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4月5日(月)発売の『怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか?』のためし読みを、発売日まで毎日更新するよ!
累計125万部!つばさ文庫の超ヒットシリーズ「怪盗レッド」の最新書き下ろし単行本!要チェックですよ~☆
8.2人きりの時間
翼先輩と黄瀬さんを見送ってから、僕と緑谷先輩は反対方向に歩きだす。
「緑谷先輩、ありがとうございます」
僕はお礼を言う。
「なんのこと?」
緑谷先輩はきょとんとしている。
「黄瀬さんの気持ちに気づいて、こういう流れにしてくれたんですよね。僕では、そんな気配りはできなかったので」
「ああ……」
緑谷先輩は、「そのことね」という調子でうなずく。
「うん、美緒ちゃんと話をしたの。翼くんがうまく乗ってくれてよかったわ。…………でもこちらは、ぜんぜんなのかなぁ」
……なにか最後にぼそりと呟いた声は、僕にはききとれなかった。
「いま、なにか言いました?」
「ううん、なんでもないわ。それより、なにに乗りたい?」
緑谷先輩がきいてくる。
「ゆっくりしたものがいいですね」
刺激の強いものは、あんまり得意じゃない。
緑谷先輩に、情けないと思われるかもしれないけど……見栄を張っても、すぐにわかることだし。
「わたしもよ」
緑谷先輩は、やわらかく微笑む。
僕もその笑みにつられて、自然と笑みをこぼす。
緑谷先輩は、そんなことを気にするような人じゃなかったな。
いまさらながら、そう思いだす。
僕と緑谷先輩は、肩をならべて遊園地をゆっくりとまわり始めた。
1時間ほど見てまわり、僕と緑谷先輩は合流場所に向かう。
まだ、翼先輩と黄瀬さんは来ていないようだ。
約束の1時間を、少し回っているけれど……。
携帯電話で連絡しようか。
そう考えていると、遠くから走ってくる、翼先輩と黄瀬さんの姿が見える。
「ごめんなさい! ジェットコースターの順番待ちが、思いのほか長くて……」
黄瀬さんが息を弾ませながら、あやまる。
「あれに絶対乗りたいって言ったのは、おれなんだから。黄瀬は気にするなって」
翼先輩が、黄瀬さんに言う。
あれ?
翼先輩の呼び方が「黄瀬さん」という他人行儀なものから、呼び捨てになっている。
これは、けっこうな進展なんじゃないだろうか。
「そんなことだろうと思ったわよ。それじゃあ、最後は4人でゆっくりまわりましょう。帰りのことを考えると、ここにいられる時間ももうあまり、長くないし」
緑谷先輩の提案に、僕たちは賛成する。
観覧車に乗ったり、きれいに整えられた花畑を見てまわったりすると、そろそろ帰る時間になる。
名残惜しさを感じつつも、遊園地のゲートを出る。
ほかの3人も、満足そうな、どこか名残惜しいような表情になっている。
夕日に照らされながら、そろって駅に向かう。
今日は久しぶりの遊園地だったけれど、こんなに楽しいところだったっけ? と自分でも不思議に思うぐらい楽しめた。
前にきたのは、幼いころに父さんと2人でだったから、こんなふうに友達とくるのは、生まれてはじめてだ。
だからだろうか?
「圭一郎くん、今日は楽しかった?」
となりにならんだ緑谷先輩が、きいてくる。
「はい、楽しかったです…………って、ええっ!?」
僕は応えかけて、思わず声を上げる。
驚きすぎて、いま、僕は間が抜けた顔をしてると思う。
「どうしたの?」
緑谷先輩は、そしらぬ顔で首をかしげている。
「いま、名前で呼んで……」
たしかに言った。「圭一郎くん」と。
僕はとまどいを隠せないまま、緑谷先輩を見る。
「なかよくなった後輩を、名前で呼ぶぐらい、ふつうでしょ?」
緑谷先輩は、なんでもないことのように言う。
からかわれてるのかな……。
でも、緑谷先輩は、そういうタイプの人じゃないし。
本当に、なかよくなった後輩を、ふつうに名前で呼んだだけ?
特別な意味とかはないよな。
そこまで、うぬぼれるのはどうかしてる。でも……。
ぐるぐると考えてしまう僕を、緑谷先輩はおかしそうに笑って見てる。
やっぱり、からかわれた?
それでもいいか。
緑谷先輩が、楽しそうに笑ってる。
今日一日、先輩のいろいろな表情が見られただけでも、僕の心は満足しちゃってるから。
<第9章へつづく>
単行本は4月5日(月)発売!
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兄妹3人で、怪盗をやるのが夢だったんだーー。
離ればなれに育った翼、圭一郎、美華子。
翼は「3人で『怪盗レッド』をやろう!」と言うけれど…
圭一郎は「誰かのために命を賭ける?そんなこと、僕にはできません」って⁉︎
初代・怪盗レッド、いきなり仲間割れのピンチ!
単行本第1巻も要チェック!
作:秋木 真 絵:しゅー
- 【定価】
- 1320円(本体1200円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- B6判
- 【ISBN】
- 9784041087664