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4月5日(月)発売の『怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか?』のためし読みを、発売日まで毎日更新するよ!
累計125万部!つばさ文庫の超ヒットシリーズ「怪盗レッド」の最新書き下ろし単行本!要チェックですよ~☆
1.はじめて会った「母さん」
「はあ……」
僕――藤白圭一郎は、短いため息をついて、マンションのリビングの中をうろうろと歩く。
いまので、36周目だということは、自覚している。
「そんな圭一郎は、はじめて見るな」
父さんがキッチンの中から、おもしろがるような顔で、僕を見ている。
なにか言い返したいけど、そんなことに頭を割く余裕がない。
僕だって、らしくないのは自覚してる。
でも、落ちつかないのだから、しかたがない。
だって――――これからこの家に、はじめて母さんがやってくるんだから。
少し前、僕がはじめて、紅月の里にいった日。
曾祖父の源蔵さんと面会したあと、僕は、母さんと会うことになった。
面影の記憶もない、母親だ。
紅月の里にある、その家は、年代を感じさせるけど、手入れがいき届いた古民家だった。
ここで、翼先輩と美華子ちゃんの兄妹が育ったんだと思うと、なんとなく不思議に感じる。
「さあ、圭一郎、遠慮なんかするなよ」
翼先輩に背中を押されて、玄関に足をふみ入れる。
「塔子さん、連れてきたよ!」
父さんが、家の奥に向かって声をかける。
その声に反応して、部屋の奥から、バタバタと足音がして、1人の女性が姿を見せた。
活動的な雰囲気のある人だ。
「圭一郎。……母さんだ」
父さんが、短く告げる。
そうだろうとは、見た瞬間、わかった。
美華子ちゃんにそっくりで、そしてどこか、翼先輩にも似ていた。
僕の兄である翼先輩と、妹である美華子ちゃんに似ているとすれば――それは、僕の母さんだろう。
状況的に判断して、そう推測できたというだけだ。
それぐらい、僕には、目の前の女性が、母親だという実感がなかった。
実感がわかないのは、翼先輩と美華子ちゃんと兄妹だという事実以上かもしれない。
それでも、言葉をかわせば、なにか思い出すこともあるだろうか。
そんなふうに思っていると、
「あ……ああ……」
母さんが僕を見つめたまま、ポロポロと瞳から大粒の涙をこぼしはじめる。
それはだんだんとはげしくなり、最後には両手で顔を覆ってしまう。
「……ごめんなさい……。ごめんなさい……圭一郎……」
その場に、くずおれるように泣く母さんに、父さんはそっとよりそい、背中をなでている。
突然のことに、僕はどう反応していいか、わからなかった。
このままだと、当分、会話になりそうもない。
それに、明日は学校がある。
ここに泊まるわけにはいかないし、そろそろ帰らないと、家に着くころには深夜を越えてしまう。
そんなことを冷静に考える自分が、ちょっとだけ嫌だった。
おたがいに、少し心の整理がついてから、あらためて会う。
そういうことにして、僕はその場を立ち去るしかなかった。
そして、その「あらためて」が、今日だった。
父さんの話だと、母さんがあんなふうに泣きくずれるのを見たのは、はじめてだったそう。
でも、僕としては、反応に困るとしか言いようがない。
ほとんど記憶がない僕には、「母さんが泣いた」というより「目の前で、女性が泣いた」という印象が、どうしたって強くなる。
ただ、母さんが、ずっと苦しんでいたということは、あの泣き顔から痛いほど伝わってきた。
母さんには悪いけれど、「忘れられていたわけじゃなかったんだ」と、どこか安心を感じたのも事実だ。
そんな気持ちなのに、また顔を合わせるとなれば、僕が落ちついていられるわけがない。
「圭一郎、少しはすわって、落ちついたらどうだ?」
父さんが言いながら、リビングにやってくる。
落ちついた父さんの様子が、うらめしい。
父さんは、家族の中で唯一、家族全員とずっとやりとりがあったらしい。
僕とは、ずっといっしょに暮らしていたし、翼先輩や美華子ちゃん、母さんとも、定期的に会っていたみたいだ。
そりゃあ、落ちついていられるよ……。
そんなふうに、皮肉な気持ちになっていると、
ピンポーン
インターホンが鳴り、僕は体をビクッとさせる。
動こうにも、自分の意志に反して、体が動かない。
僕が立ち上がらないのを見て、父さんが玄関に向かう。
「おじゃましま~す!」
美華子ちゃんの元気な声が、玄関のほうからきこえてくる。
やがてリビングに、美華子ちゃんと翼先輩が、いつもどおりの姿を見せ……少し遅れて、父さんといっしょに、母さんが姿を見せる。
母さんの姿を見た瞬間、心臓の音がドクンドクンと速くなる。
背中には、たらりと変な汗が流れる。
それが、僕と母さん――紅月塔子との、2度目の再会だった。
<第2章へつづく>
単行本は4月5日(月)発売!
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兄妹3人で、怪盗をやるのが夢だったんだーー。
離ればなれに育った翼、圭一郎、美華子。
翼は「3人で『怪盗レッド』をやろう!」と言うけれど…
圭一郎は「誰かのために命を賭ける?そんなこと、僕にはできません」って⁉︎
初代・怪盗レッド、いきなり仲間割れのピンチ!
単行本第1巻も要チェック!
作:秋木 真 絵:しゅー
- 【定価】
- 1320円(本体1200円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- B6判
- 【ISBN】
- 9784041087664