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4月5日(月)発売の『怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか?』のためし読みを、発売日まで毎日更新するよ!
累計125万部!つばさ文庫の超ヒットシリーズ「怪盗レッド」の最新書き下ろし単行本!要チェックですよ~☆
2.少しずつ家族になる
「こんにちは。圭一郎」
母さんはこの間とはちがって、ぎこちなさはあるものの、落ちついた様子であいさつしてくる。
でも、その表情は、僕への申しわけなさを感じていることが、はっきりと窺える。
「……こんにちは」
僕も、そっけないあいさつを返す。
愛想悪くするつもりなんてなかったのに、顔が引きつってうまくいかない。
できることなら、いますぐに部屋にこもるか、家から逃げだしたい気分だ。
でも、そうしたところで、問題を先延ばしするだけで、なにも前に進まないのはわかってる。
「とりあえず、すわろうぜ」
翼先輩が、まるで我が家にいるように、どっかりとリビングのソファにすわる。
ある意味では「我が家」なんだから、いいんだけど、こんなときでも遠慮がなさすぎないだろうか。
「あっ! 観たかったアニメがある!」
美華子ちゃんが、テレビのわきにおいてあった、DVDのパッケージを目ざとく見つける。
有名なアメリカのアニメ制作会社が作ったアニメ映画で、僕ではなく、映画好きの父さんの持ち物だ。
「いいな。観ようぜ」
翼先輩が言って、さっそく美華子ちゃんがDVDをプレイヤーにセットしている。
「あなたたちねぇ……」
あまりに場の空気を読まない行動に、母さんがあきれたように、翼先輩と美華子ちゃんを見る。
僕に、翼先輩がくちびるのはしを上げた笑みで、目配せしてくる。
気をつかわれたってことか……。
そんなことは、すぐにわかったけど、やるならもう少しさりげなく……いや、ちがうか。
わざとわかりやすく、やったんだ。
前の事件のとき、美華子ちゃんの演技力を見せてもらった。
しようと思えば、僕もだまされるぐらいの演技を、美華子ちゃんはできるはずだ。……翼先輩はわからないけど。
だけど、そうしなかった。
バレバレの演技をして、わざと場を和ませようとしてくれた。
……まあ、本気でアニメを観はじめちゃっているけど。
まったく。
2人の様子に、ガチガチに緊張していたことがバカらしくなってくる。
僕はダイニングテーブルのイスにすわる。
それを見て自然に、向かい側に、父さんと母さんがならんで、すわった。
「まずは、改めてあやまらせて。本当にごめんなさい、圭一郎。あなたとずっと、いっしょにいられなかったこと、それにこの間、泣いて困らせてしまったこと。圭一郎のほうがつらかったはずなのに……」
母さんが、深く頭を下げる。
僕は、小さく首を横にふる。
「あやまらないでよ。正直言えば、2人きりだった家族が、急に倍以上の人数になったことに、とまどってるけど……うらんだり憎んだりしたことはないよ」
それに、物心ついたときから我が家には「母親」がいなかったから、父さんとの2人きりの家族のかたちに不満を抱いたこともない。
「……強いてうらみごとを言うなら、僕にずっとウソをついてきた、父さんに対してじゃないかな?」
「わ、わたしか!?」
急に矛先が向いて、おどろく父さん。
あの顔は、本気でびっくりしているな。
「そうだよ。近くにいたのに、僕をだましていたのは、父さんじゃないか」
「うっ……それはそうなんだが」
父さんが、肩を落とす。
「でも、そうするように決めたのは、私と怜二さんの2人なのよ」
母さんが言う。
きいたところによると、幼いころの僕は病弱で、とても将来、紅月の里の仕事が務まるとは思えなかったそうだ。
そこで、両親は考えて、父さんが里の外での調査活動の役目をする代わりに、僕を連れ出し、紅月の里と無関係の存在にした。
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それで僕の名字は「藤白」となり、名前には、長男につけることの多い「一郎」が入ったというわけだ。
「まだあなたに対して、母親だっていう実感がわいてないから、そう思うのかもしれない。でも、うらみも憎しみもないというのは、本当だよ。それに、先にあの2人に会っているから、いずれ母親が現れることも、想像していたし」
僕は、翼先輩と美華子ちゃんを、目で示す。
2人は、完全に、テレビ画面に夢中になっている。
これは……演技じゃないな。
「ドライすぎないか、圭一郎」
父さんは、僕の言葉に、あきれ気味だ。
ドライといえば、そうかもしれない。だけど……。
「翼先輩と美華子ちゃんと先に会っていれば、こんなもんだよ。あの2人の印象がとんでもなかったんだ」
僕は、アニメ映画に食いついている2人を見て、小さく笑う。
2人が、ただの中学生と小学生じゃないことは、この間の事件にいっしょに立ち向かって、証明済みだ。
そんな2人が、僕の兄と妹だなんて言われたんだから、うらみだの憎しみだのなんて、感じる余裕もない。
「いたって、ふつうのアニキをつかまえて、その言い草はないだろう」
翼先輩が抗議の声を上げる。
映画に夢中になっていたように見えて、こっちの話をちゃんときいていたらしい。
「銃を持ったテロリストを素手で制圧する中学生が、ふつうのアニキって、どんな世界なんですか」
僕はそんな世紀末に、生まれた覚えはない。
「人をヒグマかなにかみたいに言うなよ!」
「ヒグマ……たしかに言い得て妙ですね」
僕は、大きくうなずく。
翼先輩にクマのイメージは、よく似合う。
「おいっ!」
すかさず、翼先輩のツッコミが入るけど、僕は気にしない。
「もう、あなたたちったら……」
クスクスと笑い声がきこえたと思って、正面を向くと、母さんがおかしそうに口元をおさえている。
そういえば、母さんの笑った顔ははじめて見たかもしれない。
こんなふうに、笑う人なんだな。
再会してからずっと、泣き顔や、悲しそうだったりする顔ばかりを見ていたから、ほっとする。
「そんなわけだから、気に病まないでほしい、です。かえって話しづらいから。え~と……母さん」
僕はつっかえつつも、はじめて「母さん」と呼びかける。
「圭一郎……そうね。その言葉、ありがたく受け取らせてもらうわ。このままだと、いつまでたっても距離をつめられそうにないものね」
「遠慮がなくなったおふくろは、怒らせると怖いから、気をつけろよ、圭一郎」
翼先輩が、ソファにすわったまま、茶々を入れてくる。
「あら、翼? さっそく、その怖さをいま、味わいたいのかしら?」
母さんが、迫力のある笑みをうかべる。
「冗談だよ、冗談! 場を和ませようとしただけだろう」
あわてて言う翼先輩の様子に、僕は思わずふきだす。
「ほら、圭一郎にあきれられちゃったじゃない」
「おふくろが、悪ノリしてくるからだろう……」
2人がいい関係なのが、よくわかる。
きっと、翼先輩は、母さんを何度も怒らせているんだろう。
「母さんと、そんなふうになるのは、すぐにはムリです。……だけど、少しずつ話し方とか呼び方とか、距離感とか、色々と変えていけたらと思ってる」
僕は、素直な気持ちを言葉にする。
母さんを、嫌っているわけでも、避けたいわけでもない。
ただ、慣れなくて、どう接していいのかわからないだけだ。
「それでいいわ。十分よ。圭一郎が、私たちのことを受け入れてくれるだけで、夢みたいだもの。だから、あせらないし、あせらせるつもりもないわ。ゆっくり家族になりましょう」
母さんが、うれしそうに微笑む。
生まれてはじめて見る、優しさだけがあふれているような笑みに、僕はとまどう。
これが母親っていうものなのかな?
まだ、よくわからない。
だけど、翼先輩や美華子ちゃんもいる。
ゆっくりと、みんなで家族になれればいい。
なんといっても僕は、父親以外の家族は、初心者もいいところなんだから。
いきなりむずかしいことなんて、できるわけがない。
そんなふうに、2度目の母さんとの出会いは、おだやかに時間がすぎていった。
<第3章へつづく>
単行本は4月5日(月)発売!
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兄妹3人で、怪盗をやるのが夢だったんだーー。
離ればなれに育った翼、圭一郎、美華子。
翼は「3人で『怪盗レッド』をやろう!」と言うけれど…
圭一郎は「誰かのために命を賭ける?そんなこと、僕にはできません」って⁉︎
初代・怪盗レッド、いきなり仲間割れのピンチ!
単行本第1巻も要チェック!
作:秋木 真 絵:しゅー
- 【定価】
- 1320円(本体1200円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- B6判
- 【ISBN】
- 9784041087664