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4月5日(月)発売の『怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか?』のためし読みを、発売日まで毎日更新するよ!
累計125万部!つばさ文庫の超ヒットシリーズ「怪盗レッド」の最新書き下ろし単行本!要チェックですよ~☆
9.小さな尾行者
電車をおりて駅から出ると、もう日が落ちていた。
足早に駅に出入りする人たちが、多くいる。
ここからは、緑谷先輩と黄瀬さん、翼先輩と僕とで、方向が分かれてしまう。
「家まで送っていかなくて、大丈夫か?」
翼先輩が、緑谷先輩と黄瀬さんにたずねる。
「大丈夫よ。人どおりもだいぶあるし、家にも連絡してあるから。じゃあね。圭一郎くん、翼くん」
「わたしも大丈夫です。今日はいっしょにいけて、うれしかったし楽しかったです!」
緑谷先輩と黄瀬さんが、それぞれ答える。
「お礼を言うのは、こっちだよ。今日は誘ってくれてありがとう、黄瀬さん」
「そうだな。また遊びにいこうぜ」
僕と翼先輩が言うと、黄瀬さんはうれしそうに頬をほころばせる。
「また明日ね。……あ、翼くんは、このあと圭一郎くんを無理に連れまわしたりしないのよ」
緑谷先輩が、ジロリと翼先輩をにらむ。
「しないっての!」
翼先輩が言って、僕たちは笑う。
最後にもう一度あいさつを交わして、僕たちは二手に分かれて、反対方向に歩きだす。
駅から50メートルほどはなれたところで、不意に翼先輩が立ち止まった。
「翼先輩?」
駅からはなれたので、あたりの人どおりは、だいぶ減っている。
「…………そろそろ出てきたらどうだ?」
翼先輩が、急に路地のかげに向けて言う。
「え? 翼先輩、いったいなにを……」
僕は驚いて、翼先輩が視線を向けているほうを見る。
だれかいるのか?
僕は思わず身がまえる。
身がまえたって、なにかできるわけじゃないけど、とっさのことだ。
「あれ~、やっぱり翼お兄ちゃんには、ばれちゃってたか」
こ、この声って……。
「美華子ちゃん!?」
僕は声を上げる。
ひょっこり、と路地から姿を見せたのは、美華子ちゃんでまちがいない。
棒つきのキャンディーをなめながら、いつものように、ひょうひょうとした様子で、僕たちのほうにやってくる。
「まったく。ずっと尾行してただろ」
翼先輩が、あきれたように言う。
「もしかして、朝から?」
僕は驚きながら、きく。
「うん、そうだよ」
美華子ちゃんは、あたりまえのようにうなずく。
「なんのためにそんなことを?」
僕は理由がわからず、疑問をぶつける。
「そりゃあ、将来のお姉ちゃんになる人かもしれないんだから、気になるでしょ」
「お姉……って、気が早すぎる……っていうか、そんなことないから!」
さらりと言う美華子ちゃんに、僕は思わず大きな声を出す。
「そう?」
美華子ちゃんは、首をかしげる。
……なにを考えているんだよ、美華子ちゃん。
そこまで考えて、自分の失言に気がついた。
べつに美華子ちゃんの義理のお姉ちゃんは、僕の結婚相手だけじゃない。
翼先輩の結婚相手も、当然ながら義理のお姉ちゃんだ。つまり、黄瀬さん。
それなのに、僕は自分のことだけを想像して、答えてしまった。
頬がカッと熱くなる。
「まあ、いいじゃないか。美華子の尾行には気がついてたが、べつに問題ないだろうってほうっておいたんだし」
翼先輩は、なんでもないことのように言う。
あいかわらず、翼先輩は大ざっぱすぎる。
その大ざっぱのおかげか、さっきの僕の失言には、2人ともつっこんでこないけど。
「ところで、お兄ちゃんたち。1つ報告があるんだけど」
美華子ちゃんが、急に真面目な顔になる。
「なんだ?」
翼先輩も、真剣な顔で応じる。
僕も気になって、思考を切りかえる。
「お兄ちゃんたちを尾行してたときに、ちょっと変なやつらを見かけたんだよね」
「おれたちを狙っていたのか?」
翼先輩が目を細くする。
「ううん。偶然そこにいただけだと思うよ。でも、あまり見かけない、ふつうじゃない感じのやつらだったな。その中の1人に、右腕にナイフで切られたような古傷があってね。傷跡だけなら、なにかの事件の被害者ってこともあり得るけど、そいつは、わざわざ傷の近くに入れ墨を入れてて、自慢してる感じだったよ」
美華子ちゃんは、思い出す顔をしながら答える。
観察眼の鋭い美華子ちゃんの話だから、ただ「怪しい」というだけじゃなかったんだろう。
僕ではわからないけれど、わざわざ報告するぐらいだから、雰囲気や立ち振る舞いに、気になるところがあったんだと思う。
「そうか……」
翼先輩は、少し考えこむ顔になる。
「だけど、お兄ちゃんたちのデートを尾行することのほうが、重要だったからね! 途中で道が分かれたから、それからは見てないよ」
美華子ちゃんは、あっさりと言う。
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僕は苦笑いしつつも、ちょっとだけその怪しいやつらというのが、心に引っかかる。
でも、考えるだけムダか。
世の中では、毎日のように犯罪が起きている。
「犯罪を起こしそうなやつら」、なんていう疑いだけで、気にしていたら、きりがない。
そう考えて、僕は美華子ちゃんの話を、頭のすみに追いやった。
<第10章へつづく>
単行本は4月5日(月)発売!
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兄妹3人で、怪盗をやるのが夢だったんだーー。
離ればなれに育った翼、圭一郎、美華子。
翼は「3人で『怪盗レッド』をやろう!」と言うけれど…
圭一郎は「誰かのために命を賭ける?そんなこと、僕にはできません」って⁉︎
初代・怪盗レッド、いきなり仲間割れのピンチ!
単行本第1巻も要チェック!
作:秋木 真 絵:しゅー
- 【定価】
- 1320円(本体1200円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- B6判
- 【ISBN】
- 9784041087664