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ものがたり

【ためし読み】怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか? - 1.はじめて会った「母さん」


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1.はじめて会った「母さん」

「はあ……」
 僕――藤白圭一郎は、短いため息をついて、マンションのリビングの中をうろうろと歩く。
 いまので、36周目だということは、自覚している。
「そんな圭一郎は、はじめて見るな」
 父さんがキッチンの中から、おもしろがるような顔で、僕を見ている。
 なにか言い返したいけど、そんなことに頭を割く余裕がない。
 僕だって、らしくないのは自覚してる。
 でも、落ちつかないのだから、しかたがない。
 だって――――これからこの家に、はじめて母さんがやってくるんだから。

 少し前、僕がはじめて、紅月の里にいった日。
 曾祖父の源蔵さんと面会したあと、僕は、母さんと会うことになった。
 面影の記憶もない、母親だ。
 紅月の里にある、その家は、年代を感じさせるけど、手入れがいき届いた古民家だった。
 ここで、翼先輩と美華子ちゃんの兄妹が育ったんだと思うと、なんとなく不思議に感じる。
「さあ、圭一郎、遠慮なんかするなよ」
 翼先輩に背中を押されて、玄関に足をふみ入れる。
「塔子さん、連れてきたよ!」
 父さんが、家の奥に向かって声をかける。
 その声に反応して、部屋の奥から、バタバタと足音がして、1人の女性が姿を見せた。
 活動的な雰囲気のある人だ。
「圭一郎。……母さんだ」
 父さんが、短く告げる。
 そうだろうとは、見た瞬間、わかった。
 美華子ちゃんにそっくりで、そしてどこか、翼先輩にも似ていた。
 僕の兄である翼先輩と、妹である美華子ちゃんに似ているとすれば――それは、僕の母さんだろう。
 状況的に判断して、そう推測できたというだけだ。
 それぐらい、僕には、目の前の女性が、母親だという実感がなかった。
 実感がわかないのは、翼先輩と美華子ちゃんと兄妹だという事実以上かもしれない。
 それでも、言葉をかわせば、なにか思い出すこともあるだろうか。
 そんなふうに思っていると、
「あ……ああ……」
 母さんが僕を見つめたまま、ポロポロと瞳から大粒の涙をこぼしはじめる。
 それはだんだんとはげしくなり、最後には両手で顔を覆ってしまう。
「……ごめんなさい……。ごめんなさい……圭一郎……」
 その場に、くずおれるように泣く母さんに、父さんはそっとよりそい、背中をなでている。
 突然のことに、僕はどう反応していいか、わからなかった。
 このままだと、当分、会話になりそうもない。
 それに、明日は学校がある。
 ここに泊まるわけにはいかないし、そろそろ帰らないと、家に着くころには深夜を越えてしまう。
 そんなことを冷静に考える自分が、ちょっとだけ嫌だった。
 おたがいに、少し心の整理がついてから、あらためて会う。
 そういうことにして、僕はその場を立ち去るしかなかった。

 そして、その「あらためて」が、今日だった。
 父さんの話だと、母さんがあんなふうに泣きくずれるのを見たのは、はじめてだったそう。
 でも、僕としては、反応に困るとしか言いようがない。
 ほとんど記憶がない僕には、「母さんが泣いた」というより「目の前で、女性が泣いた」という印象が、どうしたって強くなる。
 ただ、母さんが、ずっと苦しんでいたということは、あの泣き顔から痛いほど伝わってきた。
 母さんには悪いけれど、「忘れられていたわけじゃなかったんだ」と、どこか安心を感じたのも事実だ。
 そんな気持ちなのに、また顔を合わせるとなれば、僕が落ちついていられるわけがない。
「圭一郎、少しはすわって、落ちついたらどうだ?」
 父さんが言いながら、リビングにやってくる。
 落ちついた父さんの様子が、うらめしい。
 父さんは、家族の中で唯一、家族全員とずっとやりとりがあったらしい。
 僕とは、ずっといっしょに暮らしていたし、翼先輩や美華子ちゃん、母さんとも、定期的に会っていたみたいだ。
 そりゃあ、落ちついていられるよ……。
 そんなふうに、皮肉な気持ちになっていると、
   ピンポーン
 インターホンが鳴り、僕は体をビクッとさせる。
 動こうにも、自分の意志に反して、体が動かない。
 僕が立ち上がらないのを見て、父さんが玄関に向かう。
「おじゃましま~す!」
 美華子ちゃんの元気な声が、玄関のほうからきこえてくる。
 やがてリビングに、美華子ちゃんと翼先輩が、いつもどおりの姿を見せ……少し遅れて、父さんといっしょに、母さんが姿を見せる。
 母さんの姿を見た瞬間、心臓の音がドクンドクンと速くなる。
 背中には、たらりと変な汗が流れる。
 それが、僕と母さん――紅月塔子との、2度目の再会だった。

<第2章へつづく>

単行本は4月5日(月)発売!



兄妹3人で、怪盗をやるのが夢だったんだーー。
離ればなれに育った翼、圭一郎、美華子。
翼は「3人で『怪盗レッド』をやろう!」と言うけれど…
圭一郎は「誰かのために命を賭ける?そんなこと、僕にはできません」って⁉︎
初代・怪盗レッド、いきなり仲間割れのピンチ!


作:秋木 真 絵:しゅー

定価
1320円(本体1200円+税)
発売日
サイズ
B6判
ISBN
9784041101650

単行本第1巻も要チェック!


作:秋木 真 絵:しゅー

定価
1320円(本体1200円+税)
発売日
サイズ
B6判
ISBN
9784041087664

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