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【ためし読み】怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか? - 2.少しずつ家族になる


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2.少しずつ家族になる

「こんにちは。圭一郎」
 母さんはこの間とはちがって、ぎこちなさはあるものの、落ちついた様子であいさつしてくる。
 でも、その表情は、僕への申しわけなさを感じていることが、はっきりと窺える。
「……こんにちは」
 僕も、そっけないあいさつを返す。
 愛想悪くするつもりなんてなかったのに、顔が引きつってうまくいかない。
 できることなら、いますぐに部屋にこもるか、家から逃げだしたい気分だ。
 でも、そうしたところで、問題を先延ばしするだけで、なにも前に進まないのはわかってる。
「とりあえず、すわろうぜ」
 翼先輩が、まるで我が家にいるように、どっかりとリビングのソファにすわる。
 ある意味では「我が家」なんだから、いいんだけど、こんなときでも遠慮がなさすぎないだろうか。
「あっ! 観たかったアニメがある!」
 美華子ちゃんが、テレビのわきにおいてあった、DVDのパッケージを目ざとく見つける。
 有名なアメリカのアニメ制作会社が作ったアニメ映画で、僕ではなく、映画好きの父さんの持ち物だ。
「いいな。観ようぜ」
 翼先輩が言って、さっそく美華子ちゃんがDVDをプレイヤーにセットしている。
「あなたたちねぇ……」
 あまりに場の空気を読まない行動に、母さんがあきれたように、翼先輩と美華子ちゃんを見る。
 僕に、翼先輩がくちびるのはしを上げた笑みで、目配せしてくる。
 気をつかわれたってことか……。
 そんなことは、すぐにわかったけど、やるならもう少しさりげなく……いや、ちがうか。
 わざとわかりやすく、やったんだ。
 前の事件のとき、美華子ちゃんの演技力を見せてもらった。
 しようと思えば、僕もだまされるぐらいの演技を、美華子ちゃんはできるはずだ。……翼先輩はわからないけど。
 だけど、そうしなかった。
 バレバレの演技をして、わざと場を和ませようとしてくれた。
 ……まあ、本気でアニメを観はじめちゃっているけど。
 まったく。
 2人の様子に、ガチガチに緊張していたことがバカらしくなってくる。
 僕はダイニングテーブルのイスにすわる。
 それを見て自然に、向かい側に、父さんと母さんがならんで、すわった。
「まずは、改めてあやまらせて。本当にごめんなさい、圭一郎。あなたとずっと、いっしょにいられなかったこと、それにこの間、泣いて困らせてしまったこと。圭一郎のほうがつらかったはずなのに……」
 母さんが、深く頭を下げる。
 僕は、小さく首を横にふる。
「あやまらないでよ。正直言えば、2人きりだった家族が、急に倍以上の人数になったことに、とまどってるけど……うらんだり憎んだりしたことはないよ」
 それに、物心ついたときから我が家には「母親」がいなかったから、父さんとの2人きりの家族のかたちに不満を抱いたこともない。
「……強いてうらみごとを言うなら、僕にずっとウソをついてきた、父さんに対してじゃないかな?」
「わ、わたしか!?」
 急に矛先が向いて、おどろく父さん。
 あの顔は、本気でびっくりしているな。
「そうだよ。近くにいたのに、僕をだましていたのは、父さんじゃないか」
「うっ……それはそうなんだが」
 父さんが、肩を落とす。
「でも、そうするように決めたのは、私と怜二さんの2人なのよ」
 母さんが言う。
 きいたところによると、幼いころの僕は病弱で、とても将来、紅月の里の仕事が務まるとは思えなかったそうだ。
 そこで、両親は考えて、父さんが里の外での調査活動の役目をする代わりに、僕を連れ出し、紅月の里と無関係の存在にした。



 それで僕の名字は「藤白」となり、名前には、長男につけることの多い「一郎」が入ったというわけだ。
「まだあなたに対して、母親だっていう実感がわいてないから、そう思うのかもしれない。でも、うらみも憎しみもないというのは、本当だよ。それに、先にあの2人に会っているから、いずれ母親が現れることも、想像していたし」
 僕は、翼先輩と美華子ちゃんを、目で示す。
 2人は、完全に、テレビ画面に夢中になっている。
 これは……演技じゃないな。
「ドライすぎないか、圭一郎」
 父さんは、僕の言葉に、あきれ気味だ。
 ドライといえば、そうかもしれない。だけど……。
「翼先輩と美華子ちゃんと先に会っていれば、こんなもんだよ。あの2人の印象がとんでもなかったんだ」
 僕は、アニメ映画に食いついている2人を見て、小さく笑う。
 2人が、ただの中学生と小学生じゃないことは、この間の事件にいっしょに立ち向かって、証明済みだ。
 そんな2人が、僕の兄と妹だなんて言われたんだから、うらみだの憎しみだのなんて、感じる余裕もない。
「いたって、ふつうのアニキをつかまえて、その言い草はないだろう」
 翼先輩が抗議の声を上げる。
 映画に夢中になっていたように見えて、こっちの話をちゃんときいていたらしい。
「銃を持ったテロリストを素手で制圧する中学生が、ふつうのアニキって、どんな世界なんですか」
 僕はそんな世紀末に、生まれた覚えはない。
「人をヒグマかなにかみたいに言うなよ!」
「ヒグマ……たしかに言い得て妙ですね」
 僕は、大きくうなずく。
 翼先輩にクマのイメージは、よく似合う。
「おいっ!」
 すかさず、翼先輩のツッコミが入るけど、僕は気にしない。
「もう、あなたたちったら……」
 クスクスと笑い声がきこえたと思って、正面を向くと、母さんがおかしそうに口元をおさえている。
 そういえば、母さんの笑った顔ははじめて見たかもしれない。
 こんなふうに、笑う人なんだな。
 再会してからずっと、泣き顔や、悲しそうだったりする顔ばかりを見ていたから、ほっとする。
「そんなわけだから、気に病まないでほしい、です。かえって話しづらいから。え~と……母さん」
 僕はつっかえつつも、はじめて「母さん」と呼びかける。
「圭一郎……そうね。その言葉、ありがたく受け取らせてもらうわ。このままだと、いつまでたっても距離をつめられそうにないものね」
「遠慮がなくなったおふくろは、怒らせると怖いから、気をつけろよ、圭一郎」
 翼先輩が、ソファにすわったまま、茶々を入れてくる。
「あら、翼? さっそく、その怖さをいま、味わいたいのかしら?」
 母さんが、迫力のある笑みをうかべる。
「冗談だよ、冗談! 場を和ませようとしただけだろう」
 あわてて言う翼先輩の様子に、僕は思わずふきだす。
「ほら、圭一郎にあきれられちゃったじゃない」
「おふくろが、悪ノリしてくるからだろう……」
 2人がいい関係なのが、よくわかる。
 きっと、翼先輩は、母さんを何度も怒らせているんだろう。
「母さんと、そんなふうになるのは、すぐにはムリです。……だけど、少しずつ話し方とか呼び方とか、距離感とか、色々と変えていけたらと思ってる」
 僕は、素直な気持ちを言葉にする。
 母さんを、嫌っているわけでも、避けたいわけでもない。
 ただ、慣れなくて、どう接していいのかわからないだけだ。
「それでいいわ。十分よ。圭一郎が、私たちのことを受け入れてくれるだけで、夢みたいだもの。だから、あせらないし、あせらせるつもりもないわ。ゆっくり家族になりましょう」
 母さんが、うれしそうに微笑む。
 生まれてはじめて見る、優しさだけがあふれているような笑みに、僕はとまどう。
 これが母親っていうものなのかな?
 まだ、よくわからない。
 だけど、翼先輩や美華子ちゃんもいる。
 ゆっくりと、みんなで家族になれればいい。
 なんといっても僕は、父親以外の家族は、初心者もいいところなんだから。
 いきなりむずかしいことなんて、できるわけがない。
 そんなふうに、2度目の母さんとの出会いは、おだやかに時間がすぎていった。

<第3章へつづく>

単行本は4月5日(月)発売!



兄妹3人で、怪盗をやるのが夢だったんだーー。
離ればなれに育った翼、圭一郎、美華子。
翼は「3人で『怪盗レッド』をやろう!」と言うけれど…
圭一郎は「誰かのために命を賭ける?そんなこと、僕にはできません」って⁉︎
初代・怪盗レッド、いきなり仲間割れのピンチ!


作:秋木 真 絵:しゅー

定価
1320円(本体1200円+税)
発売日
サイズ
B6判
ISBN
9784041101650

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作:秋木 真 絵:しゅー

定価
1320円(本体1200円+税)
発売日
サイズ
B6判
ISBN
9784041087664

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