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ものがたり

【ためし読み】怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか? - 3.思いがけないたのみごと


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3.思いがけないたのみごと

 次の日の朝。
 いつものように僕は、朝早く登校して、席にすわって本を読んでいた。
 今日は、いつもと気分を変えて、いま世界中で流行っているSF大作の第1部の英語の原著版だ。
 本に目を落としつつ、昨日の出来事について考える。
 緊張したけど、母さんともちゃんと話せた。
 ここのところずっと重かった肩が、かるくなった気がする。
 昨日の話し合いで、住む家や、苗字については、しばらくこのままということになった。
 急に苗字が変わるのも生活に影響が出るし、まわりに気遣われたりもする。
 苗字が変わらないなら、いっしょに住むのも不自然なので、いまのままで、ときどき家族5人で会う機会を作ろうということになった。
 翼先輩と美華子ちゃんは、遠慮なく僕の家にやってきているけれど、翼先輩とは先輩後輩の間だから、別に怪しまれることはないはずだ。
 そんなことを思い返していると、黄瀬美緒さんが教室にやってくる。
「おはよー、藤白くん」
「おはよう」
 短くあいさつを交わして、僕はすぐに本に視線をもどす。
「…………」
 黄瀬さんが無言のまま、自分の机のまわりをうろうろしてから、ちらりと僕のほうを見る。
 ……ん? なんだろう?
 いつもの黄瀬さんなら、机に荷物をおいたら、すぐにクラス委員の仕事にいくんだけどな。
「どうかしたの?」
 僕は黄瀬さんに声をかけてみる。
 すると、待ってましたとばかりに、黄瀬さんが僕のほうに身を乗りだしてくる。
「あ、あのね!」
 黄瀬さんのあまりのいきおいに、僕はかるく身をのけぞらせる。
「な、なに?」
「出かけたいな、って考えてるの!」
「あ~うん。出かければいいんじゃないかな?」
 黄瀬さんの言いたいことがわからない。
 出かけるのに、僕の許可はいらないけど。
「そうじゃなくて、藤白くんと……………………紅月先輩といっしょに」
 黄瀬さんは、最後だけ、か細い声になる。
 ああ、そういうことか。
 黄瀬さんは、翼先輩のことが好きらしい。
 だから、デートに誘いたい。
 でも、翼先輩と直接の知り合いという仲でもないから、僕に間をつないでほしいということだろう。
 黄瀬さんが、そわそわしていた理由がわかって、僕はほっとする。
 前みたいに、事件に巻きこまれているとかじゃなくてよかった。
「でも、それなら、僕はいっしょじゃないほうがいいんじゃない?」
 デートというのは、ふつうは2人きりでいくものだろう。
「ダ、ダメ! 紅月先輩と2人きりなんて緊張するし、きっとわたしだけじゃ誘っても来てくれないよ!」
 黄瀬さんは、ブンブンと首を横にふる。
 翼先輩なら、そんなこともない気はするけど……黄瀬さんを説得するだけの理由もない。
 僕にだって、翼先輩が、どう反応するのかは、よくわからないし。
「わかった。じゃあ、きいてみるよ」
 黄瀬さんには、ふだんクラスになじみきれない僕のフォローを、いろいろとしてもらっている。
 恩を返すには、いい機会だ。



「ありがとう! あのね……できたら、昼休みに誘いにいかない? わたしも時間がとれるから」
 人任せにしないのも、黄瀬さんらしい。
 ……顔は、だいぶ緊張でこわばってるけど。
 でも、誘うときに黄瀬さんもいてくれたほうが、話が進みやすいのはたしかだ。
 こう言ってはなんだけれど、翼先輩が黄瀬さんのことを、どのていど覚えているか、僕にもわからないし。
「いいよ、じゃあ、昼休みに。……黄瀬さん、そろそろクラス委員の仕事にいかなくて、大丈夫?」
 教室の時計を見あげて、僕は黄瀬さんに言う。
「あっ、集合時間すぎちゃってる! ごめん、ありがとう、藤白くん!」
 黄瀬さんは大あわてで、教室を飛びだしていく。
 1人残った教室で、僕は考える。
 ――僕と、黄瀬さんと、翼先輩って、どう考えてもバランスが悪いけど、大丈夫だろうか。
 僕に、黄瀬さんと翼先輩の間を取り持つなんて、人間関係的な器用さは期待されていないだろう。
 黄瀬さんだって、わかっているはずだ。
 とはいっても、本当にいっしょにいくだけでいいんだろうか。
 ふだんから、お世話になっている黄瀬さんのためだ。
 本人次第のこととはいえ、うまくいってくれたらいいな、とは思ってる。
 さてと。
 翼先輩には、どう切りだそうかな?


 僕は、本に目を落としつつも、頭の中では昼休みのことを考えていた。

<第4章へつづく>

単行本は4月5日(月)発売!



兄妹3人で、怪盗をやるのが夢だったんだーー。
離ればなれに育った翼、圭一郎、美華子。
翼は「3人で『怪盗レッド』をやろう!」と言うけれど…
圭一郎は「誰かのために命を賭ける?そんなこと、僕にはできません」って⁉︎
初代・怪盗レッド、いきなり仲間割れのピンチ!


作:秋木 真 絵:しゅー

定価
1320円(本体1200円+税)
発売日
サイズ
B6判
ISBN
9784041101650

単行本第1巻も要チェック!


作:秋木 真 絵:しゅー

定価
1320円(本体1200円+税)
発売日
サイズ
B6判
ISBN
9784041087664

つばさ文庫版も大好評発売中!


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