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7.4人のお弁当タイム
しばらく、4人で遊園地をまわっていく。
メリーゴーランドに、ミラーハウス。カートや、遊園地のキャラクターのパレードなど、笑いあいながら楽しく時間を過ごす。
「だいぶお昼ご飯の時間を、過ぎちゃったわね」
緑谷先輩が腕時計を見ながら言う。
たしかに、もう1時近い。
お昼をとっくに回っていたのに、気がつかなかった。
「この時間だと、まだレストランは混んでるね」
園内にあるレストランを見て、黄瀬さんが言う。
「ああ。それならおれが弁当を作ってきたから、食べないか?」
翼先輩が、持っていた大きなバッグを持ちあげて言う。
「え、紅月先輩が!?」
黄瀬さんがおどろいている。
「もしかして、翼先輩、それを作っていたせいで、時間ギリギリになったんですか?」
僕は待ち合わせのときのことを思い出して、たずねる。
「ああ。4人分は、思ったより手間がかかってな」
翼先輩は、照れたように笑って頭をかく。
「それなら、そう言ってくれればよかったのに。待ち合わせのときは、よけいなこと言っちゃってごめんなさい」
緑谷先輩が、頭を下げてあやまる。
「いや。ギリギリだったのは事実だしな。弁当を作ってきたのは、おれの勝手だ。で、どうする?」
翼先輩が、僕たちを見まわす。
「もちろん、いただくわ。翼くんの料理はおいしいもの」
緑谷先輩がうなずく。
「翼先輩の料理なら、楽しみですね」
僕も同じ意見だ。
翼先輩が作った料理で、おいしくなかったものはない。
「え? え? どういうこと?」
黄瀬さんだけが、翼先輩の料理の腕を知らないので、とまどっている。
言葉で説明してもいいけど、どうせすぐにわかることだ。
論より証拠。
黄瀬さんには悪いけれど、もう少しだけとまどっていてもらおう。
近くの飲食オーケーの芝生エリアに、翼先輩が用意してきたレジャーシートをしく。
「足りるかどうか、わからないが」
翼先輩はそう言って、バッグから重箱になったお弁当箱をとりだす。
その数、5段。
翼先輩は、5段重ねの重箱を手ぎわよく広げていく。
……いや。この量で足りないということはないです。
僕は広げられたお弁当を見て、肩をすくめる。
「みんなが食べやすそうなものを、選んだつもりだ。好きなのを食べてくれ」
と翼先輩が両手を広げた。
サンドイッチ、から揚げ、卵焼き、ミニハンバーグ、エビフライ、ひじきのサラダ、ほうれんそうの胡麻和え、かぼちゃの煮物などなど。
一品そのものは凝っていなくても、お弁当の定番で、どれもおいしそうだ。
「こ、これ……全部、紅月先輩が作ったんですか!?」
黄瀬さんは、お弁当を見て、目を見開いている。
「ああ。こう見えて、料理が趣味でな。似合わないだろ?」
翼先輩に言われて、黄瀬さんは、ブンブンと首を横に振る。
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「そんなことまったくないです。すごいですよ! わたしも少しは料理するので、これだけ作るのがどれくらい大変なことか、わかりますから!」
うん。僕もそのとおりだと思う。
翼先輩の料理は、まったく謙遜する必要なんてない。
努力を積み重ねてきたから、これだけのものが作れるようになったんだろう。
もっと誇ってほしいぐらいだ。
「そうか? 味も気に入ってくれるとうれしいんだが」
翼先輩は、照れくさそうに笑う。
「そうね。さっそくいただきましょう」
緑谷先輩が言って、僕たちはそれぞれに箸を持つ。
「「「「いただきます!」」」」
4人で手をあわせてから、お弁当に箸をのばす。
「お、おいしい! なにこれ……こんなおいしい卵焼き、はじめて食べたかも……」
黄瀬さんは、卵焼きを食べて、目を白黒させている。
「う~ん……やっぱり翼くんの料理はおいしいわ」
緑谷先輩は、ほおをゆるませている中にも、ちょっとくやしそうな表情が見える。
もしかしたら緑谷先輩も料理をするのかもしれない。
「おいしいです」
僕は短く言って、2つ目のミニハンバーグに箸をのばす。
「そいつはよかった」
それを見て、翼先輩が満足げな顔で、自分もサンドイッチをつまむ。
多いと思っていたお弁当の中身が、次々と減っていく。
そうして30分後。
残さずお弁当を食べ終えた僕たち4人は、これまた翼先輩が用意してきた、ほうじ茶を飲んでいた。
熱すぎず、ぬるすぎない、ちょうどいい温度だ。
ふうぅ……。
「おいしくて、ついつい食べすぎちゃったわ」
緑谷先輩が、うらめしそうに翼先輩を見る。
「それは、おれのせいじゃないだろう」
「わたしも食べすぎちゃった……でも満足です」
黄瀬さんは、幸せそうに、ほうじ茶をすすっている。
僕たちは食後のひと息をつくと、レジャーシートを片づけることにした。
僕と翼先輩でレジャーシートをたたんでいるうちに、緑谷先輩が黄瀬さんをよんで、僕たちから少し離れて、なにか話をしている。
「…………くんのこと……だよね…………」
「あ、いや、その…………」
「…………だから…………きょう…………できな…………と思って……」
「え………じゃあ…………なんですか……」
とぎれとぎれにしか、2人の会話はきこえない。
緑谷先輩がおもに話して、それに黄瀬さんがあたふたと答えているみたいだ。
「2人でなにを話してるんだろうな? こっちで話せばいいだろうに」
翼先輩は、のんびりとした口調で言う。
「翼先輩は、のんきでいいですね」
おそらくあれは、緑谷先輩が、黄瀬さんに「協力する」というような話だと思う。
黄瀬さんのわかりやすい態度や表情に、緑谷先輩が気がつかないわけがない。
それにしても、翼先輩は、こういうことには察しが悪いんだよな。
ふだんは、野性の勘みたいなのが働くのに。
少しして、緑谷先輩と黄瀬さんがもどってくる。
「ねえ、2人とも。ちょっといい?」
「なんだ?」
声をかけてくる緑谷先輩に、翼先輩が、きょとんとした顔で応じる。
「提案があるんだけど。ここからしばらく、2人ずつペアになってまわらない? ほら、翼くんがまわりたいアトラクションと、藤白くんがまわりたいところって、けっこうちがうでしょ。わたしと美緒ちゃんもちがうみたいだから」
「ん? だけど、せっかく4人で遊びにきたのに……」
「でも、このほうが、合理的よ。ね? 藤白くん」
緑谷先輩が、こちらに視線を送ってくる。
まさか、ここで断るわけがない。
「そのとおりだと思います」
「……まあ、たしかにそのほうが、いろんなものに乗れるか。じゃあ、よろしく、黄瀬さん」
翼先輩も、納得したようだ。
「は、はい!」
黄瀬さんが、顔を赤くしてこたえる。
「それじゃあ、1時間後にこの場所で集合ね。なにかあれば、携帯電話で連絡をとりあいましょう」
緑谷先輩の手ぎわのよさに、すぐに話がまとまって、僕たちは二手に分かれて、遊園地を歩きはじめた。
<第8章へつづく>
単行本は4月5日(月)発売!
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兄妹3人で、怪盗をやるのが夢だったんだーー。
離ればなれに育った翼、圭一郎、美華子。
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作:秋木 真 絵:しゅー
- 【定価】
- 1320円(本体1200円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- B6判
- 【ISBN】
- 9784041087664