、生命史、人間史を展示の流れに沿ってたどっていくと、138億年経った今、少年がこの博物館を訪れているシーンになるんですね。これは最初のプロローグで原子まで分解された少年で、この少年が138億年かけて再生したことを表しています。これを見て感じていただきたいのは、今の自分が存在するには自身の年齢では足りず、自分が生まれる以前の138億年が必要だったのだということです。


138億年かけて再生した少年


科学の入口としてオススメの絵本『きみは どこから やってきた?』

―― 北山先生は今回、オーストラリアの作家フィリップ・バンティングさんの絵本『きみは どこから やってきた?』の日本語版の監修を担当されました。原書を初めて読んだとき、どんな感想をもたれましたか。

宇宙の誕生から今日にいたるまでが、とてもいい流れで描かれているなと感じました。いつか地球史ナビゲーターを絵本にしたいと思っていたのですが、まったく同じコンセプトだったので、やられた!と思いましたね(笑)

この絵本の大きな特徴は、あえて専門的な科学用語や年代表記を使わずに、この世界のなりたちをやさしく紹介しているところです。たくさんの情報を伝えようとすると、普通は文字だらけになると思うんですが、この絵本はそれをぐっと削ぎ落してシンプルに表現しているんですね。それでいて、学術的にも正しい順序で生命の進化が描かれている。絵本ならではということもあるとは思いますが、芸術作品と言っていいくらいだと感じました。




博物館の展示も、まず全体像として心に訴えかけるようなイメージを最初に持ってもらうのが大事だと思っています。細かい数字や専門用語などは、後からそれぞれ関心を持ったところを掘り下げる際に身につけてもらえばいいんです。最初から情報量の多いものを読み解くのは大変なので、まずは芯となる一番大事な部分を知ってもらうべきかなと。地球史ナビゲーターはまさにそういう思いで作った展示なのですが、この絵本も同じで、科学への入口として優れているなと思いました。

ページをめくるたび、隠しネタ的にユーモアが潜んでいるので、それを見つけるのもこの絵本の面白さのひとつです。たとえば、古代魚のセリフ「お目にかかれてうれしいわ」(Nice to see you, dear)は、進化の過程で目を獲得したことと挨拶とのダブルミーニングになっているんです。英語ならではの韻を踏んだ表現もいくつかありましたが、そこは翻訳者のないとうふみこさんがぬかりなくおさえて、日本語として面白く伝わるよう工夫してくれました。

―― これからこの絵本を読む子どもたちや親御さんたちに向けて、メッセージをいただけますか。

生きていると何かと思い悩むこともあるかと思いますが、そんなときはぜひ、この絵本を開いたり、国立科学博物館の展示を見に来たりしてみてほしいですね。そして自分は今、138億年もかかってやっとここにたどり着いたんだ、ということをイメージしてもらえたらなと。

この世界のありとあらゆるものはすべて、138億年かかって今日に存在しています。私の一部は、何十億年か前にはどこかの星の一部だったり、数百年前には別の生き物の一部だったりするということが、今ではわかっています。自分の人生を138億年だと考えると、今抱いている悩みの捉え方も変わってくるのではないでしょうか。

『きみは どこから やってきた?』は、小さい子から楽しめるようにわかりやすく描かれていますが、決して子どもだけに向けた絵本ではないと思っています。普段絵本を手に取ることのない大人も、きっとワクワク、ドキドキさせられるはず。親子で絵本を楽しんだあとは、ぜひ国立科学博物館の展示も見にきていただけたらうれしいですね。



北山 太樹(きたやま たいじゅ)
国立科学博物館 植物研究部菌類・藻類研究グループ研究主幹。北海道札幌市生まれ。北海道大学大学院理学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(理学)。生物が好きだった子ども時代、そしてアンモナイトなど化石の発掘に夢中になった十代を経て、大学院で海藻の奥深さを知り、専門分野とする。国立科学博物館では、日本各地の海藻を採集・研究しながら、「系統広場」や「地球史ナビゲーター」などの常設展示の企画・立案に携わる。国立科学博物館オリジナルグッズ「かはくトランプ 系統広場の生き物たち」の企画・編集・執筆を行うなど、知的好奇心と遊び心、そしてユーモアあふれるアイディアマンでもある。

 

書籍情報


監修:北山 太樹 作:フィリップ バンティング 訳:ないとう ふみこ

定価
本体1500円(税別)
発売日
サイズ
B4変形判
ISBN
9784041089415

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