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4月5日(月)発売の『怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか?』のためし読みを、発売日まで毎日更新するよ!!
累計125万部!つばさ文庫の超ヒットシリーズ「怪盗レッド」の最新書き下ろし単行本!要チェックですよ~☆
12.3人のバランス
市立図書館にいってから、数日がたった。
いまだに僕の頭の中では、翼先輩と話したことが、ぐるぐるとしている。
まちがった考えだとは思っていないのに、もやもやとした思いが消えない。
「藤白くん、少し元気ない?」
いつものように、教室の朝の時間。
黄瀬さんが、声をかけてくる。
「そんなことないよ」
「そう? ならいいけど……あ、そういえば」
黄瀬さんが、思い出す顔をしながら言う。
「昨日の放課後に会った紅月先輩も、めずらしく元気がなかった気がするなぁ」
「翼先輩が?」
「あ、会ったのは、たまたまなんだよ! 駅前でばったり会って。妹さんもいっしょだったよ。紅月先輩に、あんなに可愛い妹さんがいるなんて、はじめて知ったよ。藤白くんは知ってた?」
黄瀬さんが、あわてたように言う。
「うん、まあね……」
僕は、あいまいにうなずく。
美華子ちゃんのことだろう。とくに隠す必要もないし。
「……もしかして藤白くん、紅月先輩となにかあった?」
黄瀬さんが、おずおずといった様子できいてくる。
「どうして?」
僕は黄瀬さんを見る。
そんなにわかりやすかっただろうか。
自分は、表情が変わらないほうだと、思っていたんだけど。
「放課後に藤白くんに会いにきていた紅月先輩が、ここ数日は来てないでしょ。だれだって、なにかあったのかなって思うよ」
それもそうか。
ここ数日は、翼先輩の顔を見ていない。僕の入学以来、毎日放課後におしかけてきていたのが、こなくなったんだ。
併せて考えれば、想像がついて当然だ。
そんな簡単なことにも、頭が回らないほど、いまの僕はポンコツ化していたらしい。
「ちょっと、意見の食いちがいがあっただけだよ。すぐに元にもどるから」
僕は笑って答える。
黄瀬さんに心配はかけたくない。
「それならいいんだけど……。わたし、紅月先輩と同じぐらい、藤白くんのことも心配してるからね。おせっかいなのはわかってるけど、2人がなかよくしてないのは、なんだか変な感じがするから」
黄瀬さんは、僕の顔をまっすぐに見て言う。
「わかってる。ありがとう、黄瀬さん。……そろそろ時間だよ」
「うん。じゃあ、いってくるね」
黄瀬さんは、教室を出ていく。
本当に黄瀬さんは人がよすぎて、心配になる。
だけど、心配をかけたのは、僕か……。
それにしても……。
「翼先輩と美華子ちゃんが2人で駅前にいた。もしかして……」
僕はだれもいない教室で、独り言をつぶやいた。
土曜日の昼間。
学校が休みの今日、僕はリビングでなにをするでもなく、ぼんやりとしていた。
時間がたっても、心が晴れないとは、僕自身も思わなかった。
自分で思っていたより、翼先輩と意見が分かれたことが、ショックだったのだろうか。
あれから、翼先輩とは顔も合わせてない。
わざわざ避けているわけではないけど、もともと3年生と1年生だから、会おうとでもしなければ、顔を合わせる機会がない。
そして、おたがいに会おうとしてないんだよな……。
そんなことを考えながら、キッチンを見る。
キッチンでは、父さんが昼食の準備をしている。
料理上手の父さんの邪魔になるから、僕はいつも、皿を運ぶのと、後片付けだけをしてる。
「ねえ、父さん」
僕はソファに、だらりとすわったまま、キッチンの父さんに話しかける。
「なんだ?」
「やっぱり、紅月の里の人って『義賊が、自分の使命だ』、って考えてるものなの?」
「いきなりだな。なにかあったか?」
父さんは料理する手を止めて、僕のほうをふりむく。
そのまま、少し考える顔をしてから言う。
「たしかに紅月の里の古い人間には、そういうタイプが多いな。代々つづく義賊の使命を継がなくてはならない、という考えの人が。だけど、父さんぐらいの世代からは、そうでもない」
「そうなの?」
意外だ。
このあいだ顔を合わせた源蔵さんの様子からも、紅月の里の人たちって、もっとガチガチの、血縁にしばられた義賊集団みたいなイメージがあったんだけど。
「紅月の里には、昔から13歳になった子どもに、義賊になる意志があるかの確認をする儀式があるんだ」
「13歳って、ずいぶん早いね」
中学1年、僕と同い年だ。
「江戸時代からのしきたりらしいから、昔はそうでもなかったんだろう。当時は、早ければその歳で元服だったからな」
「それを律儀に守っていたわけ?」
義賊という言葉から、歴史があるのは想像はしていたけど、江戸時代からのしきたりを守りつづけるなんて、どうかしてる。
平均寿命も、人の生き方も、変わってきているっていうのに。
「わたしたちの親の世代までは、そうだったな。わたしもその儀式は受けたが、正直、義賊とか使命とか、深くは考えてなかった。幼いころから教えられてきた技術はこのためのものだったのか、とは腑に落ちたけどな」
「反抗しようと思わなかったわけ?」
「そこまでは思わなかった。親やその上の世代が怖かったのもあるしな。だから、おまえたちが、源蔵のじいさまに言いかえしたときは、心の中でスカッとしたよ」
父さんはそう言って笑う。
あのとき、そんなことを思ってたのか。
「でも僕は……兄さんや美華子ちゃんとはちがう。紅月の里で育っていないし、考え方もちがうと思う」
「――――そうか?」
父さんが、おだやかな目で僕を見つめる。
「え?」
「圭一郎が、強盗グループを警察につきだし、テロリストをたたきのめしたのは、どうしてだ?」
「それは……クラスメイトや先輩が、危険な状態にあったからで……」
黄瀬さんや緑谷先輩という、知っている身近な人が危険だったからだ。
「翼や美華子も変わらないさ。困っている人がいるから、助けたい。それが知っている人でも、知らない人でもだ。『困っている人をほうっておけない質』なだけさ」
それはわかる。
翼先輩も美華子ちゃんも、すごくお人好しだ。
とくに翼先輩は、命をかけることもいとわない。
「だけど、僕は見知らぬ他人を助けるために、大切な人が危険な目に遭うのは……」
「それは翼や美華子も同じだろう。紅月の里の教えにこんなものがある。『自らの身を守れてこそ、本当の人助けである』とな」
「自らの身を守れてこそ……」
父さんの言った言葉を、心と頭が理解していくのを感じながら、くり返してみる。
「そうだ。自分の身を犠牲にして他人を助けようなんていうのは、義賊としては半人前以下だ。自分の身を守り、他人を助けてこそ義賊だってな。これはわたしもそう思うよ」
「兄さんや美華子ちゃんも、そう思ってるのかな?」
僕は父さんにきく。
「思ってはいるだろうが、2人とも、考えるより先に体が動くタイプだからな。あいつらが任務をこなすには、チームの中に1人、冷静なブレーキ役がいるといいとわたしは考えているんだが……圭一郎はどう思う?」
父さんの目が笑ったまま、僕を見ている。
ここまでの話の流れ……もしかして、父さんの思惑どおり?
「なんだか、うまく誘導された気がする」
…………けど、いまはそれに乗ってみるのもいいかもしれない。
父さんは、もう一度コンロに火をつけながら、笑った。
「おおいに悩め。ぶつかれ。それがおまえたちの義賊……いや怪盗のかたちを作っていくさ」
「うん。ありがとう、父さん」
僕は父さんにお礼を言って、うなずく。
避けていたって始まらない。
まずは翼先輩と話してみよう。
いつの間にか、ずっと感じていたもやもやが、晴れていた。
ためし読みはここまで。このつづきは4月5日(月)発売の単行本で読もう!
単行本は4月5日(月)発売!
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兄妹3人で、怪盗をやるのが夢だったんだーー。
離ればなれに育った翼、圭一郎、美華子。
翼は「3人で『怪盗レッド』をやろう!」と言うけれど…
圭一郎は「誰かのために命を賭ける?そんなこと、僕にはできません」って⁉︎
初代・怪盗レッド、いきなり仲間割れのピンチ!
単行本第1巻も要チェック!
作:秋木 真 絵:しゅー
- 【定価】
- 1320円(本体1200円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- B6判
- 【ISBN】
- 9784041087664